今日もいつもと同じ様に朝が来て



今日もいつもと同じように教会に行って



今日もいつもと同じようにお花たちのお手入れをする


ただいつもと違うのは雰囲気だったり空気だったり眼に見えないもの



なのに確かに私の身体にまとわりついている重く貼り付く空気。心がざわついて落ち着かない。



うまく呼吸が出来ず息苦しい。




ふと空から声が聞こえた気がして彼の落ちてきた穴に向かって眼を瞑り祈っていた。




彼が無事に帰ってきますようにと。







『アングレカム〜トンボの眼鏡〜』









私の耳に声が聞こえた。


星の声。
聞きたくなかった声が届く。


耳を塞いでも私の中にこだまする声は私の意思とは裏腹に確かにその声を響かせる。




(イヤ、そんなの嘘!聞きたくない!)


先程よりもきつく眼を閉じた。


祈るために眼を閉じたのではなく、現実から眼を反らすために見たくないモノから遠ざかるため。







足の力が抜けその場に座り込み名前を呼ぶ。



「ザックス…。」



「…はい……。」



「え?」



エアリスは自分の独り言に返事があったことに驚き見上げるとそこにはザックスが何かを抱きしめ損ねたのか少し前屈みに腕をクロスして立ち驚きながらエアリスの方を覗いていた。



