ふと、気づいた。




俺はエアリスになんて呼ばれてる?







いや、それより






俺自身、エアリスを呼んだことあったか?





俺もエアリスも呼び合ったことがない。







なぜなら








お互いに名乗っていない。





おいおい、ちょっと待て。何で今まで気づかなかったんだ?



っていうか俺たち会話してたよな!?




よく会話が続いてたな…。










その大問題を解決すべく、仕事も放っぽりだし、早速教会へとやって来た俺は、いよいよもってザックスのことを言えなくなってしまったわけだが





文句を言いたい奴は勝手に言ってろ。





俺は新たに浮上した大問題パート2に頭を抱えてるんだ。







今さらだが、







俺は一体エアリスをなんて呼んだら良いのか、という初歩的な大問題。






「エアリス」?
「エアリスさん」?
「エアリスちゃん」?



俺はザックスみたいにいきなり女の子を目の前に名前で呼ぶなんて器用なこと出来ない。





かと言って今まで(勝手に)名前を呼んでいた相手に「さん」や「ちゃん」を付けるのは違和感があって仕方がない。














困ったなぁ…。




とりあえず中に入って成り行きに任せるか。








なんか俺っていっつも情けない考えな気がするよな…。






扉を開けた先には、今日も頭にピンクのリボンをつけて、ピンクの服を着たエアリスが日課の花の手入れをしていた。




「よぉ、おはよ──。」

(───エアリス)


と名前の部分だけ声には出さずに呼んでみる。




「あ、…おはよう。」



ソルジャーの格好のせいだろうな。俺の姿を確認して少し間があって返事を返すエアリス。



俺を≪俺≫だと認識してくれたみたいだ。





この流れは、もしかしたら割かしすんなりお互いに名乗れるんじゃないか?



そんな考えが頭の奥の方に浮かんだときだった。


いや、実際にはそんな考えが浮かびきるかどうか、それぐらい、先の挨拶から時間が経過していないぐらいだった時。




「カンセル、今日は仕事休みなの?」






────…え?




「ふふっ、それともザックスと一緒で仕事、サボリ?」





「…な、なんで?」


「クスクス、大丈夫。内緒にしとくね?」





いや、まぁ確かに今日はサボリだけど…





「なんで、俺の名前…」


「あれ?違った?」






「違くないが、何で俺の名前を…」



知ってるんだ…?







「だって、カンセルでしょ?ザックスの友達、話し聞いてるよ?」





え?だって…アイツ…





────‥



「…俺とか仕事仲間の話しもするのか?」


「そんなツマンナイ話しねぇよ!」


       ‥────


って言ってなかったか!?





「ツマンナイ話だって…」


「クスクス。それ、たぶんウソ。ザックス楽しそうだったよ?」





楽しそうだった…?








なんだよ、それ…。






なんだよそれ、ザックス。




「どうしたの?」


「…いや、それよりさ、よく俺が≪カンセル≫だって分かったな?」


「ふふっ、簡単。」




「何がだ?」


「すぐに分かったよ?カンセルだって。」





「えっ?すぐに!?っていつから!?」




「初めて会った日。」




って言うといつだ?



「あ、でも正確には2回目?」




「悪い。いつだっけ?」



「“お花、踏まないで!”」

「…あぁ!!って、えぇぇ!?そんなに早く!?」



「うん、カンセルが“ゴメン!!”って走ってちゃった時、分かった。」




俺のこと神羅の人間だって分かってるのに「カンセル、足早いね?」なんて肩を揺らしながら笑うエアリスは、少なからず俺に対しての警戒心は無いようで



自然と口元に笑みが浮かんできてしまう。



エアリスが今、口にしている思い出話は少なくとも、俺にとって楽しい思い出ではない、むしろ思い出すのが恥ずかしい部類だ。




なのに、目の前のエアリスが笑うのを見て、口元に笑みが浮ぶだなんて






俺が少しばかり、浮かれてるって証拠だ。




おかげで…



「すごいな、エアリス。」




サラリと口に出来た。






「でも、なんでそれだけで分かったんだ?」



「それだけじゃない。2回もお花、買ってくれた。それにね?お花、踏んでも謝らないよ。神羅の人間。でも、カンセルはあの時、謝ってくれた。」




いっぱい、いっぱいだったけどな…。



「だからあの時、確かめたくて“待って”って言ったのに、行っちゃった。」




スイマセン。本当に、
いっぱい、いっぱいだったんです。





そんな気持ちを払うかのように、咳払いを一つ。



「じゃあ、改めてよろしくな、エアリス。」



「うん。よろしくね?」



俺の差し出した右手をエアリスの左手が軽く握り返す。







…これぐらい許せよな。




「ねぇ、カンセル?」


「なんだ?」







「…ザックス、まだ帰ってきて、ない、よね?」




恐る恐る聞いてくるエアリスを安心させてやれるようにと、笑顔で答える。






でも…





「…心配すんなって。あいつのことだから、その内ひょっこり帰ってくるだろ。」



繋いだ手は離した。







じゃないと







俺の手の震えがバレてしまう…。




「…うん、そうだよね?ふふっ、もしかしたら女の子たちと遊んでるのかも。」




「アイツの一番はエアリスだよ。」



「そう、かな?そうだったら嬉しいな。」






「なーに、もしアイツが今さら否定なんかしてきたら俺がブッ飛ばしてやるさ!」

「クスクス。でも、ケンカよくないよ?」


「安心しろ。ケンカじゃない、お仕置きだ。必要だろ?しつけは」



「ふふっ、そうだね。しつけは必要かも。」





「…じゃあ、そろそろ俺、戻るよ。仕事抜け出してきたからさ。」


「そっか。あ、カンセル!」


「どうした?」







「今度時間あるとき、ザックスの話し、聞かせて?」


「なくったって作って来るよ。時間ぐらいいくらでも、その時はアイツの色んな話しを、たっくさん教えてやるよ。なんてったって俺は────」




「“うわさ好きの男。”でしょ?」



「そういうこと!」







   『初めまして』





キミの事、よく知っています。













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やっとこれからお互いを名前で呼ばせられます。長かった…

2011 07 14


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