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「ゆみちゃーん?おーい!」



廊下を歩きながら呼ぶ名前。
佐助は、姿を見せない小さな少女を今日も探していた。
上田城に増えた、もう一つの日常。
2週間前に保護した少女は、最初こそ心を閉ざしていたものの、幸村の真摯な心に触れ、少しづつ上田城に馴染んでいっていた。
無表情は相変わらずで、口も聞かない。
用意した華やかな着物も拒絶するし、女中に構われるのも嫌がる。
けれど、幸村と佐助の前でだけは少し気を許した風で。
華やかな着物は嫌がるが、幸村の幼少の頃の着物を出せば、いそいそと着替える。
とたとたと城の中を探索して回る小さな紅は、気付けば幸村の傍に居り、佐助の後ろをついて回る。
愛らしい行動は、懐かれずとも女中達の心を和ませ、虜にする。

佐助も、そんなゆみに骨抜きにされつつあった。
とたとたと後ろをついて回られたくて、屋根裏などに居る時間は減り、ゆみの為に城下に降りては菓子を買いに行く。
元々、幸村の為に団子を買いには行っていたが、自ら楽しんでいくのはゆみの為だけ。
ゆみは小さな細工菓子が好きなようで、佐助が八つ刻に綺麗な細工菓子を買って帰れば、嬉しそうにする。
一見無表情な彼女だが、表情にまだ出さないだけで、中々感情豊かなのだ。
縁側で、幸村と佐助の間に座って黙々と嬉しそうに食べる。
その様は、何よりも愛らしいのだ。



「ねぇ、旦那?
ゆみちゃん知らない?」



そんな愛らしい少女が見つからなくて、政務をしていた幸村の部屋まで赴く。
ひょこりと顔を覗かせた佐助の言葉に、幸村は何やら可笑しそうで。
佐助が怪訝そうな顔をすれば、幸村は笑いながら上を指差した。



「は?上?」

「うむ。ゆみは今、散歩中だ。」



上を散歩中。
自分も上の階も探したが、擦れ違いはしなかった。
何処で擦れ違ったか考えていると、幸村は小さく吹き出して、『ゆみ!』と大きな声で探し人の名を呼んだ。

そうすると、やっとお目当ての彼女は姿を表した。
パカリと一枚の天板が外れる音と共に、ひょこりと逆さまに顔を出したのだ。



「、ゆみちゃん!?
そんなとこで何してんの!?」

「…」


『危ない!危ないから!』なんて、らしくなく慌てる佐助。
そんな佐助を後目に、ゆみは其処からピョンと飛び降りた。
着地出来る自信はあったが、素早く動いた佐助に抱き留められ、不満そうなゆみ。
幸村はそんな様子を楽しそうに笑ってみていて。



「旦那!
笑ってないで、ちゃんとゆみちゃんのこと見ててよ!
こんな小さい子に天井裏歩かせるなんて!」

「佐助は過保護過ぎるぞ?
俺もゆみ位の時分には―――…」

「旦那と一緒にしないの!
ゆみちゃんは女の子なんだぜ!?」



幸村は放任過ぎるが、佐助は過保護過ぎる。
ゆみは幸村に説教を始めた佐助の腕から飛び降りると、二人の着物の裾を引っ張った。



「ゆみ、どうした?」

「…」

「あぁ、もう八つ刻だね。」

「…」

「佐助!今日は何だ!?」

「旦那はみたらし団子。
ゆみちゃんには葛餅だよ。」



おやつと聞いて子供のようにはしゃぐ幸村と、その隣でこくこくと頷くゆみ。
兄妹の様な二人の様子に佐助は仕方がないなと肩を落としながらも、二人をいつもの縁側へと促したのだった。



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