キィィィギィギィッイイィッ───。
「?何の音だろ?」
『急がば回れ!』
エアリスが不思議な音の正体を確かめるため、おそるおそる教会の扉を開け、外の様子を見た。
「ザックス!?」
「よぉ!エアリス。よく俺が来たって分かったな。」
(ザックスが来たのが分かったっていうか…)
「すごい音、聞こえたから」
「あはははっ!すごい音ってコレな」
ザックスが指差したもの、それは───
「自転車?」
「そう、チャリンコ。その名もGOGOGO号!」
「ぷっ。なにそれ?」
「やっぱ変かな?」
「ううん、すごく速そう。」
「だろだろ!?エアリス自転車乗ったことある?」
「ううん、ない。」
「よし、じゃあ後ろに乗れよ。今日のデートはチャリンコで小旅行な。」
「後ろ、って…」
エアリスはザックスの言う後ろを見たが、そこには人が乗って座れるようなスペースは見当たらなかった。
「ん?あぁ。立ち乗りな!」
「出来るかな?」
「だーいじょうぶだって!俺にしっかり掴まってろよ」
少し考えてから、エアリスはニコリと笑い「分かった」と言い、自転車に乗るため軽くスカートを持ち上げ、小さく「よいしょ、よいしょ」とザックスの肩に掴まりながら、なんとか自転車に乗っかった。
「やっぱりさー‥」
「なに?」
「女の子って良いよな〜」
ザックスが、しみじみと言う。
「なんで?」
「いや、なーんでもなーい。」
「それより、ザックス?」
「んー?」
「どこ、行くの?」
エアリスは自転車で小旅行とは言われたものの、まだ行き先は言われていなかったことを思い出した。
「俺、運転手。エアリスがキャプテン。行き先はエアリスの気分次第ってことでヨロシク!」
そう言うとザックスは勢いよく地面を蹴り、ペダルに力を込め踏み込んだ。
「きゃっ!?」
顔や身体に風を受ける。
「気を付けろよー?」
「うん。それより、私がキャプテンって?」
「エアリスの気分でどんどん指示してってよ!んで俺がそれに従うからさ。いつもは思いつかない場所だったり、知らない場所まで行ってみようぜ!」
エアリスは、なるほどと思い辺りをキョロキョロ見渡す。
「右!」
「うぉっ!?いきなりだな!」
ザックスがバランスをとりながら言われた通りにハンドルを切る。
「左!」
「ほいっと!」
「左!」
「よしっ!」
「左!」
「また!?」
「ウソ!真っ直ぐ!!」
「マジか!?」
「速く!」
「よっ!と」
「もっと速く!」
「りょーかい!」
「もっともっと!!」
「まっかせろ!」
ビュンビュンと風を切り、スピードを上げ、二人の乗る自転車はスラムを駆けて行く。
「あっ。ザックス!」
「どうした?」
「あれ、降りてみて!」
エアリスに指差された先には下へと伸びる階段があった。
「よし!しっかり捕まってろよー?」
ニヤリと笑い、さらに勢いをつけ始めたザックスにエアリスは、ぎゅっと力強く抱きついた。
そして、二人を乗せた自転車が階段に差し掛かり、下を覗きこむと…
「「!!?」」
思っていた以上に階段は長く長く続いていた…。
「ヤバッ──」
ザックスは慌ててブレーキを握りしめたが、自転車からは油の差さっていない錆び付いた、ぎこちない音だけが響いた。
(…げっ)
「きゃぁぁぁぁあ!」
カラカラカラカラ…
二人を乗せた自転車は、階段下で見事にひっくり返り、車輪だけが軽い音を立てて一人回っていた…。
「いたたたっ…」
「うーん…」
「見事に落ちたなぁ…ってエアリス大丈夫か!?」
ザックスがガバッと起き上がりエアリスを探すと自分と同じように地面に転がっていた。
「エアリス!?ゴメン!大丈夫か!?ケガとか平気か!?」
「う、ん。大丈夫、みたい。」
「わりぃ、俺、調子に乗りすぎた。本当ごめんな?」
心配そうにエアリスを覗きこむ。
「ぷっ…」
「ん!?」
「ふふっ。あはははは!」
「ど、どうしたエアリス!?」
「ザックス、顔。真っ黒!」
ほっと一息。
「なーに言っての、エアリスだって真っ黒じゃない。」
「「あっはははは」」
「いやー、ケガ無くてよかったな。」
「あっ!いたたた」
「うそつけ。さっき“大丈夫”って言ったじゃない。」
「クスクス、言った。」
「でも、悪かった。危ない目にあわせちまったな」
「ううん、私、こんなに楽しい旅行。初めて!」
「だっろ〜?なぁ?俺と出会えて良かったろ!?」
「うーん、それはどうだろう?」
「エアリスー!」
「うそうそ。」
可笑しそうに笑うエアリスの横でザックスが不満そうに口を尖らせていたが、
(まぁ、エアリスが楽しそうだからいっか。)
「ねぇ?なんで自転車でデートだったの?」
「エアリスさ、風。気持ち良かったろ?」
「うん。」
確かに自転車のスピードに合わせて身体で感じる風はとても気持ちの良いものだった。
「青空の下はさ、もっと気持ちいい風が吹いてるんだ。」
「そう、なの?」
「おぅ。だから今日はちょっとしたお試し版。」
「成功だろ?」と笑うザックスの笑顔は、先ほどの感じた風よりもエアリスの気持ちを心地良くしてくれるものだった。
「うん、大成功。」
「いつか行こうな!空を見に。」
「うん。」
まだプレートに覆われた小さな世界で、見渡す限り青い空が広がる大きな世界を夢見て
二人は笑い合う。
「ねぇそれよりザックス?」
「?」
「帰りはどうするの?」
エアリスがボロボロになった自転車を指差す。
「んー‥もう、乗れないよな〜」
「…うん。」
「まぁ、俺が担いで帰るからさ、帰りはゆっくり歩いていこうぜ?」
「ふふっ、そうだね?」
目的地は遥か遠く──。
でも
デコボコ道
曲がりくねった道
君との時間をゆっくり過ごすには、遠回りが最適。
君と俺なら、回り道がちょうどいい。
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楽しかった!(*´∇`*)やっぱり仲良しが一番です。
2011 05 24