パチパチッ



薪が乾いた音をたてながら煙を上げ、何枚もの紙を灰にしていた。




「病み上がりに焼きいもですか、と」
朝から焼きいもなんて味気ないぞ、と。などと茶化しながら赤髪の部下──レノが近づいてきた。


「もう、ココに在る意味がないからな。」

ツォンは振り返りもせずただ、燃え上がる炎に顔を照らされ炎の中の“焼きいも”を見つめた。

「一気にそんなに焼いたら消化不良起こしますよ、と」

レノは炎の近くでしゃがみ“焼きいも”を見つめる。


「まぁ、潔いですけどね。」

「……。」


ゆらゆらと揺れる炎を見ながらツォンは過去に思いを走らせた。





────‥




「戻れ。エアリス!」


「べー。」


「言うことを聞いてもらえないなら、今回は強攻手段に出るぞ。」

「良いですよー。私、もう決めた。から」


「‥‥。」


「“あの人”が見ていた世界。私も見たいの」

「外は危険が沢山ある」

「でも、知りたいこと。あるの」

「何だ?」






「今ならザックス、見つけられる気がするの。だから」





「……そうか。なんにせよ君に自由はない。戻れ。」

「ふふっ。」

「何が可笑しい?」












「だから、ツォン。“今まで”ありがと」

「エアリス!待て!!」






         ‥──




「だから、戻れと言ったんだ。君は本当に忠告を聞かないな」

「そういう、おねーちゃんだったぞ、と。昔っから。それは、ツォンさんが一番知ってるんじゃないんですか、と」





「誰かの口から聞きたかったのかもな」

───誰かの口から、あの娘はそういう娘だったと聞きたかった。目が覚めたらこの世界から永遠に姿を消してしまっていたあの娘の存在を確かめたかった。でなければ、まるで最初っからあの娘の存在が無かったみたいな呆気ない終わり。“アレはお前の夢だったんだ。”そう言われても可笑しくないくらいに、虚ろすぎて実感がない。


「どっちが死んだんだかわからないぞ、と」


「フッ、本当だな。」

──心の中を見透かされたような嫌味すらも私の身体を通り抜けていく。


薪はカランと音をたてて崩れ、相変わらず乾いた音をたてては燃え続けている。



「“頼む”と言われていた。」


「仔犬にですか、と」


「“アンタしか頼める奴がいなくて”“頼んだからな”」

今でも覚えてる。
私は特に肯定もせずに私に“頼む”と言うとは面白い奴だと思ってただ、笑った。

「手紙を預かった。88通もあったんだがな」


はじめは笑顔だった。だが、気づけば消えていた‥。


「私は、…何をしてきたんだろうな。」


肯定はしなかったが守るつもりだった。
時間がかかっても渡すつもりだった。


結果は──どうだ?



「ツォンさん。」



「守れなかった約束も、渡せなかった手紙もツォンさんは引き受けたぞ、と」


「?」


「努力してたのをタークスは見てたぞ、と」


──結果を出して初めて“努力”ではないか。


「だけど、世界は結果だけしか残していかないぞ、と」


「守れなかった事実。渡せなかった事実。それが現実だぞ、と」


──返す言葉もない。


「でも、」



「その裏にあった、守ろうとしてた事実。渡そうとしてた事実。それが事の真実。それを知ってるからあの二人は」





「“アンタしか頼める奴がいなくて”ツォンさんに託したんじゃないですか?」


「…少し都合の良い解釈じゃないか?」


「いや、そんな奴等だったぞ、と」



そんな奴等だった、か。


「例え世界が結果だけしか残していかなくても、あの二人は事実も真実も見る。それがどんな事であってもそういう努力をする“そんな奴等だった”ぞ、と。」


「レノ。」



「努力する奴、俺は嫌いじゃないぞ、と」



「あぁ、私もだ。」


───お前達二人のいなくなった世界を、どこか不透明に感じ、確かな世界で生きてる私の方が虚ろになりそうだが、


「フッ、私は部下に恵まれたらしいな。」



「気付くのが遅いぞ、と」



───“努力”していこうと思えた。


「良い焼きいもが出来たかな、と」


「あぁ、お陰さまでな。」


「ボーナスが楽しみだな、と」


「私は良い部下に恵まれたんじゃなかったか?」


「それとこれとは話が別だと有り難いぞ、と」


いつの間にか薪は燃え尽きていて火は消え煙だけが天高く上がっていった。













* * *


「ザックス、なに見てるの?」


「んー?これ?」


ニカッとザックスは笑って見せる。


「女の子からのラブレター。」


「……ふーん。こんなところにまで持ってきちゃうほど、大事なんだ?」


「…ツォンから届いたんだ。」

眼を細め手紙を見つめ優しく微笑んでみせた。

「ツォン?」


「そう、俺の一番大事な娘から残りの88通のラブレター。」


「…88通…。」


それはエアリスにとって身に覚えのある数字だった。


「ツォンらしいよな〜。ずっと大切に守ってくれてたんだぜ?」


「ふふっ、だってツォンだもん。」


「アイツは変わんないな」

「たぶんね?“変わんない”じゃなくて“変われない”かな?」


「あはははっ!だな。ツォンがツォンで助かったぜ!」

「だから、ツォンだったんでしょ?」


「まぁな」



──ツォンがザックスとの約束。私のお願い。守ろうとしてくれてた事知ってるよ?ゴメンね、挨拶もなしに私たち居なくなっちゃって。でもね、いっぱい、いっぱい沢山ありがとうって思ってます。


──貴方が貴方で良かった。

ここから感謝を込めて。






















“さようなら”







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目覚めたツォン。いやーきっとツォンは相当なショックを受けたと思います。そんなツォンを救いの意味を込めて描いてみました。

2010 07 17


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