いってらっしゃい。

うん、いってきます!





そう言って見送ったのが一ヶ月近く前。


まだ、ザックネからの連絡、ないまま。確かに今回、長引きそうだから。とは言ってた…。でも







やっぱり








ただ黙って待つの、キツイな?








『花 < 』






キィー‥──


エアリオは教会の扉が開かれる音に弾かれたように振り返り、待ち人ではないと分かると黙って視線を花たちへと戻した。


「悪かったわね、彼女じゃなくて」


「べっつにー。」

「待ち遠しいわね?」

「そ、そんなこと」


「張れない意地なら張らない方がいいと思うわよ?」

「張ってませんー。」


エアリオは誤魔化すように目の前に在った如雨露に手を伸ばして水を撒きだした。






「貴方……今、水の前に種植えた?」


「あっ。」


チラリとツォン・チャンを見れば、ヤレヤレと言わんばかりに肩を竦めて見せている。



「心配なら行けば良いじゃない。」






「…仕事場に?」



“連絡すれば良い”と言われたとしても、仕事中の彼女にどうやって会いに行けと言うんだ?とエアリオ怪訝な顔で聞き返す。



「仕事場?アイツなら帰ってきてるじゃない。」




「…へ?」

帰ってきてる…?


「知らないの?一ヶ月近く前に怪我して。」


「え!?怪我!!?」

それって、行って直ぐ、か?




「今は自宅療養中よ」


「‥‥‥。」


「エアリオ?大丈夫?顔色が優れないようだけど」


「…何で?」



「エアリオ?」





──ナンデ



俺ハ知ラナカッタンダ?







「心配なら会いに行った方が良いと思うわよ?」


「……別に、うん。」




「そう?」


「……大丈夫、ダ。」



その言葉とは裏腹に、エアリオは立ち尽くし、眼は視点が定まっておらず、指先や爪先は血が通ってないのではないか。と感じるほどに冷たくなっていた。



「やっぱり、張れない意地なら最初から張らない方が賢明ね。」

ツォン・チャンは独り言のように呟き、少しの溜め息を吐き指差した。

「それ、」

「‥‥。」


「それ、良くないと思うけど?」




「‥‥それ。」

興味なさそうに気のない返事を返す。



「はぁ。貴方、いつまで水あげる気なの?」

「──?」

右手に如雨露を持ったまま立ち尽くしていたため、水がチョロチョロと流れ続けていた。

「あっ、わっわっわっ!?」


「ね?」



「冷たっ!」


エアリオは服をパタパタと揺らし気休め程度に水を払った。









はぁ。
なんか俺、笑えてくるぐらいのダメさ、だな?












エアリオは、ふぅ。と溜まっていた息を軽く吐き出しツォン・チャンを見る。しかし、その眼は先程までのどこか視点が合わなく游ぎっぱなしだったものではなく、確かな意思を感じられるものになっていて、ツォン・チャンは一安心といった面持ちで見返した。




「神羅に協力、しない!はい。用事終わり。帰って帰って」

「はいはい。」

「“はい”は一回。」

「エアリオ。」

「なに?」

「社宅の3号棟よ。」

「早く帰れ!」




バタン。





「ふぅ。」


振り返り作業途中の花たちに視線を投げる。









「ゴメン。ちょっと、いってきます。」













  *  *  *




プルルルルル‥

(ん?誰だろう。)

携帯を開き、ディスプレイに表示された名前に慌てて電話に出る。



「も、もしもし!?エアリオ?」


「──あっ、もしもしザックネ?」

「うん。‥どうしたの?」


「うーん……どうしてるかなー?思って」










「そう」








「家の方に、荷物。送ったけど、届いた?」



「え、ううん、まだ………帰ってないから、わからない、わ。」












「そうだよな」








「“ごめんね”」


ザックネは、心配をかけたくない為の秘密が逆に彼を苦しめる結果になってしまっていて、なんとも居たたまれない気持ちだった。



そんな時、天の救いかと思ってしまうぐらいに、ナイスなタイミングでこの場に似合わない軽い音が鳴り響いた。



ピンポーン。




(あ、これかな?)

「エアリオ?ちょっと待ってて。その、上司に呼ばれたから後でかけ直すわ」







「……わかった。」


──ピッ


ピンポーン


「はい!はーい!」
(はんこ。はんこ。)





しかし、それは天の救いなんて恵まれたものでは絶対にないもので



ガチャ
「!──っ!?」


扉を開けたザックネの目の前には、ニヤリと不気味に笑みを浮かべ、携帯を耳にあてたままのエアリオが登場した。。


「どうしてるかなって思ってな。」

「ははっ。はんこ……いる?」


折角のエアリオの登場を手放しで喜べるハズもなく、引きつった笑顔に片手では無意味な判子を持ち出迎えた。













「……あの〜…。」

「はい。」

エアリオは無表情なまま手を出し何かを催促してきた。


「え?な、なんでしょうか?」



エアリオは答えないまま持参の救急箱の蓋を開け包帯などを取り出す。どうやら彼は治療をしてくれるらしい‥‥。




「あー…。はい。」


ザックネは催促されるままに怪我した足や手を差し出した。

ろくに傷の手当てもしていなかったらしく傷口等は包帯も巻かれず、剥き出しのままだった。唯一、怪我した当初にしてもらったであろう、左腕を肩から包帯で吊っている。



「顔じゃなくて良かったな。」





「……うん、まぁ」







「あのね何で、その「ツォン・チャンに聞いた。」



最初から、その質問を分かっていたのか、ザックネの言葉を最後まで聞かずにエアリオは被せて答えた。


「あー、なるほどね。」


「‥‥。」


「………。」




やっとの思いで見つけた話題をバッサリ斬られ、ザックネは傷口に絆創膏やら包帯を巻いていくエアリオを静かに見た。







「怪我、結構してるな?」










「エアリオ」

目線だけが「なに?」と返えってきた。



うっ‥‥。頑張れ、私!













