「何でキリガ様には羽がないんですか」
「普通の人間だからな」
「じゃあ何で普通の人間なんですか」
「ああもう、いい加減にしてください!」

くるくると自分の周りをまわり同じような言葉を何度も繰り返すなまえに対してイアンがついにそう叫んだ。ずっと耐えてはいたがとうとう堪忍袋の緒が切れたらしい。怒りの表情を浮かべ、神経質そうに眼鏡をかけ直しなまえにぐいっと顔を近づける。

「キリガ様にくだらない質問をするのは止めてください!」
「くだらなくなんてないよー。私にはすっごく重要なことなんだよー」
「貴女にはそうでもキリガ様にとってはそうではありません!」
「ねえ、キリガ様。今からでも何とか羽を生やしましょうよ。で、空飛びましょう、空!」
「ちょっと、わたくしの話を聞いているのですか!?」

イアンなど気にせずに相変わらずなまえはキリガの周りをまわって同じ話を繰り返す。少し前からキリガのものとなった羽を所持するスピリットであるなまえは、どうしてもキリガと一緒に空が飛びたいらしくことあるごとにこの話題を口にする。

「空飛びましょうよー、ねえってばー」
「どうしてお前は俺にそこまで空を飛んでほしいんだ」

そうキリガが口にすれば、飛び回っていたなまえの動きが止まった。なまえの要求は何度も聞いてはきたが、その理由を聞くのは初めてのことだった。はたしてどう答えるのだろうかとキリガがなまえを見つめれば、彼女は不思議そうに目を瞬かせ、口を開いた。

「だって空を飛ぶのってすっごく気持ちいいんですよ。それに、大好きな人と空でデートとか最高じゃないですか。何でそんな当たり前のことを聞くんです?」

今度はキリガが目を瞬かせる番だった。そして、じわじわと口元が緩んでいくのを感じた。成程、よく考えてみればなまえらしい好意の示し方ではないか。主人としてなのか、はたまた一人の異性としてなのか、それは分からないが「好きな相手」であるキリガに空を飛ぶという素晴らしさを知ってもらいたい。そして一緒に空を飛びたい。ただそれだけなのだ。

「……そうか。俺も、お前と空を飛んでみたいものだ」
「本当ですか!?キリガ様がそう言ってくれるなんて嬉しいです!!」

花が咲くような笑顔を見せるとなまえはキリガの上空を旋回し始めた。まったく、キリガ様は少々なまえに甘いのでは?とイアンがぼやいたが、喜ぶなまえを見る限り今後も甘やかしてしまう気がしてならなかった。

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