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「な…っ!?」

「、これは…」



どちらがどちらだったのか。
呆然とする幸村と明智の視線の先で、ゆみこそが呆然としていた。

力を欲していた。
ただ、幸村を守りたかった。


幸村に向かって鎌が振り下ろされた時。
ただ、ヤメて欲しくて。
幸村だけは助けて貰いたくて、哀願の悲鳴をあげて幸村に駆け寄りながらその手を伸ばした。


次の瞬間だ、世界が真白に染まっていたのは。


地面や木々、見るもの全てが凍り付いていた。
振り上げられた鎌も、明智の腕ごとだ。



「、わた…し…?」



視界に入れた自分の手は冷気を纏っていて、ゆみは呆然とした。
これは、自分がやったのか。
こんな力、知らない。
幸村は助かっても、自分が恐ろしくて。

一体、この身は何なのだ。

時空を越え、身体年齢が急激に変化し、あまつさえ、世界を凍らせるだなんて。
これでは、本当に異形以外の何者でもないではないか。
今度こそ、幸村に拒絶されてしまう。
ぽろぽろと、何度目か分からない涙を零しながら呆然としていると、再び金属音。
ハッと上げた視線の先には、明智に向けて二槍を構える幸村。
ホッと安堵を感じる。



「この者の前で殺生はしたくない。
…立ち去られよ。」

「…お楽しみは、また次回と言うことですか…良いでしょう。」



静かに撤退を促す幸村に、ただ残念そうに眉を下げた明智。
彼は、興醒めしたとでも言う様に鎌を下ろした。
いつの間にか、見えていた世界を覆っていた氷は、溶けていた。



「あぁ、そうでした…」



見詰めるしか出来なかったゆみに、明智は振り返った。



「私は貴女の血の味が気に入りましたよ。
甘美な深紅の血…また、味わわせて下さいね…?」

「…!?」



にたりと微笑む明智は、何処か純粋な美しさをたたえていて。
だから、余計に恐ろしい。
ぞくりと身体を奮わせるゆみに、また笑みを深めながら明智はふらりと姿を消した。
厄介な相手に気に入られてしまった。
困惑するゆみの視界に、真紅が飛び込んだ。



「怪我は無いだろうか?」



案ずるような真剣な瞳を真正面から向けられて、ゆみは驚いて少し身を引いた。
忘れていた。
自分は、彼の拒絶を恐れて逃げている途中だったのを。
スッと差し伸べられた手に縋りたい衝動を堪え、いつの間にか落としていたスクールバッグを引っ付かんで頭を下げた。



「あ、危ないところを助けて戴いて…有り難う、御座いました…」

「いや、助けられたのは某の方。
そなたは婆沙羅者であったか。」

「…?」



婆沙羅者。
聞き慣れる言葉に首を傾ぐが、いつまでもこうしては居られない。
早く、離れなければ。



「あ、あの…私、先を急いでますから、」



幸村とは目を合わせないように気を付け、踵を返す。
けれど、ゆみの細い手首は掴まれて止められた。



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