なまえという名の少女は、水のような雰囲気を持ち合わせていた。この全体が海となっている星に住んでいるからなのか。簡単に言ってしまえば掴みどころがない。掴んだかと思えばあっという間に零れ落ちてしまう。そういう少女だった。

「一番星さん、貴方はまるで魚のよう」

レイから究極のバトスピについて聞かされたなまえはそう口にした。水のような、透き通った声だった。その声で魚だと言われる。そのせいか、一瞬だけ、本当に自分が魚にでもなったかのような感覚が沸き上がった。その感覚を振り払い、レイは疑問を投げかける。

「俺が魚?」
「ええ。この宇宙という名の海を泳ぐ魚」
「まあ、確かにそう言えることもできるかもなー」

合点がいったらしいムゲンがレイの隣で相槌を打った。海を泳ぐ魚の姿を想像する。海が宇宙。自分が魚。言われてみればそう例えることも出来るのかもしれない。

「でもね、一番星さん。貴方のような魚は食べられてしまうんです」
「…………俺が、究極のバトスピを手に入れられないって言いたいのか」
「私はもう何度も貴方のような人を見てきました。けれど、どれだけバトスピが強くても、強い意志を持っていても、みんな食べられてしまった。どんなに美味しい餌を夢見て泳いでも、逆に自分が食べられてしまう」

だから諦めた方が良いです。貴方のためにも。そうしてなまえは微笑む。氷水のような笑みだった。触れた瞬間、思わずその冷たさで手を引っ込めてしまう。そんな笑みに見えた。

「つまり、忠告ってことか。痛い目にあいたくなければ究極のバトスピを探すのは止めろっていう」
「そういうことです」
「でもな、そんなものは必要ねえ。俺は絶対に究極のバトスピを手に入れる。なんたって、宇宙で一番強いからな!」

胸を張ってレイがそう言えば、ムゲンも大きく頷く。だが、この絶対的な自信が、なまえには理解が出来なかった。なまえの笑みが消える。この二人は自分には理解し得ない言葉を口にしているのではないか、とでも言うかのような目をしていた。

「俺に言わせれば、お前は水だ」
「あら、この星に住むものとしてはぴったりな例えですね」
「でもここみたいに透き通った綺麗な水じゃない」
「……私が汚れていると言いたいのですか」
「そうだ」
「お、おい、レイ、いくら何でもそんな言い方はっ」
「お前の考えが水を汚している。魚をギルドの奴らに食べさせているのはお前自身だ。お前が最初から諦めてるその考えを捨てれば、この星のような水になる。そう俺は思ってる」

なまえは表情一つ変えない。必死に隠しているのだとレイは思った。それでも感情を完全に隠し通すことは出来ないらしく、僅かにぎゅっと唇を噛んだのが見えた。

「…………一番星さんのような人、本当に食べられちゃえばいいんです」
「俺は絶対にそうはならない」
「そうでしょうね。ええ、そうなんでしょうとも」

今度はレイが微笑む。それを見て、はっきりとなまえは唇を噛みしめた。唇の端から血が出ていた。ムゲンが慌てて騒ぎ始めたが、レイもなまえもただ相手の目を見つめていた。

「だからこそ、こんなにも苦しくなるんです」

そう言って、なまえはレイから目を逸らした。なまえの身体は震えていた。レイから見て今のなまえは、もう充分にこの星の水と変わりない綺麗さを持ち合わせていた。

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