If...覚醒





夢と誇り。その他諸々、全部アイツにやっちまった。




遺(のこ)した俺の腕の残された役目っていったら





サヨナラのために手を振ることぐらいってのが、やっぱちょっと悲しいよな。





そんな事を考えて、地上を見納めようと眼を開けたらさ、




(‥‥‥‥あら。)




見慣れた奴が迎えに来てくれていた。




(にしてもさ、ちょっと早くないか?)



まだ最後の空を堪能してない。





そんな軽口も文句も言うヒマもなく、あの見るからに力強い腕を俺の方へと伸ばしてきた。



(はぁ…まぁしょーながないか。)




結局、俺の遺された腕は残された役目を終えることもなく空に向かって伸ばし、奴の手を取った。


























いや、正確に言えば“取ろうとした”



寸前のところで奴の手は俺の手を無視して、俺の頭へと伸ばされた。




(え‥‥?)


「お前は英雄になるんじゃなかったのか?」


(‥‥‥。)



「まったく、お前らしくないな。諦めるなんて」



(こんな時にまで説教か?アンジール。)



「生憎、時間がない。」


時間がない?



(これからイヤって程あるだろ。)




「お前もこっちに来るんだったらの話だろ?」


(いや、だから‥‥あれ?)



「待たせてるんだろ?」











(あぁ。)


「じゃあ行ってこい。話ならまたいつか、たっぷりとしてやろう。」



わしゃわしゃと優しく俺の頭を撫でる懐かしい温もりに、埃くさい現実へと導かれた。



















「っ!?‥‥‥いってぇ‥‥!」



息が詰まる。


胸の傷が痛くて肺に空気を入れるのを躊躇うけど…




(酸素っ!呼吸が!)


「はっはっ…はぁっ!」



肺は沢山の酸素を欲してる。



身体中が痛てぇ。


もうどこがどう痛いとか分からねぇけど、身体中が今にも引き千切られるように痛てぇっ!



息を吸えば吸うほど骨に穴が開きそうな程に、息を吸わなきゃ肺が吸わせるために俺の肋骨を壊しかねないほど大きくなろうとする。



俺のやりたいこと、考えてることに身体は反発するように俺の使える機能をフル活用しようとして











そりゃもう大変なパニックだ。




そんな中、一つの思いだけが俺と身体で一致してる。












(俺は、生きてやる!)



このまんま死んでたまるか!



声にしたくて喉を震わせようとしたら、身体が悲鳴をあげた。




「‥っ‥‥!!」




とりあえず横たわることしか出来ない身体を何とか起こして治療してやらないと






ミッドガルに帰れない。



見たいのは最後の空でも、こんなゴツゴツした岩山でもない。



















あの花畑。





当たり前だった景色をもう一度。




もう一度見たのなら
















これからも




その先も





ずっと当たり前として見たいんだ。





(エアリス、待ってろよ。)




(必ず、必ず帰るから…)




(だから…)












(どうかまだ俺のこと、まだ忘れずにいてくれ。)






何も持たないただの男が





寝心地の悪いその場所から貼り付いた重い身体を無理矢理、引き剥がした。








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