し鬼





汚いもので溢れている世界。



この世界は、黒い。







昔から黒かったか?
そんなこと今さら分からないし、





興味もない。




俺はこの黒い世界で、自分の道を決め、自分の意思で進む。



それで良かったし、迷いはなかった。




なのに…










あの時、振り上げた腕は俺の意思じゃない。

あの時、邪魔な存在だと思ったのは俺じゃない。

あの時、殺そうと決めたのは俺じゃない。




あの時、俺を止めてくれたのは


俺の意思じゃ‥なかった。





俺はこの黒い世界でも一人で生きていけると思ってた。





世界が黒かった理由も知らずに…







俺の眼は覆われ、意思を殺されていた。




そんな事も気づかずに、導かれるように足を進め、誘(いざな)われていただけ。










耳をすませば聞こえてくる──…



「鬼さんこちら手の鳴る方へ」

「鬼さんこちら手の鳴る方へ」



この目隠しは、いつからされていたんだったか‥‥。





もう思い出せない。










俺を導くモノ、それは必ずしも正義とは限らない。



それでも

手を伸ばし、探るように



「鬼さんこちら手の鳴る方へ」



声のする方へ。


コエのする方へ。







俺は手を取ったのか、取られたのか。



鬼は俺なのか、アンタなのか。









分からない。






ワカラナイ。





(そういえば…)




昔、世界には眩しく光る何かがあった気がする‥‥。






アレは何だったか?










手を伸ばしてみても、もう届かない気がする。











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