05(1/2)





「俺様達が仕えてる大将に挨拶に行くからね?
お行儀良くね?」



佐助のそんな台詞にゆみが頷いたのは、この時代風に言えば、何刻前のことか。
生まれて初めての馬に、幸村に抱き抱えられて乗り、やって来たのは躑躅ヶ崎館。

通された広々とした部屋で、幸村と佐助の間でちょこりと正座するゆみ。
小さな身体にはきついだろうと、佐助は正座しなくてもいいと言うが、ゆみはふるふると首を振って。
大人しいが、なかなか頑固なゆみに苦笑していると、襖の向こう側に一つの気配。
佐助の目配せに幸村とゆみは頭を垂れ、佐助も続いたところで襖が開いた。



「―――良い。頭を上げよ。」



3人に掛けられるしっかりと太い声。
幸村と佐助が頭を上げたのを感じ、ゆみもそろそろと顔を上げた。



「ほぉ…お主が幸村の言って居った娘か。」



目の前に居たのは、真っ赤な着物を着た大きな男性。
威厳のある男性の名が分かったような気がして、ゆみは小さく喉を鳴らした。



「儂は武田信玄。
この甲斐を納めておる。」

「、…ゆみ…です…」



矢張り、そうか。
思い描いていた名前と一致していたことに驚き、ゆみは一瞬目を見開き、それでもきちんと名乗った。
信玄は優しい大らかな笑顔を浮かべる。



「さぁ、此方にきて、よく顔を見せてはくれぬか?」

「・・・」



信玄に促されて、ゆみはうろたえた。
こんな大物に、おいそれと近付いて良いものなのか。
僅かに眉尻を下げて両隣を窺うと、幸村も佐助も笑顔で頷く。
それを見て、漸くゆみも安心したように頷いた。
とたとたと軽い足音と共に信玄のもとに向かい、その隣にちょこりと座る。
そうすると、大きな手でわしわしと頭を撫でられ、その膝に抱き上げた。



「お主の瞳は、誠に見事な紺碧色をしておるのぉ。
晴れ渡った夏空の色よ。」

「…母の、色です。」

「ほぉ。母譲りの色か。
それは、お主の母も大層美しい女子だったのだろうな。」



大きく優しい存在。
『父親』を彷彿とさせる信玄に、ゆみは少しの戸惑いを残しながらも答えていく。
母譲りの瞳を褒められ、母を褒められたのには嬉しくて、ゆみは小さくはにかんだ。
そうして暫く、殆ど話していたのは信玄だけと言う穏やかな会話が終わった後。

急に真剣な顔になった信玄は、幸村の方に向き直った。
空気を感じ取り、意識を引き締める幸村に、ゆみもピンと背筋を正した。



「して、幸村よ。
お主はゆみを養女として引き取りたいと申した。
・・・その気持ちは誠であろうな?」

「は!!
某はゆみの母君と約束を交わしております。
某の命に代えても守り通すと。
故に、ゆみは某が引き取りたいと思っております。」

「・・・」



幸村の真剣な瞳。
けれど、ゆみは少し複雑な表情を浮かべた。
本来なら、ゆみも17歳と、幸村とは同い年。
いくら今は子供の姿をしていると言っても、彼の『娘』として引き取られるのは気持ち的には複雑である。



「…お主の気持ちは分かった。
然し、その話を認めることは出来ぬ。」

「、お館様!?何故!?」



信玄は大きく唸り、幸村を真っ直ぐと見据えた。



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