ぽかぽかとしたなんとも心地好い天気でこのままだと寝てしまいそうだなとぼんやり思考する。あまりにも平和そのものであり、未だ乱世が続いているなどとは思えない。うつらうつらとしつつ、欠伸を噛みしめなまえは目を閉じる。やはりこのまま寝てしまおうか。少しぐらいならば良いだろう。今この部屋には自分以外は誰も居ない。誰か来たら何事もなかったかのように執務を再開させれば良いだけの事だ。

「何をしている」

聞き慣れた声が聞こえたので目を開ければ、目の前に司馬師が不機嫌そうな顔をして立っていた。いつもよりも眉間に皺が寄っているぞ、と言ってやりたい気分になったが言わずに心の中にとどめておく。きっと言えば彼は更に不機嫌な顔をするだけだ。そしてそうなれば小言をねちねちと暫く言われ続ける事が目に見えている。

「子元こそ、何してるの?」
「お前がそろそろ執務を放り出す頃だろうと思ってな」

そう言って司馬師は溜息を吐く。なまえの行動が予想した通りだった事に呆れているのだろう。

「いやー、でも、私よりも弟の所に行った方がいいんじゃない? どうせ、めんどくせ、と言って放り出してるでしょ」
「昭の所へは既に元姫が行っている」
「ああ、元姫が」

成程、ならば司馬昭の所へ行く必要はない。元姫がしっかりと彼に執務をさせているに違いない。だからこそ元姫に弟の事は任せ、司馬師はなまえの所へ来たのだ。

「なまえ、今は寝ているような状況ではないとお前も分かっているだろう」
「そりゃあ、まあね」

乱世は終わっていない。相変わらず平和な世は訪れていないし、他国の侵攻に加え魏内部の揉め事もある。何よりもあの司馬懿がもう長くはない状態なのだ。今後の事を考えねばならない。のんびりとしてはいられない。

「だけど、ずっと気を張り詰めてばかりじゃ疲れちゃう」

今日の様に平和と言ってもおかしくはない日ぐらいそういった事を忘れても良いではないか。それこそ、ほんの数秒でもいい。罰は当たらない筈だ。

「子元も少しぐらい息抜きしようよ。ここずっと休憩らしい休憩してないんじゃない?」

司馬師は暫くなまえを相変わらず不機嫌そうな顔で見つめていた。しかし再び溜息を吐き、諦めたような表情を浮かべた。

「なまえには、どうも敵わぬ」
「そんなのずっと前から分かってるでしょ」
「……そうだな」

なまえの頭をくしゃりと撫でて少しばかり司馬師は微笑む。不機嫌そうな顔よりこっちの顔のが断然と好きだと言いかけて先程の様に心の中だけにとどめておく事にした。今この言葉を言ったら負けな様な気がした。それに、恥ずかしいではないか。


20110502

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