「あ、エアリス!」
「久しぶりだね?お母さん元気?」
「なーに言ってんだよ。もうとっくに元気だぜ?」
それはエアリスも知っていた。なんていったって、つい昨日バッタリ、マーケットで会ったばかりだ。
その時、2つ3つほど会話を交わしたし、なにより顔色も良くなっていた。
分かりきっていてもエアリスが元・ドロボウ少年に母親の容態を訊ねるのは
「そっか。よかったね?お母さん元気になって。」
「まーね。」
やはり母親の話題になると少年が笑顔になるのを知っているからだった。
「俺たちの事よりエアリスは最近ちゃんとにーちゃんと上手くいってるのか?」
「ふふっ、おかげさまでね?」
「じゃあ毎日デートしてんの!?」
「うーん、どうかな?」
「どうかなってどういう意味?上手くいってんだろ?」
「ザックス、お仕事忙しいからね。休みの日とかにしか会えないんだ。」
「エアリスそれ大丈夫か?」
「なにが?」
「仕事っていう言い訳は男の“じょーとーしゅだん”なんだぜ?」
因みに、この少年に偽る理由の仕事もしてなければ、仕事と偽ってまで会いに行きたい女性は居ないだろうし、なによりも偽ならければならない彼女も居ない。
「常套手段?」
「そんなんだとにーちゃんに逃げられちゃうんじゃない?」
「それは‥‥‥イヤかな。」
「だろ?だからさこうもっと積極的にいかないと!」
「例えば?」
「え‥‥うーん、にーちゃんにエアリスのどこが好きか聞いてみるとか?」
「聞いてどうするの?」
「そこを磨くんだよ。積極的に!」
なるほど。などと妙にエアリスは男の“じょーとーしゅだん”を語る少年の言う事に納得した数時間後──
「ザックス、私のどこが好き?」
「え?どこが好き?うーんそうだなぁ…。」
「って言うかどうした急に?」
「どこが好き?」
「‥‥‥‥‥。」
有無を言わせないエアリスの瞳にザックスは理由は後で聞くことにしようと早々に決定付けて腕を組み考えてみた。
(どこ、か…。)
(碧の瞳か?いや声もかなり好きだな…柔らかい髪だって好きだしなぁ。あったかい手も好きだ。花が好きで大切にしてるエアリスも捨てがたい。‥‥やっぱり笑顔…いやいやいや、困った表情も良いしなぁ…。)
「うーん、全部?」
良かれと思って答えたんだが…。
あきらかに落胆された。
「なんで!?全部じゃダメ!?」
「私ならちゃんと言えるよ?」
「言えるって何を?」
「空色の瞳が好き。あったかい手が好き。優しい声が好き。頑張ってる姿も好き。笑顔が好き。頼りになるところも、たまにカワイイところも好き。面白いところも好き───」
「ちょっ、ちょっと待った!」
「なんで?まだあと100個ぐらい言えるよ?」
(それまで俺の心臓がもたないって…。)
「ザックスは?」
「いや、俺だって負けてない…じゃなくてさ!やっぱりどうしたんだ?なんかあった?」
「男の“じょーとーしゅだん”なんだって…。」
「は?常套手段?なにが?」
「男は仕事を言い訳にして逃げちゃうかもって…。」
「‥‥‥‥。」
(つまり──)
「だからね?ザックスが惚れ直すようにザックスが好きなところを磨いたほうが良いと思って。」
「それで、俺がエアリスのどこを好きかって?」
「‥‥‥そう。」
「そーゆうトコ。」
ゆっくりとしっかりエアリスに指を差す。
「?」
「そーゆうトコとか、かなり好き。」
「え?どこ?」
エアリスは自分のどこかしらを指差されたと勘違いしたらしく慌ただしく手探りで探しだした。
(‥‥‥‥ぷっ)
「あー、惜しい!もうちょい右。」
「え?こっち?」
「反対反対。あっ!行き過ぎた。もっと上だな。」
「上?ここ?」
必死なエアリスは俺の口許のニヤツキに気がつかないまま俺のてきとーな指示に従ってすったもんだ。
「あー…違う違う。そこじゃないって!」
「じゃあこっち?」
「また行き過ぎた!」
「もう!どこ?」
「教えなーい。」
「いじわる!」
俺がエアリスの好きなところ?
好きじゃないところ探す方がムズカシイだろ。
『彼女は今日も一生懸命です。』
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びっくりすることにドロボウ少年に“じょーとーしゅだん”と言わせたいためのだけ作品(笑)
2011 08 16