オブーバー





次会うときは、もっと素直で可愛い子になろう。


そう思うんだけど、



そう出来ない理由。
そうしない理由。

きっと、ザックスは知らないよね?




「長期任務?」
「そうなんだよ…。」


残念そうに、後ろ髪をいじるその姿。またしばらく見れなくなっちゃうんだ…。


「…お仕事だもんね?今度はどこまで行くの?」
「あれ?どこだって言ってたっけかな?」


「クスクス、聞いてなかったの?」
「いや、ちゃんと聞いてたんだって。ただ覚えてないだけでさ」

「ふふっ。もっとダメなんじゃない?」
「そうかもな。で?お土産は何がいい!?」
「どこ行くか分からないのに?」


「うーん、暖かいところだった気がするんだよな〜。コスタだったけかな?」
「こすた?」
「リゾート地。そーだ!コスタだったらさ、キレイな貝殻とか写真をたくさん撮ってきてやるよ!」
「あっ。それ見たいかも!」
「だろ〜?」


ザックスがいつもの席に腰をかけて、頭の後ろで手を組む、お決まりの姿。

色々と想像しているのか、楽しそうに

「あそこの景色がいいかな〜。」
「入れ物持って行った方が良いな。」
「ん?携帯じゃあんまキレイじゃないから、カメラは…誰かに借りるか。」

あれこれとシュミレーション中みたい。



私は私で、今も色々と悩み中のザックスの声を背中で聞きながら、いつもの日課のお花達のお手入れを始める。




「なぁエアリス?写真の空なら見ても怖くない?」
「うーん、どうかな?」


「貝殻とかさ、どんなのが良い?」
「なんでも良いよ。」


「海ってキレイなんだぜ?」
「そうなんだ。」


「そこはさ、冬でも暖かいんだよ!まぁ夏はスッゲー暑いんだけどさ。」
「すごいね。」

「・・・・。」










コツコツコツ…。


不意に、足音が聞こえてきたと思ったら







目の前にドカリとザックスが腰を下ろす。

「ザックス?お手入れ、しにくいよ?」





「…なぁ、」

「なーに?」


いつもより少し低めの声が降ってくる。
もしかして怒ってる?
そう思うけど顔は上げずに手を動かし続ける。


「俺、いま邪魔してんだけどさ、」
「うん。だからどいて?」


「なんで?」
「なんでって何が?」


「なんでこっち見ないんだよ。」
「お手入れ中だからだよ?」
「俺が話しかけてんじゃん。ちょっとぐらいこっち見ろよな。」
「きゃっ!?」

言うが早いか、ザックスが私の腕を力強く、ぐいっと持ち上げた。


「…んだよ。」
「だって…。」


時間も空気も――止まる。


引っぱられた勢いでザックスを見上げれば、

驚きながらも、少し困ったような表情。
その原因は…










私が、少し涙目だったから。…かな?



「な、んで…。」



「だってザックス、楽しそうにしてるから。」
「…。」
「長期任務なのに楽しそうで、でもザックスの夢。邪魔したくない。ここまで頑張ってきたザックスの夢は誰にも邪魔されたくない。」

「エアリス。」


「だから、寂しいなんて言いたくない。気づかれたくない。」


「――と思った。」

「え?」


小さくゆっくりとザックスが息を吐く。
ザックスの手の力が抜けていく――。


今の今まで強く握られ、ザックスに自由を奪われていた私の左腕は、ザックスの右腕と共に、だらりと垂れた。


「ザックス?」

「俺だけかと、思った。」


ザックスがもう一度、手に力を込め私の手を握りしめる。







「俺だけが寂しいなんて思ってるのかと思った!」

「そんなこと――」
「だってよエアリス、全然素っ気ないんだもん。不安になるじゃんか!」


少し不貞腐れたように、でも――。



ふふっ、口の端の緩みは隠せないみたい。


「ザックスも寂しかったの?」
「あったりまえだろ?時間が止まれば良いのになぁ。なーんて考えるぐらい必死なんだぜ?」
「なにそれ?子供みたい。しかも駄々っ子!」
「それぐらい離れ難いの!俺は。」



いつもね?
次会うときは、もっと素直で可愛い子になろう。
そう思うんだけど――。




「クスクス、恥ずかしくない?」
「笑うなよな〜。」
「女の子が言うセリフみたい。」


ザックスの方が可愛くて、

そんなザックスをいつまでも見ていたいから
見られなくなるのが残念だから。




「誰にも言うなよ?」




オブザーバー。






ザックスが素直で可愛い私に会える日は、かなり遠いかもね?








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