『わすれもの』
ザックスは、みんながみんな頷く、忘れ物の多い慌て者で、お陰で尊敬する先輩ソルジャーにつけられたアダ名は≪子犬のザックス≫
いまだに認めたがらないのは本人だけだった。
「あれ〜?」
「なんだどうした?」
「いや…」
「あぁ、まーた忘れもんか…」
やれやれと首を振る同僚は、勘弁してくれよと言わんばかりに呆れているのが、マスク越しにも手に取るように分かった。
「“また”ってなんだよ!“また”って」
「まただろ?確か出発前にも同じような騒動起こしてたろ?」
「あれはスグに見つかっただろ。」
「…見つけたのお前じゃなくてカンセルだったじゃないか。」
「‥‥‥‥‥‥‥。」
「で?今は何がないんだ?」
「いや、それがさ…」
「なんだ?」
「わかんないんだよな〜」
「わかんない?」
「なーんか足りない気がすんだけどさ…」
マテリアだろ?剣だろ?あと他に…と指折り自分の持ち物を確認しながらザックスは辺りを見渡した。
「ケータイは?」
「いや…持ってる。」
「じゃあ気のせいじゃないか?」
「うーん、そうなのかなぁ」
「ま、どっちにしろこのビルだって神羅の持ちビルだろ?あとで見つかったら教えてくれんだろ。」
「…それもそう、だな。」
「じゃあ早いとこ帰ろうぜ。」
「おぅ。」
勢いよくザックスが一歩を踏み出し、先行く仲間に続こうとした時────
「あ。」ドンッ
「痛っっ!」
ザックスの予想を裏切り目の前の仲間は足を止めた。
「急に止まんなよな!」
「サイフ。」
「ん?」
「ザックス、サイフ持ったか?」
「‥‥‥‥あ!」
「まったく、だから子犬のザックスなんて言われんだろ?」
そう言い終わる頃にはザックスの姿はなかった。
「お待たせ!」
「よし、今度こそ忘れものないな?」
「あー‥‥‥‥‥‥うん。」
「なんだよ?歯切れ悪いな。まだなんか忘れものあんのか?」
「いや、これで全部なんだけどさ…」
「けど?」
「なーんかこう、納得いかないって言うかスッキリしねーんだよな〜。」
片手を首の後ろにあて、頭を捻ってみるが、このモヤモヤの原因が何かは思い出せない。
「思い出せないなら仕方ない。忘れものもないなら時間も時間なんだ。ヘリ出すぞ?」
うーん、と腕を組んで頭を捻ってみてもやっぱり答えが出てこなかったので、ザックスも諦めてヘリに乗り込んだ。
しかし、帰りのヘリの中でも、まぁいっか。そう思おうとすればするほど頭の中のモヤモヤが濃くなっていくのが気になって仕方がなかった。
(なんだろうな…。マテリアも持ったし、ケータイもサイフもある。アンジールの剣だって忘れてない。)
(あー…そういやあの店の女の子の連絡先聞くの忘れてたな。‥‥‥あれ?名前はなんて言ってたっけかなぁ)
(‥‥忘れた。まぁいいけどね。)
「よし、到着。」
モヤモヤを抱えたままのザックスを乗せたヘリは無事、神羅ビル屋上のヘリポートに着陸した。
「お疲れ。」
「お疲れ〜。」
「わかったか?スッキリしない原因。」
「わからん。」
「まぁそのうち思い出すだろ。」
「だといーんだけどねー。」
「ってオイ。どこ行くんだ?」
「どこって…スラム。」
「またか…」
「いーだろべっつにー。一週間も野郎ばっかりの空間に居たんだ。早く癒されたいの、俺は。」
「はいはい…。まったく元気だねーお前は。俺は早く帰って寝たいよ…。」
力なく言葉を吐く同僚に後ろ手で軽く別れを告げザックスは真っ直ぐにスラムへと向かった。
目的地は───教会。
たった一週間だったが、教会のボロボロの扉が懐かしい。
グッと力を入れ、開けようとしたら力を入れる前に扉が開き中の人物が出迎えてくれた。
「おかえりなさい、ザックス。」
「あ‥‥。」
「?」
ザックスは中の人物──エアリスを見るなり思わず、すっとんきょうな声をあげてしまった。
「どうしたの?」
「わすれもの発見〜。」
言葉と共にエアリスにザックスが降ってきて、覆い被さるように抱きついてきたザックスを受け止めた。
「わすれもの?」
「エアリス、いい匂い。この抱き心地もたまんないね〜。」
「ふふっ、どうしたの?急に。」
「んー?」
──キミが傍にいなかった。
「一週間寂しかったなぁ、って思って。」
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スランプでもとりあえず気にせず描き続けることに決めました(笑)
2011 08 06