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「まあまあ、姫様!
今度は何をお作りになっていらっしゃるんですか?」

「…マカロン…これ、好きだったの…」



今日もほのぼのとした時間が流れる上田城。
厨で自分の生まれた時代にある甘味を、色々試行錯誤しながらこの時代にある物で作るのが、最近のゆみのもう一つの日課だった。
後の一つは、相変わらずの鍛錬なのだが。

甘い香りが漂い出せば、女中が次々と厨に集まってくる。
小さな姿でも元の年相応の姿でも、どうにもゆみと言う存在自体が愛らしくて堪らない女中達は、戸惑いながらも接してくれるゆみが大好きなのだ。



「姫様のお好きな甘味ですか!
今度、私共にも作り方を教えて下さいまし!」

「………………ダメ。」



またも自分達が見たことも聞いたこともない甘味を必死で作っている少女を手伝いたくて作り方を聞けば、たっぷりの間の後に拒絶を示される。
まだ心を許しきってくれた訳ではないのかと女中達は落ち込むが、それもどうやら杞憂。



「私が、みんなに…してあげられる、たった一つだから…
私が作ったものを…食べて欲しいの…」

「姫様…っ!?」



真っ赤になって、ぽそぽそと懸命に心を伝える様の何と愛しいことか。
嬉しそうに笑ったり、思わず涙する女中達を見て、ゆみもまた嬉しそうにはにかんだ。



「ちょっとずつしか食べて貰えなくて、申し訳、ないけど…」

「いいえ!
私共は、そんなお心だけで天にも昇れそうですわ!
どうぞ、幸村様に沢山召し上がって戴いて下さいな!」



ゆみの気遣いは、本当に嬉しい。
もとより、毎日のように甘味を食べられるなんて、それも自分達が使える主人に嫁ぐ少女からの手作りなんて、とても贅沢な話だ。
それに、皆ちゃんと分かっている。
ゆみは幸村の事が本当に大好きで、彼の喜ぶ顔が見たい一心で甘味作りに励んでいることを。
それを分かってくれていることだけで嬉しいゆみは、またはにかんで、そして小さく零す。



「幸もだけど…みんなにも喜んで貰いたい…」

「ひ、姫様ぁ!!」



本当に、どこまで愛らしい姫君だろうか。
こんなにもよくできた、可愛らしくて美しい姫を娶れるだなんて、本当に自分達の主人は幸せ者だ。
そして、そんな姫君の世話も出来る自分達も。
再びせっせと甘味を作り始めたゆみの後ろ姿を、自分達の仕事も忘れて女中達は笑顔で見守っていた。
そんな彼女らに気付いて怒りに来た佐助が、ミイラ取りがなんとやらになるのは、あと半刻後の話。



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