05(2/2)
「この馬鹿者が!
お主の様な若輩者に、父親が務まると思うておるのか!?」
「、…ッ!!
然し、お館様…!!」
「幸村!!」
激しい一喝に、ゆみは信玄の隣で小さな身体をびくりと震わせ、幸村は口を閉じた。
「お主に父が務まるのか?
未だ佐助の手を煩わせるお主に。」
「ぬぅ…っ」
「お主に父の役目は未だ早い。
して、ゆみは儂の娘として迎えよう。」
「大将…」
ほっとした様な佐助。
けれど、ゆみは複雑だ。
甲斐には居られそうだが、幸村と佐助とはいつも一緒に居られなくなるのだろう。
それならば、ずっと洞窟に居たかった。
そうすれば、二人の温かさを知らずに済んだし、離れる寂しさも知らずに済んだのだ。
項垂れるゆみを見て、信玄は悪戯を思いついたようにひっそりとほくそ笑む。
「さて、武田の姫ともなれば、早急に輿入れを考えねばなるまい。」
「こし…?」
「お館様!?」
「大将!?流石にそれは…!!」
聞き慣れぬ言葉に小首を傾げば、幸村と佐助は慌てて信玄に詰め寄る。
それを見ながら記憶の引き出しを探っていたゆみは、直に探し当てたそれに顔を歪めた。
輿入れ、それは自分の時代での嫁入り。
矢張り、幸村達とは離れてしまうのだと思えば、みるみるうちに紺碧の瞳は潤み、直に大きな滴となり零れ始めた。
「大将!!」
「幾らお館様と言えど、ゆみを泣かせることだけは許せませぬ!!」
更に怒りを募らせた二人に、信玄は堪えかねたように突然吹き出した。
何事かと呆気にとられる二人。
信玄は、未だ自分の隣で泣いているゆみに苦笑いをし、その身体を抱き上げた。
「いや、泣かせるつもりではなかったのだが…すまなかったな。」
「、…」
突然謝られ、ゆみはきょとりとしながら涙を拭った。
「安心せい。
お主は既に儂の可愛い娘。
娘が一番幸せだと思えるようにするのが父の役目よ。」
優しい笑みに、温かい言葉。
その意図を図りかねて、不安そうに伺えば、また大きな手でわしわしと撫でられる。
「どうやら、儂の娘はこのひよっこと離れ難いようだ。」
「流石、大将!
でも、人が悪いったら…」
穏やかな信玄の言葉を佐助だけは理解したようだ。
安堵した佐助に、きょとんとするのは幸村とゆみだけで。
二人が顔を見合わせると、信玄はまた笑い、佐助はニヤニヤとする。
「ゆみよ。
お主を真田に嫁がせることにした。」
「ゆみちゃん、良かったね?
うちの旦那、ちょっと頼りないけど、宜しくね!」
「「………」」
ぽかんと呆ける幸村とゆみ。
然し、幸村は直ぐにその意味を理解して真っ赤になる。
「お、おおおおおおお館様!?」
「なんだ、幸村。
儂の娘では不満か?」
狼狽える幸村に、眉を顰める信玄。
途端始まった殴り愛に驚きながらも、漸くゆみも意味を理解した。
「私…ゆきの、お嫁さん?」
「そうだよー。」
「ずっと…一緒…?」
「うん。良かったねー?」
佐助に訪ねれば、笑顔が返ってくる。
ゆみは嬉しくなって、またはにかんで。
そうして信玄に殴られて吹っ飛んだ幸村の元にとたとたと駆け寄る。
「ゆき、ゆき!」
「ぬ、う、」
嬉しそうに抱き付くゆみに、狼狽える幸村。
そんな幸村を見て、ゆみはふわりと微笑んだ。
「ゆき、絶対、幸せにするから…ね?」
「なぁっ!?」
嬉しそうにプロポーズしたゆみに、更に真っ赤になって狼狽える幸村。
幼い少女ながらに男前なゆみに、佐助と信玄は可笑しそうに笑うのだった。
その日、貴方のお嫁さんになりました。
.
- 13 -
[*前] | [次#]
ページ: