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「ゆき、」



あの武田信玄の養女になり、その上、真田幸村の許嫁として、改めて上田城に戻ってきて早一週間。
最初こそ初な幸村の態度はぎこちなくなったものだが、直ぐに元の通りに戻った。
それも、ゆみが幼い子供の姿だからだろう。
鍛錬に勤しむ幸村の元に、佐助に頼まれた茶を用意して行けば、幸村は笑みを浮かべてゆみの傍に寄った。



「茶を用意してくれたのか。すまない。」

「…」



小さな身体で大きな盆を持ったゆみを見て表情を綻ばせる幸村に頭を撫でられゆみはくすぐったそうにしながらも首を振った。
口を聞くようにはなったが、元より無口なのか。
口数少ないながらも日々表情豊かになるゆみを、誰もが愛しく思っていた。

最近では、女中達にも自ら寄っていくようになり、その不器用ながらも愛らしい様に、女中達もすっかり骨抜きだ。

唯一変わらないところと言えば、幸村のおさがりの着物以外は拒むところだ。
口を聞くようになったゆみに、佐助が何故かと訪ねれば、
『ゆきの着物が好きだから』と返ってきた。
燃えるような紅の着物は、どう見ても男の子の者ではあったが、彼女はそれが良いらしい。
着飾れないのを女中も佐助も残念がるが、それでもゆみは満足そうなので良しとした。



「ゆき、これ食べてみて?」

「む…?これは何でござろう?」



縁側に腰を下ろした幸村に、ゆみは小皿に乗せられた茶色の小さな固まりを差し出した。
ふわりとした甘い香りに、甘味のようだと気付けど、幸村には初めて見るもので。



「クッキーって、言うの。
私の…国の、甘味。」

「くっきい…?
ゆみの国の甘味…それは楽しみだ!」



そっと差し出された小皿を受け取り、一枚摘んで口に運ぶ。
出来上がったばかりなのか、まだ温かいそれは、サクサクとしていて、ほろほろと柔らかな甘味が口中に広がる。



「う、美味い!
これは、初めて食すが、なんと優しき甘み…!」



感動した様子でパクパクと食べ続ける幸村に、ゆみは安堵した溜息を零した。



「これは何処で作って貰ったのだ?」

感心したような幸村は、物足りなかったのか、追加を求めるようにそわそわとする。
きっと、作った職人に更におかわりを要求しに行くのだろう。
ゆみは、おずおずと小さな手を挙げた。



「私が、作ったの…
気に…入った…?」

「なんと!?そなたが!?」



こんな小さな子供が、これほど立派な菓子が作れるのか。
自分には、未だ包丁を使うのも困難だ。
幸村はとても衝撃的であったが、ゆみには普通のことである。
オーブンなどの道具や、バター等の食材も不足していて、多少手間取ったが、なんとか形になった。
それをこんなに喜ばれるなんて、本当に嬉しいものだ。



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