「ねえねえ、ゲンドウと仲良くしなよ」
「誰があんな奴なんかと」

何度目になるか分からない幼馴染の言葉に、カイトもまた何度目になるか分からない言葉を返す。その言葉になまえは不服そうに頬を膨らませた。こういうところはいつまで経っても子供っぽく、当分まだ直りそうにはないのだろうなと推測することができる。

「もー、なんでカイトは私の言うこと聞いてくれないかなあ」
「幼馴染だからって何でもボクが君の言うことを聞くと思ったら大間違いだよ」

この神威大門統合学園に、なまえは一ヶ月ほど前に転入してきた。幼馴染であるカイトに必ず追いついてみせるから待っててねと言っていた彼女の漸くの入学を、カイトは心の底から嬉しく思った。しかも仮想国はカイトと同じくジェノック。これで小隊も同じであれば、尚良かった。だがなまえが配属されたのはカイトとは別の小隊、第2小隊であった。よりにもよって第2小隊はカイトが目の敵にしている磯谷ゲンドウの隊である。カイトの心は穏やかではない。

「だって、カイトがゲンドウのこと目の敵にするから。あんなにいい人は他にいないのに。だから、そんなゲンドウと仲良くしてほしいなあって」

カイトは苛々とするのを抑え、努めて平常心であろうとした。それを知ってか知らずかなまえはカイトに仲良くしろと乞う。どちらにせよむかつく奴だ、とカイトは心の中で吐き捨てる。第2小隊に配属されただけのことならば、ここまでカイトとて苛々する羽目にはならなかった。問題は配属された後のなまえである。同じ隊なのだから、勿論、第2小隊の面々、彼らを束ねる隊長であるゲンドウと親しくするのは当然のことと言えた。しかし更にそれに加えなまえはカイトの目の前でゲンドウを慕い、カイトに向けるのと同じ笑顔を彼に向ける。いや、カイトに向けるそれとは少し違っていた。なまえはゲンドウに他の者達とは別の感情を抱いている。カイトからしてみればそんな光景を見せつけられて苛つくなと言うのが無理な話であった。

「なまえこそ、ゲンドウゲンドウって、それしか言えないのかい。この学園に来てから、そればっかり言っちゃってさ。もしかしてあいつのことが好きだとか?」

嫌味としてほぼ確信に近いそれを口に出してみれば、見る見るうちになまえの顔は真っ赤に染まった。ああやはりそうなのか。心の中にひやりとしたものが注ぎ込まれていく。

「す、好きだよ、だって、ほら、いい人だし。それに、カイトや他のみんなのことだって」

そういう意味ではないことぐらい分かっている割には、誤魔化すらしい。どうせバレているのに誤魔化したところで意味はないというのに。カイトが待ち焦がれた幼馴染は、待っていてやったのにこうして離れていくのだ。なんて奴なのだろうか。これならばさっさとなまえのことなど忘れて待たなければ良かった。

「……ゲンドウと、仲良くしてやってもいいよ」
「えっ、本当!?」
「君がゲンドウのことを嫌いになるならね」

一瞬、なまえは喜びに満ちた顔をしたをしたがすぐさまそれは落胆へと変わった。それでいい、と思った。こうしてなまえに様々な表情をさせるのはカイトだけでいい。特にゲンドウなんて論外だ。

「もう、そういう意地悪は止めてよ!私の言うこと聞く気なんてないんじゃない!!」
「君がボクにゲンドウとのことを乞うならボクだって乞うまでだ。まあ、真逆の内容だけどさ」

いくら乞われたところでカイトは言うことを聞く気はない。なまえだってそうだ。だからこそ結局こうして何も変わりはしないのだろう。

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