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「、ゆき…」

「「!?」」



小さな声で、ぽつりと呼んだ名前。
初めて口を聞いたことに驚く二人の視線を受けて、不安そうに俯いたゆみ。
だが、次の瞬間には、自分の名を呼ばれたのだと気付いた幸村に抱き締められていた。



「ゆみが俺の名を呼んだぞ!
佐助!ちゃんと聞いて居ったか!?」

「聞いてたよ、本当に羨ましい…」



いきなり抱き締められたのには驚いたが、幸村は喜んでくれた。
それがなんだか嬉しくて、ゆみはひそりとはにかんだ。
感情をそんなにはっきりと表情に乗せるのも、初めて見る。
言い表せないほどの愛しさに、二人の表情はだらしない程に崩れてしまう。
ゆみもそれがやっぱり嬉しくて、けれど恥ずかしくて。
幸村の胸にぽすりと顔を埋めると、背後からちょんちょんと肩をつつかれる。

ちらりと振り返ったゆみの瞳には、不満げな佐助の笑顔。



「俺様のことは呼んでくれないの?」



膨れてみせる彼に、そんな風に言われると余計恥ずかしくなる。
期待に満ちた佐助に見詰られると、本当に困る。
ゆみは俯いて声を張った。



「、〜〜〜さる…!」

「ちょ、寄りによってソコで呼んじゃうの!?
え、ちょ、これなんのイジメ!?」

「ははははは!!
ゆみも中々言うな!!」

「笑い事じゃないから!!
旦那、ここ笑うとこじゃないから!!」



恥ずかしさを紛らわす為にわざと意地悪な呼び方をすれば、佐助は本当に泣きそうで。
そんな佐助を笑う幸村と、踏んだり蹴ったりな佐助を見てゆみはまたはにかんで、二人の手と自分の小さな手を繋いだ。



「あ、りがと…」

「「、!?」」

「、拾ってくれて…ありがとう…」



幼い少女がふわりと浮かべた、大人びた笑顔。
思わずドキリとさせられてしまった二人に気付かず、ゆみは言葉を繋いだ。



「私も、守る…
ゆきが守ってくれるなら、私もゆきを守る…」

「、ゆみ…!!」



小さな少女の決意が、とてつもなく嬉しい。
嬉しそうな二人の笑顔を見てゆみは俯いて、二人と繋いだ手に力を籠めた。



「…ゆきも、佐助も…大好き…」



耳まで真っ赤にした少女の呟きに、二人は繋いでない方の手で目を覆った。
一体、どれだけこの少女は二人を愛おしい思いに駆らせるのか。
全く、陥落させられっぱなしである。



「もう無理!!
俺様、やっぱりゆみちゃんを嫁に貰う!!」

「ならぬと言っておるだろう!!
ゆみが穢れる!!」

「ちょ、旦那酷い!!
俺様の扱い酷いって!!」

「佐助の扱いなどこれでも十分過ぎるほどだ!」

「本当に俺様泣いても良いですか!?」



ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人に両手をグイグイと引っ張られる。
かなり痛いのだが、それでもゆみは擽ったそうに笑うのだった。



開き始めた小さな心



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