前に一度聞いたことがあった。





「ねぇ、ザックスは誕生日、いつなの?」



「俺?俺には誕生日ねーの。」



「ない?何で?」



「ほら、俺ってさ、黙って家飛び出てきたじゃない」



「そんな親不孝者には誕生日なんて良いものねーの。」




初めて、ザックスの笑顔を寂しい。そう思った。














『キミだけに届け。』















誕生日がないのって寂しい。




だってそれじゃあ






お誕生日おめでとう。

その先にある──
生まれてきてくれてありがとう。
アナタに出会えてよかった。







大切なこと、伝えられない…。






「うーん、何か理由つけてお祝い、しようかな?」



出会いの記念日?

あ。ザックスがソルジャーになった日も良いかも。

他にも…




「悩み事か?」

「きゃっ!?ザックス!?いつの間にいたの?」




「なーに言ってんの!俺はいつでもエアリスの近くにいるぜ?」



さらっとそんな言葉が口から飛び出てくる辺りには感心しちゃうけど。




「ザックス、眼が笑ってる。」

「そうかー?そんなことないだろ。」



ニヤニヤと口許が緩んでるよ?





エアリスは、その緩んだ口許が段々と誇らしげにそして、その眼は「聞いて聞いて!」と言わんばかりに自分を見ていることに気がついた。





「ザックス、何か良いことあったの?」


「さっすがエアリス!よく分かったなぁ。」


「ふふっ、やっぱり。なにがあったの?」




「先ずは、はい。これおみやげのケーキ!」


「ケーキ?」


渡された箱は両手で持つのが相応しい位の大きさのものでエアリスが知っている、一切れ、二切れ。と数えるような大きさのもではないのが文字通り手に取るようにわかった。



「でっかいだろ〜?」

「うん、もしかしてこれがワンホール?」



「そう!スラムじゃあんまり売ってないからさ、エアリスに見してやりたくて買ってきた。」



「うん。初めて手にした。」

「だろ?じゃあ食おっか?」



「え?今?」

「?うん、腐っちゃうぜ?」


確かにそれはそうなんだけど…と思うが肝心のザックスは今、ココで食べさせる気満々の様子。



「お皿とか、フォークとか分けるためのナイフもないよ?」


「このまま食べちゃえばいいじゃない。」



「ほら、こーやって」と言いながらザックスが口を大きく開けて一口パクリ。




「…上手だね?」

「ほら、エアリスもやってみろって。」


「でも…」


「じゃあ食べさせてやろうか?」




「…自分で食べる。」

「ちぇ…。」



少し拗ねて見せるザックスを横目にエアリスは、目の前の大きなケーキをどう掴むべきか悩んでいた。


「…やっぱりナイフを取りに──」

「剣があるぜ?」



ザックスが背中に背負った“誇り”を指差して見せる。




「…なんでもない。」




エアリスが諦めたようにケーキを一掴み取り、口を大きく開けて一口パクリ。



「どう?上手いだろ?ここのケーキ。」


「うん!…美味しい。」



「だろ?だろ?一度エアリスに食べさせたかったんだよ。」


「ありがとう、ザックス。このケーキ本当に美味しいよ。」



「じゃあさ、遠慮せずに食べて食べて。」


さっきまで躊躇っていたのが嘘みたいにケーキの美味しさに釣られ、手は迷うことなく伸びていた。



「ふふっ、確かにこれは“良いこと”だね?」



先ほどザックスが言ってた“良いこと”とはコレの事かと納得して、エアリスとしては当たり前の回答をしたものだと思った。


だからまた、ザックスが嬉しそうに肯定するものだと思っていたのに───



「ぷっ、くくくく‥‥‥」


「ザックス?」



「あっははははは!!エアリス顔にケーキ付けてるぜ?」


「え!?どこ!?」

「お約束だな〜。ただ場所がな、意外って言うかさ、あんまり可愛いげがないようにも感じるよな。」



「だからどこなの?」





「あご。」


そっと顎に手を伸ばせば確かに生クリームの感触が‥

「やだっ!なんでこんなところに?」


「な!面白いだろ!?」
「面白くありません。」





「いやー、やっぱ今日はエアリスに会いに来て正解だったな。」


「今日、なにかあるの?」


「へへっ、第二弾!」



第二弾…?



「エアリス、デートしようぜ。」


「今、してるでしょ?」


「いやいやいや、もっと本格的に外でデート!」



どうして?
そう聞こうと思ったんだけど…






「な!」



ふふっ、ザックスが眼をこれでもかっ!ってぐらいにキラキラさせてるんだもん。




「いいよ。」


理由なんてなんでもいいよね?














外に出たザックスは、さっきよりもはしゃいでて



「エアリスどっか行きたいとこあるか!?」

「お。あれ見てみろよ!」

「エアリス、エアリス!これエアリスに似合うんじゃない!?」




クスクス。なんか、子供みたい。

「コラコラ、そんなにはしゃいでると転ぶわよ?」なんて注意がどこからか聞こえきそう。




「どうしたんだ?急に笑いだして。」

「ううん、なんでもないよ?」


「そう?」







「はい。」


「ん?」

「手、繋ごうよ。本格的にするんでしょ?デート。」



「ぉ、おう。」





なんか───



「なんかこういうのってさ…」

ザックスも私と同じこと思ってるのかな?そう思って



「楽しい?」


でも



「…いや」




違かったみたい…。




「…楽しくない?」


「いや、そーじゃなくてさ、なんかこう……」

「こう…?」





「スゲーの!なんかもっとスゲーんだよ!!」


ザックスが嬉しそうに笑って繋いでる方の手をブンブンと振り回す。


「ザ、ザックス?」


「ははっ、エアリスとだともっとスゲーんだ、俺!」



よ、よくわからないけど…。



ザックスが嬉しそうだからいいかな?



