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その結論に辿り着いた幸村は、一つの答えを見出した。
彼女は、もっと深い闇を持っている。
それは、彼女の感情や声を隠してしまうほどの何か。

そんな彼女を、幸村は託された。



「・・・佐助、分かったぞ。」

「・・・旦那?何が分かったの?」



急に天井を仰いだ幸村。
その表情は何処か吹っ切れたように晴れていて、訝りながらも佐助は彼がどうするのかを察していた。
二人をジッと見ていたゆみは、ずりずりと畳を移動してきた幸村にそっと膝に抱き上げられていた。



「…信じられぬやも知れぬが、某はそなたの母君にお会いした。」

「・・・っ!?」



しっかりと目を合わせる幸村の言葉に、今までずっと変わらなかったゆみの表情に変化が現れた。
初めてその眉が不安げに下がり、紺碧の瞳が揺れた。
初めて見せた相応の反応は、彼女を支えてやりたい愛しさを見る者に抱かせる。



「夢の中で、会ったのだ。
そなたに似た、誠に美しいご婦人だった。」

「・・・、」

「某は、母君に約束をした。
そなたを守ると。
某は、命に代えてもそなたを守ることを約束したのだ。」

「っ、・・・っ!!」



優しく強い幸村の笑顔。
ゆみは、顔を歪めて首を振った。
幸村の着物に小さな手で縋り、泣きそうな顔で首を振る。
それは、幸村が自分の母と交わした約束を拒絶していた。
けれど、幸村は彼女の頭をぽんぽんと撫で、頷いた。



「そなたは、守られることを拒絶しておる…
ならば、そなたも守ればよい。」

「、・・・?」

「そなたも、守れ。
母君に守られたその命を。
母君の想いを無駄にしてはならぬ。」

「っ・・・、っ、、」



真っ直ぐな瞳に、ゆみの瞳からポロリと涙が零れた。
ポロポロと零れ落ちる雫。
少女の心が少し解け始めた証のそれ。
声もなく、震えながら泣く小さな背中。
幸村は、小さな身体を抱締め、彼女が泣きやむまでずっとその背中を撫で続けた。


そうして、どれほどの時が過ぎたのだろう。
青かった空は茜に染まり、静かな部屋の中にはゆみの小さな寝息だけが響いていた。



「佐助…俺は、辛いことを言った。」

「・・・」

「母君がどんな思いでゆみを守ろうとしたか、ゆみが一番良く分かっているだろうに…」



小さな身体を抱締めたままで、幸村は外に視線を向けた。
その先にあるのは、ゆみを見付けた森。
らしくなく思い悩むその姿に、佐助は苦笑した。



「でもさ、少なくとも旦那に会えて、ゆみちゃんの心は救われたと思うよ?」

「そうであろうか…」

「そうだって。
人形みたいに表情も変えない、口も利かない…そんなゆみちゃんが泣けたのは、旦那に会えたからだと思うぜ?」

「・・・」



本当に、そうだろうか?
自分は救えたのだろうか?
幸村には、良く分からない。
分かるのは、この存在を守りたいと言う気持ちだけで。



「ゆみちゃんのお母さんの分もさ、愛してあげようよ。」



『俺様、ゆみちゃんの笑顔見てみたいし。』
あはーと、いつもの気の抜けた笑いを零す佐助に、幸村の顔にも笑顔が浮かぶ。



「そうだな…
きっと、ゆみの笑顔は何よりも愛らしいだろうな…」

「・・・旦那、破廉恥ー。」



静かな雰囲気は自分には余り合わない。
勿論、幸村のも。
佐助に茶化され雰囲気をぶち壊された幸村は、寝ているゆみを抱締めているのも忘れて雄叫びを上げながら駈け出したのだった。



守りたいのは、悲しみのお姫様。



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