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「、ん…」



急に降った意識の浮上。
寝ぼけ眼を擦っていたゆみは、はたりと動きを止めた。
視界に映るのは長い指。
視線を降ろした先には、17歳に成長を重ねていた本来の自分の身体。

幸村のお下がりの着物には、ぎりぎり納まるか納まらないか。
元の身体に戻った自分に、ゆみは喜びでなく絶望を感じた。

幼かったから、拾われた。
無垢な存在である子供だったから、受け入れられた。

なのに、どうだ。
受け入れた筈の幼子の姿は消え、代わりのように現れた一人の女。

それは、気味の悪い存在だろう。
怪しむべき存在だろう。

元に戻ったと同時に、此処には居られないことを悟り、ゆみは項垂れた。

矢張り、自分は異質。
優しい彼らも、こんな自分はきっと拒絶するだろう。


悲しくて、悲しくて。
ポロポロと涙を零しながら、ゆみは幸村の文机に寄った。
墨を摺って忘れられたままだった筆をとり、別れを紙に紡いだ。
幸村を起こさないように部屋から抜け出し、自分の部屋で、仕舞われていた制服に着替えた。


「、…っ、…」



涙はずっと、止まらない。
自分の涙を吸って、一部だけ色を濃くした紅の着物を丁寧に畳み、部屋の中心に置いた。
誰にも見付からない内に、早く発たねばならない。

こんな時、佐助が任務に出ていて良かった。
大好きな彼に、疑われて殺されるなんて悲しい。

ぱたりと襖を閉め、ローファーを履いて、上田城を見上げた。



一度も拒絶はされなかった。
何処までも温かい人達だった。
感謝の意味を込めてゆみはゆっくりと一度頭を下げて、幸村の部屋の方を見詰めた。



「ゆき…バイバイ…」



穏やかな夕暮れ前。
上田城から、一人の少女が姿を消した。



束の間の温もりに、さよならを。



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