「首を締めれば楽になると思ったの」
なまえはたかがそれだけの事が如何したのかとでも言いたげだった。否、むしろそう言っている。そう思っている。普段の態度から一見明るくまるで何も考えていないかのような錯覚を受けるが彼女の本質は違う。彼女は心の奥底では誰よりもこの世の事を見て、考えて、如何様にして自らを取り巻くこの環境を壊そうかと思考を巡らせている。
「貴様は、何から楽になりたいと云うのだ」
「違うわ。楽になるのは貴方よ。私は貴方の首を絞めたじゃない。そう云う事よ」
意味が分からなかった。何故、俺を楽にさせようとするのか。それにそもそも俺は楽になりたい等と考えた事は無い。
「どうせ死ぬのならば今此処で私が殺してしまった方がずっと楽じゃない」
嗚呼、そう云う事か。俺が家康との戦で負けると思っている。
なれば俺が家康に殺される前に俺を殺してしまおうと考えたのだ。理由はそうすればなまえを取り巻く環境が変わるからだ。この環境を壊すに打ってつけな理由。涼しげな顔で俺の為だと言っているが結局はこの環境を壊したくて面白がっているだけだ。
「ねえ、三成。私は貴方を気が狂いそうなくらい愛しているの。いいえもう狂っているのかも知れないわ」
嘘を吐くな。俺が気がつかぬとでも思っているのか。この女は昔からこうだった。俺に甘い言葉を囁いては惑わそうとする。
「三成は、如何なの?」
そして俺は、理解していながらもこうしてなまえに惹かれている。それを知っているからこそなまえは俺に対してこういった態度を取るのだ。そうだ。分かっている。秀吉様が御存命の頃、いつか秀吉様の邪魔になるだろうと幾度首を刎ねてやろうかと考えたがそれが出来なかったのはこれが原因なのだとも。
なまえの手が俺の首へと近付く。先程絞められた首の痛みがまだ残っており、ひりひりとした痛みが首全体を駆け巡った気がした。
20101016