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「あー…やっぱり竜の旦那かぁ…」

「、竜…」



苦々しく零す佐助に、ゆみは蒼い男をじっと見る。
三日月の鍬形付き兜、右目の眼帯、そして、『竜』の呼び名。
ゆみの記憶が確かなら、それに当て嵌る武将が一人だけ居た。



「伊達…政宗…?」

「え?ゆみちゃん、知ってるの?」

「見たのは、初めて…」



ぽつりと零した呟きに驚く佐助に確信を得て頷いた。
独眼竜と呼ばれた奥州の武将、伊達政宗。
歴史の教科書で見た政宗はおじさんで、英語を喋るとも六刀流だとも史実には記されていない。
勿論、それは幸村にも当て嵌る事なのだが。



「竜の旦那はうちの旦那の好敵手だからねぇー。」

「…」



好敵手。
ならば、それ程悪い仲ではないのだろう。
少し安堵しながらも、ゆみは静かに政宗の動向を見守る。



「真田幸村ァ!!
いつもの覇気はどうした!?」

「だから、某は今はそういう気分ではないのだ!!
引き取って下され!!」



馬から飛び降り、とうとう上田城の広い庭まで辿り着いた二人。
けれど、攻防を止めることはなく怒鳴り合いも続く。
変わらず見ていたゆみは、次の瞬間ピクリと眉を跳ねさせた。



「Ha!!聞こえねぇなあ!!
DETH FANG!!」

「ぬぅ!?」

「―――っ!!」

「ちょ、ゆみちゃん!?」



政宗が声高に叫んで繰り出した刀が、幸村の頬に一筋の傷を描いた。
それを見た瞬間、ゆみは何処からか二本の苦無を取り出し、佐助の制止を聞かぬ侭に飛び降りていて。



―――ギィ…ンッ!!

「Ah!?」

「な…っ!?」

「マジで…!?」



金属がぶつかり合う鈍い音。
二本の苦無に冷気を纏い、それで六本の刀を受け止めた少女に、彼等は瞠目した。



「な、何をして居るのだ!?」

「Hey,girl!アンタ、何者だ?」



キィ…ンと、刀を凪ぎ払い、幸村を守るように政宗に向かって苦無を構える細い腕、薄い身体。
天弧の面で顔を隠した彼女がゆみだと気付いた幸村は驚き慌て、政宗は隻眼を細める。
どう見ても戦闘慣れした様子はない。
けれど、自分に向けられている冷たい怒りは、思わず息を飲んでしまいそうな程。



「―――幸を傷付けるのなら、誰であろうと…許さない…」



低く唸るような声には政宗だけでなく、幸村と佐助も息を飲んだ。
人を殺めたことなど無いだろう少女が纏うのは、強く凶暴な感情。

幸村を守り仕える忍のようだが、どうも違う。
全てが政宗の興味を強く惹き、ひとつの仮定を生み出した。



「アンタ…ひょっとして真田の大事なPrincessか…?」

「………」



口角を愉しげに吊り上げた政宗。
Princessの意味が分からない幸村と佐助。
ゆみは否定も肯定もすることなく、ただジッと政宗を見据えていた。



生まれたのは、無垢故の凶暴な心。



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