「何…してる……の?」



「……えーと。」



「ザックス?」



「いや〜後ろからエアリスに思いっきり抱きついて驚かそうと思ったらさ、いきなりエアリスがしゃがんで俺の名前呼ぶから逆に驚いた。」



そう答えながら笑うザックスの笑顔は記憶の中の彼、四年前のザックスの笑顔と同じでエアリスは自然と笑みが溢れていた。



「ふふっ。ザックス変わらないね。」



「おうよ!エアリスは勘が鋭くなったんじゃない?上手くかわすなんてさ。ソルジャーの素質あるかもよ?」



なってみる?とイタズラっぽくザックスが聞いた。


“仔犬のザックス”という言葉をエアリスは久し振りに思い出す。



「ふふっ。じゃあ、なってみようかな?」



「ダーメ。そんな危ないことエアリスにさせません!」



「クスクスクス。ザックス、言ってる事めちゃくちゃだよ?」



「いーの。だってココに着くまでに俺の予定とかもう色々とめちゃくちゃになっちゃったし?」



「それなら、私も同じ。ザックス帰ってきたら、やりたいこと言いたいこと、あったのに全部“めちゃくちゃ”」

「どんな?」

「…うーん、例えばね?」

「うん。」

「ザックス。」

「ん?」








「ギュッてしても、良いですか?」



ザックスは顔の筋肉が緩んでいくのが自分でもはっきりと判った。



「…もちろん!!」

両手を広げて笑顔で答えるとエアリスも少し照れくさそうに笑いながらザックスの腕の中にゆっくりと収まった。












「なぁ。エアリス?」



「なーに?」



「その…言いたかったことってのは何?」









「んー……忘れちゃった。」









「……そっか。」













「エアリス。」



「何?」



「俺さ、エアリスを連れていきたい所あるんだけど付き合ってくれる?」



「良いけど、どこ?」



「ナイショ。着いてからのお楽しみ〜。」



ザックスは言いながら少し強引にエアリスの手をとって教会の外に出て行った。




スラムの路地裏を駆け抜け、あっちに行ったりこっちに行ったりと色々な道を通って行く。



その道どれもがエアリスには見覚えのない道ばかりだった。



「ザックス、よくこんな道知ってるね。」


「まぁな〜俺のとっておきの道なんだ!ちゃんとついて来ないと迷子になっちゃうぞ?」


エアリスは繋いでいる手にぎゅっと力を入れ強く握りしめたがザックスは手と一緒に胸辺をもぎゅっと握りしめられたような思いだった。




「ほら。あそこを抜けたら目的地だ!」



エアリスがどこ?と聞きながら前を見ると前方から光が差し込んでいて抜けるというよりもソコに入っていくという感覚だった。



「到着〜。」
「ぅわ〜。すごい…。」



そこには広い大地に青い空が広がっていた。


そのすごさに圧倒され身体ごと全部吸い込まれそうな感覚に陥りそうになった時だった。ふいに後ろから抱き締められ身体の感覚が自分の中に戻ってきたのが分かった。


「ザックス?」エアリスは回された腕に触れながらザックスを覗いた。


「へへっ、これならエアリス空に吸い込まれないだろ?」



そう言うザックスの瞳の空に吸い込まれそうになり触れていた腕をギュッと抱えた。



ザックスは握られた腕に温もりを感じ一度微笑みエアリスの頭をくしゃくしゃと撫でて歩き出した。



エアリスは撫でられた頭にそっと触れ前を歩くザックスをゆっくりと追いかけた。


ザックスは足を止め気持ち良さそうに大きく伸び、深呼吸をして話しかけた。


「緑の匂いがしてさ、気持ち良い風が身体を通り抜ける」


エアリスも足を止めて深くゆっくりと呼吸をした。




「な?」
「うん。」
ザックスが振り返りエアリスは頷いた。


「それ全部を空はいつだって見守ってるんだ。」


ザックスが上を指差す。それにつられてエアリスは空を正面から見た。


「穏やかで、暖かい。な?恐くなんてないだろ?」



「うん、ザックス一緒だから平気。恐くないね」



「そーだろそーだろ!」



「ありがとう、ザックス。空、一緒に見に来てくれて。」


「んー?俺がエアリスと空を一緒に見たかっただけさ」


ザックスは空から眼をそらさなかった。




「トンボの眼鏡。」

「え?なに?」


「ううん。
ねぇザックス?手、繋ごうよ。」



「え?」



「ね?手、繋ごう?」


ザックスは差し出された手に少し戸惑いながら重ね、エアリスに先導されるように歩きだした。



ゆっくりゆっくり2人は歩く。
一歩一歩を踏みしめ。
一歩一歩を確かめるよう。ゆっくりゆっくりと…。



歩いてく。






「あー、エアリス?」

「ん?なーに?」


「ありがとな。ピンクの服を着て待っててくれてさ。」


「次、会うときの約束なんでしょ?」


「まぁーな。だからこそ嬉しいじゃん?」



「なんで?」



「俺との約束を忘れずに覚えていてくれた。想われてた証拠だろ?」


ザックスはいつものようにニカッと笑って見せたけどエアリスはどこか悲しげで思わず俯いてしまった。


「…ザックスも約束、守ってくれた。」



「……空?」



「………うん。」



ザックスは堪えきれず頭をガシガシと大袈裟に掻いて自分を誤魔化した。







「そういやさ、花の売れ行き好調らしいな。」



「え?」



「手紙、読んだよ。」



「本当!?」



「元気ですか?どこにいますか?あれから四年です。そして、この手紙は89通目。」



「覚えてるの?」



「もちろん!何度も何度も何度も読んでたから覚えちゃった。一語一句間違えずに言える自信あるね!」

そんなことに自信満々に胸を張り誇らしげに答えるザックスが可笑しくてエアリスは声を出して笑ってしまった。


「あ!笑うなよな〜」

「だって、そんなこと胸張るなんて。」


「そんなことじゃないって。大事なことさ!」








「花の売れ行き好調なんだって?」


「うん。」


「みんな笑顔になるんだって?」


「うん。」


「俺も見てみたいな〜。そん時の笑顔。」







「……うん。」




「はい、エアリス。」

「え?」

ザックスはエアリスに一つの花を差し出した。


「笑顔になれるように、俺からエアリスにプレゼント。」





「ふふっ。ありがとう、ザックス。」

「どういたしまして。」

エアリスは大事そうに抱え眼を細めて花をじっと見つめザックスはその様子に微笑み、眼を細めて見つめる。



「それ、俺からの手紙の返事。書く時間なくなっちゃったからさ…」


エアリスは顔を上げザックスを見つめた。
ザックスもエアリスを見つめていたがザックスはそれ以上何も言わなかった。






「……また、会えるよね?」



「もちろん。」



「…いつ、会えるの?」












「全部終わったらまた、な」



「全部?」







「エアリスもう時間だ。そろそろ眼を開けなきゃいけない」



「私、眼、開けてるよ?」

「エアリス、トンボの眼鏡だ。」


「え?」


ザックスが上を指しながら言ってきたのでエアリスもつられて空を見上げた。


「夜空?」


そこには先程ザックスと見た青空ではなく、黒が広がっていたが、

不思議と恐くはなかった。


「ザックス…?」


「エアリス、風邪引くぞ。」
それはザックスよりも少し低い声で眼の前の夜空は、いつの間にか黒いスーツに変わっていた。






「…ツォン?」


「疲れてるんじゃないのか?ずいぶん寝てたぞ。」




「ううん、大丈夫。」

エアリスは辺りを軽く見回してからゆっくり立ち上がる。

「それならば良いが…。無理はするな。」




「ここ、やっぱり教会だね。」


「?あぁ。いつもの教会だ。…やはり疲れてるんじゃないのか?家まで送るぞ?今の君はいつにも増して危なっかしそうだ。」


「クスクス。タークスが?良いのそれ。」

「…まぁなんとでもなるさ。それに君を危険要因から守るのも我々の仕事だ。」

「なんかツォン、今日は特に優しい?」



「……別にいつもどおりさ。」


「「…………。」」


「隠し事?」


ツォンは言われてドキリとし、ポケットの中のものを握りつぶした。その音を誤魔化すようにツォンは話を逸らす。
「その花はどうしたんだ?ここでは見かけない花だが。」


「これ?この花は“アングレカム”」


「アングレカム?」


「うん。」


「そうか、少し気になってな。」


「珍しいでしょ?」

「あぁ。」


「ふふっ。勉強、してくれてたんだね?」

「……?」







「さぁ、私、一人でちゃ〜んと帰れますから、出てって出てって。」


エアリスはぐいっとツォンを出口の方に押した。ツォンがそれに反論しようと肩越しに見たエアリスは眼が“一人で帰れるから”と言うよりも“一人になりたいから”そう言ってる気がしてその場は大人しく出て行くことにした。





バタンと静かに扉が閉まりエアリスは4年前ザックスの落ちてきた場所に腰を下ろし、花をくるくる回しながら眺めた。






「あなたは手紙の返事なんだって…。ふふっ、ばっかみたいって思っちゃう?でもね?」





「すごく嬉しいよ?」



エアリスは自分の言葉をきっかけに溢れる思いが身体中を駆け巡り堪えきれず涙を流した。






「うっうぅ…笑顔…いま、無理。ザックス、居てくれないと……うぅっ。出来ない、よ。……ズルイよ。
………ばか。。。」









手紙の返事“アングレカム”の花言葉は、














“いつまでも、あなたと一緒”







ねぇザックス。本当はね?「おかえりなさい。」って言ってあげたかった。






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妄想の段階では良かったと思ったのに描き起こしたらそうでもなかったのは、きっと文章力の問題だと自分でも認識しています(泣)

2010 06 06



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