『五円』









待ちに待ったバレンタインデー。




楽しみな反面、正直ちょっと不安がある。






エアリスからチョコを貰えるとか、貰えないとかじゃなくって








義理か本命かとかでもなくって





出来れば市販よりも手作りが良いな、とかでもない。







最大の問題、それは──‥







そもそも、エアリスが≪バレンタインデー≫というものを認識しているか?




という根本的な不安。







かと言って、前々から宣伝するのはプライドって言うか、意地って言うか






俺の中の男の何かが良しとしなかった。









って言うかさ!いきなり貰って




「はい。ザックス、バレンタインのチョコ。」

「え!?マジで!?」

「ふふっ、これ私の気持ち。」

「エアリス…」






みたいな!びっくりって言うか“サプライズ”が良いわけよ。








ドキッ。みたいなさ…




んで、貰えなかったその時は、やっぱりエアリス知らなかったんだな。ってさ…






って!何すでに貰えなかったときの言い訳を考えてんだ!?俺。






この際、市販でも良しとする!なんでもいい!エアリスからのチョコ。







じゃなかったら、わざわざ今日この日に合わせて非番をとった意味がなくなる…。











いくぜ!!運命の扉を開けてやる!!




「どうしたの?ザックス。」
「どぅわぁああ!!?エアリス!?」





「…な、何かあったの?そんなに驚いて…」



「い、いや。まだ何もない…」





「?そ、そう?」



おっどろいた〜。



さっきよりも音も鼓動も大きくなった左胸をおさえる。



もう何でドキドキしてんのか分かんねぇな…。



















中へ入るや否や、またまた俺は驚いた。





「ザックス、今日なんの日か、知ってる?」






‥‥‥え?



「し、知らないなぁ」




「ふふっ、そっか。じゃあザックス、ちょうど良い日に休み、とれたね?実は今日はねぇ…」



休みは“たまたま”ではなく“必然”で、今日が何の日か分からないほどボケてもいなくって








色んな思いや、期待なんかで俺の心臓は最高にドキドキしてて───






「バレンタインデー。なんだよ?」



「へ、へぇー、もうそんな時期だったんだなぁ…。」











俺は一生懸命、君に夢中だ。




「はい、チョコレート。」



「く、くれんの!?」


「うん。今年はザックスにだけ」




…微妙に引っかかるんですけど…。




まぁいいんだ。エアリスからチョコ貰えただけで俺ってば大満足。







気持ち同様、少し震えさせてる手で、エアリスから差し出された小さな箱のチョコを受けとる。















…にしても、小さいな。





しかも───



「ありがとう、エアリス。」





やけに軽るくないか?





「ふふっ、どういたしまして。」



「開けて良い?」


「いいよ。」







きれいに包装されたその箱を開けて、念願のチョコとご対面したわけなんだが…





「…これは?」



もしや、あの有名な──





































「五円チョコ。」




…やっぱり。



「知ってる?」






「まぁ、な。ガキの頃よく食ったよ。」





確かに、確かに!エアリスからチョコを貰えればOK。みたいなこと考えたさ!











でも今日は、バレンタインデーで、好きな子がいる男ならば誰しもが淡い期待をしてしまうような今日この日に────











五円チョコ…。









まったく想像してなかった…。








「何で、五円チョコ?」



「クスクス、私の気持ち?」



語尾が疑問系ですよ…。



って言うか、これって義理ですらないんじゃない?





「いや、あー…うん。ありがとな、エアリス」








「……お花、手入れしてるね?私。」





何で───




「……あぁ。」





エアリスが残念そうな顔してんだ?








ぐしゃぐしゃ、といつもより念入りにセットした頭を掻く。




天井なしに喜んでいたせいか、地中深く投げ捨てられたような気分だ…。






だってよ、バレンタイン過ぎた後の安売りされてるチョコ達より安いんだぜ!?





いや、値段じゃないのは分かってる。






貰えるだけで、ありがたいのも分かってる。





スラムじゃチョコが手に入りにくいのだって、上より高値なのだって分かってる。





こういうのは“気持ち”なんだって、分かってる。









けどさ、五円チョコ、か…。





それがエアリスの中での俺の価値…。








いや!





これから、がんばってエアリスにとって、もっと価値のある存在になればいい!




そうだ!そういうことじゃないか!





よぉし!がんばれ、俺。















…でも、今は五円チョコかぁ。





エアリスにとって俺は五円チョコ。








…五円か。






五円はさすがに低いよなぁ…。























─────…ん?




もしかして…






「エアリス。」



少し大きめな声で呼びながら、花達の世話をしてるエアリスに慌てて駆け寄る。


肩を掴んで振り向かせたその手は、少し乱暴だったかもしれない。



「どうしたの?ザックス。」


「エアリス、あのさ!」


「?」



「俺の勘違いかもしんないけど…」




世界中の男どもが淡い期待をしてしまう、今日この日。




────‥


「クスクス、私の気持ち?」


       ‥────




















































「ご縁、チョコ…?」
















「…当たり。」




…ははっ。


「ザックス、気づくの遅いよ?」






「ばっかだなぁ。俺じゃなきゃ気づけないって!」



「ふふっ、うん。分かってたからだよ?」











最大の問題、それは──‥









俺以上に、
エアリスは素直じゃないこと。






最後、俺にくれたエアリスからの甘いソレは───









「なぁ、もう一回。」



「ふふっ、また来年ね?」









とことん
俺を一生懸命、夢中にさせる。









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くるみ様、お待たせしました!相互記念の『甘いザクエア』です。
今は7月な上に、甘い=チョコ的な安易な発想で季節外れネタだなんてスイマセン(>_<)しかもオチはダジャレかよ…。みたいな。
エアリス同様、気持ちは沢山詰めさせてもらいました!
相互ありがとうございます!これからもよろしくお願いします(*^^*)

2011 07 05


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