「ごめんなさい!!」



「何が?」

「嘘ついてた。でも!その心配させたくなかったからで、浮気とかじゃないから!!」
「浮気!?」
「じゃないよ!!」







「……。」
「本当、本当だからね!」


ザックネは心臓が破裂しそうなぐらいドキドキして淡々と黙って作業を続けるエアリオを神妙な面持ちで見守った。





「エアリオ?」


「…はい、おわり。」


「エアリオさん?」














「これは、ちょっと、どうなのかしら‥‥?」



ザックネはボクシングが出来そうなぐらい、ぐるぐるに包帯を巻かれた右腕を見せた。






「「………。」」




──ぷっ


「「あっははははは!」」


「ザックネ、浮気って!全然考えて、なかった。」

「エアリオこそ、不器用すぎよ!」



先程までの重っ苦しい空気を吹き飛ばして2人は思い思いにお互いを笑い合う。


「そんなこと思ってみてないこと必死に否定されても、あはははは。変なの。」

「用意周到で来て、あんな真剣にやった結果がコレって!」




「「ぷっ!あっははは‥」」




「あー。笑った笑った。」

笑いすぎて涙まで出てきていたらしく、ザックネが涙を拭いていたが、チラリと腕を見てはまた、笑い出しそうだった。




「で?」

「んー?」










「何、守ったんだ?」

「えっ?」

「ザックネの事だから“何か”庇ったから怪我、したんだろ?」



その言葉にザックネは驚きで目を丸くしながら思った。



──本当、参ったわね〜。敵わないわ。














「……な…。」

「ん?」

「……花。」


「花……?」

「花が咲いてたから。」




「……花、守った。から?」

「だって、足下に咲いてて避けたりしたら折れたり傷つくって思って、そしたらエアリオが悲しむ顔が浮かんじゃって…。」






──驚いた。ザックネ、きっと、何か事情があったんだって、思ってた。




「そしたら…避けるタイミングとか、かわすタイミングを誤っちゃって…。思いっきり攻撃を、まともに受けて…」






──花、だったなんて。


「そっか。」






俺。ザックネの優しさ、好きだよ?










でもな?







「よっし!じゃあ、帰るな?」


「え!?何で!?」


「治療も終わったし。」





「…治療」

「う、うるさいな」



仕切り直しをするように、エアリオは一つ深く呼吸をした。


「それに、事情、聞いた。様子も見れた。」




「そんな直ぐに帰ったら浮気するかもよ?」



「いいよ」

「え!?」

「俺もするから。」

「えー!?」

「ははっ、おやすみ。」


立ち上がりエアリオは扉の方へと足を進めた。








しかし




エアリオはドアの前で一度止まり、一呼吸おいてからザックネの方へ振り返った。



──でも、な?



「どうしたの?あっ、一緒に寝る?」

「ばーか。安静にしてなさい。」







ザックネは危ない──。





「なぁ、ザックネ?」

「ん?なに?」

「俺、花。大切だけど」








だから、






「もっと、大切かも。」

その言葉は、優しい笑顔と温かい声で紡がれた。



「…え?え、何が!?」



「教会で、待ってる。」



──だから、ちゃんと必ず。帰ってこいよ?



「ねぇ!ちょっと!!エアリオ何が!?“もっと大切”ってそれって…」

「お大事に。」


パタン。


その軽い音はエアリオの姿を消し、部屋の中には戸惑い続けるザックネだけが、残された。


「ちょっと待っ…」

結局、伸ばした手は目標物を失い、力なく落ちた。



ドッキドッキドッキ……

一人になると急に自分の心臓の音が近くに聞こえた。


(心臓が、スゴいバクバクいってる。)

頭の中や耳では先程残された言葉、彼の顔や声が鮮明に蘇り自分の手が小さく震えていることに気がついた。


「ははははっ」

(嬉しくて震えるなんてね。)



その感覚を確かめるように、ぎゅっと手を握り締めた。










「あー!!早く怪我を治して教会に行きたいー!!」

チラリとベッドを見る。




「待ちきれない!!」
バフッ!!!

「!!?痛ーーッ!!」


勢いよくベッドにダイブしプラス全治2日の延長。










  *  *  *





エアリオは作業途中だったこともあって、教会に戻ってきていた。

だが、



手入れをせずに、椅子に腰掛け、あの穴を見上げていた。








──ザックネ。花を守るため、怪我までした。その優しさ、好きなんだけど、同時に恐怖を覚えるよ?


大切な仲間。大切な友人。沢山の“大切”を守ろうとする彼女はきっと危ない。



だから



これからもザックネの無事、祈ってる。でも











やっぱり。




ただ黙って待つのは、キツイな。






-----------------

本当の本当にお待たせしました。折角の1000hitリクエストなのに、このざま…。前回のリベンジ戦と気合いを入れて描かせてもらったのに気に入らず2・3回ほど全消しをしてまで描いたのに、やはり、このざま。(;_;)すいません、雪那様こんなので良ければ受け取ってください。愛だけは詰まってます!

あっ!勿論、随時苦情受け付けます(切腹)

2010 06 29


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -