「あー…ヒマだ。」



窓から乗り出してる上半身にはポカポカと気持ちのいい日差しを浴び、心地いい風に吹かれ、カンセルは気の抜けた声で息を吐くように言葉を溢した。




そんな彼は日々、ソルジャー1stを目指して努力中である。














ただし、現在ワケあって休業中。




「はぁ…。眠くなってくるよなー。だから苦手なんだ移動時間は」



ガタガタと揺れる車内の中、いつもはモンスター等と戦うのが仕事だが、現在は睡魔と格闘中だった。



(そういや、前にもあったな…暇で暇で仕方ない移動時間。)






(あの時はどうやって時間を潰したんだったかな…)



見上げた空の太陽が眩しかった。


「あぁ。そうか…」



乗り出していた上半身を車内へと戻し、決して座り心地の良いとは言えない長椅子の上で胡座をかく。





「アイツが居たんだ…。」





────‥


「なー‥カンセル、ヒマでヒマで死にそうだぁ。」


「じゃあスクワットでもしてろよ」



車内から投げ出された上半身が二つ。ぼんやり外の景色を見ていた。



「なんかよ、そういう気分じゃないんだよな〜」


「珍しいな」

「珍しいよな」




「「………。」」


「なぁ、お前さ?」

「ん?」

「普段エアリスとどんな会話してんだ?」



「ムッ。お前がエアリスをエアリスなんて軽々しく呼ぶなよな!?」


「アダ名みたいなもんだよ。ザックスが“エアリス”って呼ぶからエアリス。」


「じゃあ、俺がエアリスちゃんって呼んでたら“エアリスちゃん”か!?」


「そうそう。そんな感じ」

「馴れ馴れしいな。」


「いいから、普段どんな会話してんだ?」


「別に普通だぜ?昨日何してたとか、任務の話とか、花の調子がどうとか、本当、普通の会話。」



「ふーん。」

「聞いといて何だよそれ!?」

「いや、ヒマだから聞いただけ」


「あっそうですかー」


「…俺とか仕事仲間の話しもするのか?」


「そんなツマンナイ話しねぇよ!」


「なに?怒ったのかお前?」

「べっつに〜。」


「ガキだなぁザックスは」



「うるせぇ。2stの奴に言われたくないね。」


「あっ!お前、先に1stになったからって、そう言うこと言うなよな!?」




「おい!お前ら煩いぞ!移動時間ぐらい静かにしろ!!」


「「………。」」





ガタガタガタガタ…







ガタガタガタガタ…。



「なぁヒマだよな〜」


「なら静かにスクワットでもしてろよな」


「ちぇっ…」








(ははっ。そうだそうだ、観念したザックスが何かブツブツ言いながらスクワットしてたなぁ。)



(結局ヒマだった俺もなんとなしにザックスのスクワットを眺めてて、確か150を越えた辺りで急に寒くなったんだったな…)










「おい、ザックスなんか寒くないか?」


「え? そうか? 俺は そうでもないぜ?」


「そりゃお前は身体動かしてるからな」


「んー…。お!?カンセル!外見てみろよ。雪だぜ!」



「な!?マジかよ。そりