08(2/3)
「何処に行くというのだ?
そなたの帰るべき場所は、其方ではない筈だ。」
「、何を…」
しっかりと掴まれたその手にドキリとする。
おずおずと振り返れば、射抜かれてしまいそうな程に強い眼差し。
その言葉に、狼狽える。
まるで、幸村の傍から離れようとして居るのを拒むかのように。
きょろきょろと視線を彷徨わせていると、手首を掴んでいた幸村の大きな手がするりと滑り、彼のより小さくて細いゆみの手と繋がれた。
「そなたの帰るべき場所は上田城であろう、ゆみ。」
「、!?」
ハッと顔を上げれば、優しい笑顔。
どうして。
先刻はただの通りすがりに助けた知らない娘だと思っていたのではないか。
酷く困惑しなからも、ゆみは泣きそうなのを堪えて、必死で頭を振った。
「初めはまさかと思ったが、きちんと見て確信した。
姿を変えていようとも、そなたの瞳も心も変わってはおらぬ。」
「、違っ…う…!!
わ、わたしは…私は…!!」
諭すような幸村に、必死で誤魔化し通そうと否定を続ける。
けれど、その細い身体は強く引かれ、気付いた時には幸村の腕の中に収まっていた。
「もう、独りで思い悩むな。
―――拒絶などせぬ。
そなたは、異質なものなどではない。
一人の、普通の女子ではないか。」
「―――…っ」
全て見透かされた様な言葉。
温かく力強い腕。
どうして、どこまで温かいのだ。
ぽろぽろと零れる涙は、幸村の衣に染み込んでいく。
「独りで堪えないでくれ…
独りで泣かないでくれ…
頼りないとは思うが、某にも背負わせてはくれぬか…?」
「、………っ」
拒絶しなければと上げた手は、気付けば必死で幸村の背中に廻されていて。
幸村に抱き締められ、それに縋る。
「私は、おかしい、から…
幸に、嫌われたく、なくて、
こ、こわく、て…っ」
しゃくりあげながら、途切れそうな言葉を必死で紡ぐ。
幸村は、黙ってそれを聞いていて。
「ほんと、は…離れたく、なか…った…!!
でも、幸にとって、迷惑…だと思って、足枷に、なりたくなくて…!!」
「そなたは、人のことばかり案じて…っ」
息が止まりそうな程強く抱き込まれる。
自分の肩口に埋められた幸村の表情は伺えない。
怒っているのだろうか。
どうしたら許してくれるだろうか。
不安を募らせるゆみに、幸村は顔を埋めたままで話し出した。
「…城に戻ろう。
某もそなたも、まだまだ未熟者だ。
二人で、大人になってゆけば良いではないか。」
ゆっくりでも、構わぬ。
優しい声に何度も頷き、幸村の肩口に頬擦りをした。
幸村は、きっと何があってもゆみを拒絶することは無いのだろう。
ぽかぽかと温もる心に、また涙が零れる。
なんだか、泣いてばかりだ。
けれど、嬉しくて泣くのは初めてかもしれない。
満たされていく感覚に酔いながら、幸村の背中に回した指に力を込めたのだった。
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