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「大丈夫だから、出て来て良いよー。」



へらりと笑って天井に声を掛けた佐助。
すると、天板がぱかりと外され、一つの影がひょこりと逆さまに姿を見せた。



「、なぁっ!?」

「先刻のくのいちか…」

「………」



それは、狐の面をした一人の少女。
幸村は、隠そうとしていた存在の登場に驚き、少し安堵して。
幸村に覗いた口元だけで笑みを向け、天弧仮面、もといゆみはすとりと降り立って小十郎にぺこりとお辞儀をした。



「い、いつから其処に?」

「…先刻の、伊達殿が飛び出す前から…
六の手当ても丁度終わったから、今、追ってくれてる…」



とたとたと幸村に寄り、受け答えをしながらゆみは彼の頬に触れた。
政宗の所為で一筋の切り傷を残した右頬に。
幸い、それ程酷い傷でもない。
ホッと安心したゆみは、幸村の背後に隠れるように移動し、ひょこりと顔だけ覗かせて小十郎を見詰めた。



「…そいつ、本当にくのいちか?
真田も、あんまり動じてねぇみたいだが…」

「………」

「旦那、右目の旦那なら大丈夫じゃない?」

「…うむ、そうだな。」



幸村は腰を下ろし、ゆみにも隣に座るよう目配せをした。
含まれた意図も察し、ゆみは幸村の隣にすとりと正座をすると、ゆっくりと面を括る紐に手を掛けた。



「…武田信玄が娘、ゆみと申します。」

「、…!?」



スッと外された面。
露わになった美しい少女の表情とその正体に、小十郎は息を飲んだ。
くのいちと言うには場慣れしていない様子だったが、まさか噂の姫君だとは思わなかった。
綺麗な所作で畳に指先を添えて頭を下げたゆみは、その済んだ紺碧の瞳でジッと小十郎を見詰めた。



「この通り、ゆみちゃんは可愛い子だからさー。
竜の旦那に見せるのは、ちょっと抵抗があるんだよねー。」

「…確かに、政宗様のあの様子じゃな…
正式な婚礼も未だと聞く。
あの方なら、攫っちまうことも有り得るな…」



苦笑する佐助に、小十郎は自らの主君を思い浮かべて重い溜め息を吐いた。
幼い子供のような我が儘さと強引さを併せ持った政宗は、本当にこの姫君を攫いかねない。
其れほどに、目の前のゆみは人を惹き付けるものを持っていた。
小十郎の言葉に不安を濃くして顔を歪めた幸村。
ゆみは、彼の手をそっと取り、ふわりと微笑んだ。



「何があっても、私は幸のもの…
心配、しないで…?」

「ゆみ…」



柔らかな微笑み。
暗に独占しても良いとの言葉。
幸村は少し頬を赤くしながらも、ゆみの手を握り返しながら微笑んだ。



「………猿飛、この甘ったるい空気はいつもか?」

「あはー。
見せられるこっちは堪んないよねー。」



互いに手を取り合って見詰め合う。
幸村とゆみのほのぼのとしつつも何処か熱を感じる空気に中てられた二人は堪らない。
思わず砂を吐いてしまいそうな甘ったるさに小十郎は居心地の悪さを感じ、毎日見せられている佐助は苦笑。

そんな様子に気付かぬ若い二人は、穏やかな笑みを絶やさず只管に見詰め合うのだった。



所謂、バカップルです。



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