ひみつ


 とある冬の夜の、使われていない倉庫。コンテナだらけのそこは、ひっそりと静まり返っていた。

「本当に大丈夫だろうか」
「大丈夫だよ! それに、今日は流れ星が沢山見えるんでしょう?」
「たしかにニュースではそう言っていたが……」
「天哉くんと見に行きたかったの。一緒に見たら、絶対に綺麗だから」

 流星群を一緒に見に行きたい。幼なじみのナマエに強く頼み込まれてしまえば、僕も断ることなんてできなかった。こちらを振り向いたナマエは期待に満ちたように瞳を輝かせていた。
 いつもなら絶対に踏み越えない立ち入り禁止の看板も、ナマエの喜ぶ顔が見られるのならと僕は見えないふりをした。二つ重ねて積み上げられたコンテナの、地上から5メートル程離れたその頂上がナマエの目的地らしい。

「天哉くん、先に登ってもらってもいい?」
「ああ」

 コンテナに立てかけられていたハシゴを登って、よく晴れた夜空に近づく。後から登ってきたナマエに手を差し出すと、僕より冷えた指先が触れてぎゅっと握り返された。その手を離すタイミングを逃しているうちに今度は僕がナマエに手を引かれ、コンテナの上に並んで座った。
 願い事、何個できるかな。たくさん願ったら叶うものも叶わないぞ。そんな気の抜けるような会話を交わした僕たちは、指先の温度を分かち合いながら流星群を待った。

「わぁっ」

 ナマエは白い息とともに、感嘆の声をもらす。ひとつ、またひとつと、夜空は光の涙を流していく。その光を反射させたように輝くナマエの瞳は眩しくて、僕は星に願うわけではないけれど、この笑顔をずっと隣で守っていきたいと思った。

「何か願い事、した?」
「将来のことを、少し。ナマエは?」
「うーん、まだひみつかな」

 いつか天哉くんにも教えられる日がきますように。ナマエはそう言って微笑みながら、煌めく夜空に視線を戻した。その瞬間のナマエは、なぜか僕よりもうんと大人びて見えた。

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