日課になりつつあるバトルが終わり、一息つけば今の今まで戦っていた相手が無邪気な笑顔でこちらへと走ってくるのが紺碧には見えた。そのまま、お兄ちゃん!、と言って勢い良く抱き付いてくる少女を抱き留める。これもまた、日課になりつつある行為であった。こんなことが日課になって良いものだろうかと思うのだが、そうなりつつあるのだから仕方がない。

「ああ、やっぱり紺碧お兄ちゃんは強いなあ! 毎日こうして戦っているのに一度も勝てないんだもん」
「……なまえ、離れろ」
「えーっ、やだよお。わたし、もうちょっとこうしていたい!」

不機嫌そうになまえは頬を膨らませ、より一層強く抱き付いてきた。思わずため息を吐き、本当にどうしてこうなってしまったのかと何度目か分からない思考をする。出会ったのは、偶然にも立ち寄った星でだった。かなりのレアカードを所持ていながらもそれを上手く扱えずにいる、ということから三羽ガラスにバトルを挑まれていたのを助けた。本来ならばそれだけの筈だった。それが、である。なまえは紺碧のゼロを「お兄ちゃん」として慕い、一番星号に無理矢理同乗したのである。帰った方が良いという言葉も聞かず、なまえはそのまま居座り紺碧を慕う。レイや他のゼロたちのことも「お兄ちゃん」になり得る、と慕ってはいるがやはり紺碧が一番の「お兄ちゃん」らしく、日々紺碧にバトルを挑み、バトルが終わればこうして甘えるのだ。

「でも、さすがは紺碧お兄ちゃんだよね。わたしの自慢のお兄ちゃん」
「……その、兄の件だが」
「なあに?」
「俺様は、貴様の兄にはなれない。貴様の求める、兄には」

なまえが「お兄ちゃん」を求める理由は、彼女が同乗してすぐに理解をした。元々、なまえには兄がいた。レアカードも兄のものだった。兄は強いカードバトラーだったらしい。他に家族はおらず、なまえにとって兄とは世界そのものであり、兄がいない世界など考えられないほどだった。だが、その兄が不慮の事故で死んだ。なまえの世界は崩れ去った。そんな折である。紺碧と出会ったのは。その強さに亡くなった兄の姿を重ね、こうして「お兄ちゃん」と呼び慕う。紺碧としては、なまえに兄と呼ばれること自体は悪い気はしていない。しかし、こういった理由があるならば別だ。なまえは紺碧を求めているわけではない。亡くなった兄を求めている。それを理解していながらも許容してしまうのは、なまえの為にはならない。

「…………紺碧お兄ちゃんは、お兄ちゃんだよ。わたしのお兄ちゃん。だから、そういうの、よくわかんない」

少し間をおいて、なまえは不思議そうに首を傾げそう口にした。反射的に己の顔が強張ったのが分かった。なまえは、亡くなった兄を求めていることに気が付いていない。もしくは、気付きそうなことはあってもそれを無意識に避けている。だからこそ、この間違った方法を紺碧や他の者達が指摘しても聞かない。気付かない。理解できない。

「そんなことよりも、頭とかなでてー。負けちゃったけど、わたし、頑張ったんだよ?」

なまえは再度頬を膨らませ、紺碧の胸元に顔を埋める。その姿に、胸が痛んだ。いくら言おうとこのままではなまえは間違いを正せない。そしてそれをどうにかする方法が、今の紺碧には考えもつかない。出来ることといえば、無理だと分かっていてもこうして兄にはなれないと言うぐらいだ。また、下手なことをして心が壊れないようにとそれでも少しは甘やかさねばならない。それほどまでに不安定ななまえの心を、果たして自分には救えるのか。丸きり見当もつかない。そうして、仕方なく頭を撫でてやれば、紺碧の気など知らず心底幸せそうな声でなまえは笑うのだった。

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