「よし!エアリス、なんでも欲しいもの買ってやるよ。」

「え?なに急に…」


「俺からエアリスにプレゼント!」


「いーよ、いーよ悪いもん。」


「いーから、いーから。そういう気分なんだよ、俺が」


「‥‥‥‥。」



なんか




「欲しいものない?」





だんだん分かってきたかも…。



「うーん、じゃあね…」


「なになに!?」





「花火。」

「花火?」

「うん、それなら2人で出来るでしょ?」




「花火か‥。花火。うん、いいなそれ。よし!じゃあ───」
「ちょっと待って。」


「どうした?」


ザックス、今日のこのテンションだと走り出しかねない…



「あのね?ゆっくり行こ?」


多分、ザックスのお仕事、今日休み。


携帯もきっと電源を切ってる。






多分だけど、絶対。




「せっかくだから、ゆっくり歩いて行こ?」


「それもそうだな。」





ゆっくり、ゆっくり歩いてく。




2人手を繋ぎながら。








何か面白いことがあった訳じゃないけど




2人手を繋いで、ニコニコ笑顔で歩いてく。






ゆっくり、ゆっくり今日、この時間を大切に。














「おわ!?花火って結構種類あんのな。」

色とりどりの手持ち花火に吹き出す花火や、打ち上げ花火。


小さいさくてすばしっこくぐるぐる動き回る花火に、夏の定番。線香花火。



「ふふっ、沢山あってどれにするか悩んじゃうね?」



「え?なんで?」

「え?」




「おっちゃーん!この花火ぜんぶちょーだい。」


「え、ぜんぶ!?」


「…全部ってアンタ、金あるのかい?」

「あったり前だろ。こう見えて俺は高給取りなんだ。」


…それってあんまりいい意味じゃないんじゃ…。





そんなことを思ってる間にザックスがお会計を済ませて両手にいっぱいの花火を持ってきた。


「じゃあ行こうぜ。」


本当にぜんぶ、買っちゃった…。




「どうした?ボーとして…あ。まだ他にも欲しいものあったか!?」


「ううん、大丈夫。それより荷物、片方持つよ?」


「大丈夫。男のたしなみだからな。」


「うん、でもね?」

「でも?」






「これじゃ手、繋げない…。」









「はぁ…。俺、両手が空いてたら間違いなく抱きしめてたわ。」


「クスクス、本当そんなことばっかり言って。」


「笑うなよな〜。」


少し残念そうなザックスから荷物を片方受け取って、もう片方の手はしっかりとお互いの手を握り合う。





「ねぇ、どこでやろっか?」
「う〜ん、そうだなぁ。」


「やっぱり公園?」



「あそこって意外と民家近いじゃん?だからさ、この時間だしあそこどーかな…」



「あそこ?」


「ほら、列車置き場ってーの?あそこなら民家も割かし離れてるしうるさくしても迷惑にならないんじゃないか?」



「でも駅員さんとか居るんじゃない?」


「とりあえず行ってみようぜ!」


結局、駆け出すザックスにグイッと手を引っ張られて二人して走っていく結果になってしまった…。




でも手は繋いだままだし、いい、かな?







「おぉ!な?だーれも居ない!」


ザックスが両手を大きく広げながら辺りを見回すように奥へと歩みを進めた。


「ふふっ、貸しきりだね?」

その言葉はザックスのツボにハマったらしく一段と目を輝かせて同意する。



「なー!貸しきりだな!よし早速やろう!」



「どれにしようかな〜」と歌うように袋の中をガサガサ漁るザックスの背中には“わくわく”の文字が見えるんじゃないかと思えた。




「エアリスはどれがいい!?」


「ザックスが好きなやつがいいな。」



「じゃーなまずは…コレ!」


取り出されたのは


「いきなり?」

「粋なり!」



ザックスがわくわくしながら火をつける後方でエアリスは一人、耳を塞いだ。



「いっくぞ〜…」





「うん…いいよ。」



激しい音と共に上がったのは──見事な打ち上げ花火だった。





「…スゴいね。」

「あぁ。」



打ち上げ花火は感覚をあけ、数発の花火を輝かせた。



「エアリス。」

「なに?」




















「キレーな花だな。」


隣を見上げるとニッと明かりのない場所で笑顔がピカピカと輝いて見えた。



「ふふっ、花火のせいかな?」


「?なにが?」



「なーんでもない。」


ひらり、舞うようにエアリスがザックスから離れ、花火の袋をガサガサと揺らす。



「次、どうする?」




「…エアリス。」


静かに近づいてきたザックスがさっきとは別人のように真剣な顔で優しく名前を呼んだ。



「その…今日はありがとな。俺のワガママに色々と付き合ってくれて…」





「覚えておくね?」




「…なにを?」














「8月19日」

「‥‥‥‥。」

















「お誕生日、おめでとう。」





「‥‥誰にも言うなよ。」



照れたように口を軽く突きだし鼻の頭ポリポリと掻くザックスは











特別に嬉しそうだった。











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…ゴメン。結局、間に合わず遅れちゃったヨ。
でも、おめでとう!ザックス!!非公式だけどネ(笑)非公式であんまり知られてないってのを踏まえた話しにしようとしたばっかりに遅れてしまったけど、キミなら許してくれる。…かな?(汗)
一応フリーです。遅れましたけどね…。


2011 08 20



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