ザックスは今日という日に仕事が入ることもなく教会へと行けることを感謝しつつ、これから起こる出来事を想像しては顔をにやつかせながらスラムの街を駆けていった。









『愉しい日』








バターーン!!!!!

「おはよう。エアリス!」



勢いよく開けられ扉にびっくりしたエアリスは、作業してた手は止まり、零れ落ちてしまうのではないかというぐらい眼を見開き返事をした。






「…ザックス、おはよう。」

「へへっ。」


「……?」



ザックスが何か言いたそうに笑ってしていたが、その愉しそうな表情とは裏腹にエアリスはなんとなく嫌な予感がした。



「……どうしたの?」













「エアリス俺な、新しい彼女が出来たんだ!」



一瞬で全身の血の気が引き身体は固まった。




「ホントウ?」



――ウマク、返事。出来タダロウカ?



「本当本当。」







「…そウなんダ。」



エアリスはゆっくりと視線を花達へと戻し作業を再開しようとしたが手に力が入らず土の表面を無意味に遊ぶだけだった。











「エアリス、エアリス。」





「うん?なーに」


うまく表情が作れなくてエアリスは誤魔化すように気のない作業を続け振り返らずに返事した。


「う・そ」



「‥え?」

「今の嘘だぜ?俺はエアリス一筋なんだから他の娘と付き合うわけないだろ〜」



顔を上げてザックスの顔を見れば、悪戯っ子の様な笑顔でこちらを見ていて、まんまと騙された。と認識すれば先程何処かへいった血が全身を一気に駆け巡り、今度は身体中が熱くなっていった。






「もう!信じられない!なんでそんな嘘つくのよ!?」








「いや、だってさほら。今日エイプリルフールだから」

「…あっ!」


ザックスは想像通りの展開に内心愉快で仕方なかった。







「な?1年に1回ウソつく日だろ?」

「ザックス、1年に1回じゃないじゃない。」

「うっ、て、訂正。1年に1回ウソが許される日。」


エアリスが腕を組み何かを考え始めザックスはそれをニヤニヤしながら愉しそうに眺める。














「ねぇ、ザックス。」
「ウソだろ?」





「……。」


「ん?どうしたエアリスさん?」




「なんでもないです〜。」


―――予想的中。


「あっはははは!エアリスはカワイイな〜。ウソつくならもっと巧くやらないと。」


この単純さ素直さはエアリスの魅力の一つだとザックスは思っている。その一つ一つがザックスの心を惹きつけて止まないのだった。




「いーの。私、嘘好きじゃないから。だから、ザックス嘘つくから嫌い。」


そう言ってエアリスはそっぽを向いてしまった。もう話さない!とでも言うような態度で花の手入れに集中する。




余裕のある態度でそんなエアリスを見ていたザックスだったが、手入れをするエアリスの土いじりの音だけが教会内で不気味に響き段々と不安な気持ちにさせられた。




(……え?あれ?これが仕返しの嘘だよな?いや嘘であってほしいんですけど…。)


「もしも〜しエアリスさん?嘘…ですよね?」



「…本当。」
「ごめん!!」


手を目の前で勢いよく合わせた。






「どーしよっかなぁ?」


そんなザックスを今度はエアリスが悪戯っぽく笑みを浮かべて覗き見ればザックスは片方の眼だけ開けてエアリスの様子を伺う。


「このとーり!ね?許して?」




(ふふっ、ザックスの方がカワイイと思うんだけどなぁ)


「うん、良いよ。」

「マジ!?」

「しょーがないから許してあげる。」



「はぁ、心臓に悪かった〜」


「ザックス、大袈裟。」


「そんなことないって。エアリスに嫌われるなんて一大事だろ?俺の人生最大のピンチ」


「クスクス、オーバーじゃない?」


「知らないな〜エアリスは。俺がどれだけエアリスの事を想っているのか」


「どのぐらい?」





「……うーん。」


感覚として自分の中にあるものを聞かれて改めて言葉にするというのは難しくどう表したものかとザックスは腕を組みながら真剣に答えを探した。












パチンッ!!


それはザックスの癖らしく、閃いた時などにザックスがよくする行動だった。エアリスはそれの次に待っている彼の答えに耳を傾け、期待した。






「世界中の好きって気持ちを集めても足りないぐらいエアリスのこと想ってる!」


「ふふっ、すごいね。」

「スゴイだろ!」


そう胸を張って答えた時―――。



プルルルルル。



いつもこの音は絶妙なタイミングで鳴るものだ。






「すごいね。」

「スゴイだろ…。」


ザックスが少し大袈裟に項垂れながら答え渋々ポケットの中の携帯電話に手を伸ばした。





「…はい……。」

ピッ。




「お仕事、だよね?」


「お仕事です。」


「じゃあ送ってくね?」

「えっ!?いーよいーよわざわざ。まだ花の手入れ終わってないだろ?」

「私、駅の方に用事あるから。」

「用事?」

「うん。この子達の肥料買いに行くから、ザックスそのついで。」






「え?俺がついでなの??」


ザックスがその事に少し呆けてる間にエアリスはさっさと教会を出て行ってしまった。


















「そういえばさ肥料って重くないか?」

「うん、重いよ?」

「持って帰れるの?」

「ううん、送ってもらえるから。」

「なるほど」

「心配?」

「そりゃ心配だろ〜。だってエアリスすぐ騙されちゃうもんな?」

「もう、言わないでよ。恥ずかしい。」

「可愛かったな〜」


「本当に知らないんだから。」

「ハハハハ。ごめんって」





他愛もない会話をしているとあっという間に駅へと着いてしまっていた。





「じゃあお仕事、気を付けてね?」


「おうよ!またすぐ帰ってくるから。」


「うん、バイバイ。」


手を軽く振りればザックスが手を振り返してくれる。それを見てエアリスは振り返り歩き出した。








(……あれ?)


「エアリスー!!店、あっちじゃなかったかー!?」

ザックスは離れた距離を歩いてくエアリスに指差しながら大きな声で話しかける。


エアリスがその声に振り返りザックスの指差す方を見てからエアリスも同じ方を指差した。


「そうそう。店そっちだろー?」


「うん。」


「へ?」
(なんで?)









「1回だけ、許されるんでしょ?」


エアリスは答え、その整った顔で優しく綺麗に微笑むと、返事も待たずに振り返り、教会の方へと帰っていった。



「……。」

残された言葉と笑顔に驚き呆然としつつ、風に髪を揺らされ教会の方へと消えていく姿を綺麗だな。などと悠長な事を思い、その姿を見送った。


ふいに顔に風が吹きかかり、我に返ったザックスはニヤリと笑みを浮かべる―――。







「うそつきめ。」






ザックスは今日という愉しい日にエアリスと過ごせたことに感謝しつつこれから行う任務を素早く遂行するために気合いを入れ直しスラムの街をあとにした。




――単純さ素直さだけじゃないところも君の魅力なんだ。俺のこと離すなよ?





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これラブラブか?
題名が「うそ」や「エイプリルフール」等ではないのは、オチがバレないようにという無駄な抵抗の表れです(笑)まぁ流れでバレてしまうような話ですがね(汗)

あ、そうそう。私の家にもカレンダーぐらいありますよ?

2010 06 14


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