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「…幸が嫌なら、もう着ない。」



幸村は、単に目の遣り場に困ってしまうだけ。
けれど、ゆみはこの格好が気に入らないから自分から目を逸らすのだと勘違いをしてしまって。
しゅんと悄げて俯いたゆみに幸村は慌て、佐助は溜息を吐いてしまう。



「そ、某は別に嫌などでは…!!」

「って言うかさー…この遣り取り何回目?
俺様、いい加減飽きた。」



佐助の呆れも御尤も。
ゆみが元の姿に戻ってから此方、初心な幸村と鈍いゆみは、顔を合わせる度にこんな遣り取りを繰り返しているのだから。
当初は面白がってにやにやとその様子を見ていた佐助も、ほとほと飽いてしまった。



「旦那もいい加減慣れなよ。
ゆみちゃんは、何着ても可愛いじゃん。
それに、露出度高いから俺様はこっちのが好きー。」

「は、破廉恥であるぞ佐助ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「矢っ張り、この格好破廉恥なんだ…」



佐助が茶化し、幸村が叫び、ゆみが悄げる。
これはこれで愉しくもあるが、延々と続くから鬱陶しい。
佐助は再び大きな溜息を吐き、幸村とゆみの腕をぐいと引っ張った。
いきなり向かい合わされて驚く二人の肩を叩き、佐助はにこりと胡散臭い笑み。



「旦那はさ、ゆみちゃんがこういう格好するの、嫌い?」

「そ、そうではない!
ただ、慣れぬ故…は、恥ずかしいのだ…!」

「幸…」



嫌われてる訳じゃない。
それが分かっただけで、嬉しくて。
ふわりと柔らかな笑顔を零せば、幸村は更に顔を赤くしながらもその笑顔に見惚れる。
そんな主に肩を竦め、佐助はこそりとゆみに耳打ち。



「…旦那はさー、ゆみちゃんを他の男に見せるのが嫌なだけだよ。」

「…なんで、嫌なの?」



佐助の言葉と幸村の反応に、普通だったら読めるだろうに、そこはゆみ。
矢張り自分が異質だから秘密裏にしたいのかと、不安そうに眉尻を下げた。
そんな反応に佐助は笑ってしまって。



「ゆみちゃんは可愛くて綺麗だから、旦那も心配なんだよ。
どこの馬の骨に狙われるかもって、案じてんだろうねー。」
「…」



男心を教えてくれるが、ゆみにはいまいちピンとこない。
只、一つ分かったこと。



「…取り敢えず、知らない人には顔を見せなければ良いの?」



当たらずとも外れては居ない。
微妙な場所に位置する答えを導き出した彼女に二人が頷けずにいると、ゆみはごそごそと懐を探り、ある物を取り出した。



「これで、私だって分からないでしょう?」

「そ、それは天弧仮面殿の…!?」



幸村の驚きに、ゆみも頷く。
彼女が手にしていたのは、武田漢祭りの際に佐助が使っていた狐の面。
尤も、幸村は未だに天弧仮面が佐助だということに気付いていないが。
驚いている幸村の視線の先、ゆみはスッと仮面を付けた。



「幸が良いって言うまで、ずっと付けるから…
これで、良い?」

「う…うぅ…む…」



肝心の格好が変わっていない。
けれど、誰もが見惚れてしまいそうな素顔は隠れる。
まるで、その表情の全てが自分のものだと言われたような気がして、幸村は曖昧に頷くしか出来なかったのだった。


姫君、ときどき、天弧仮面。



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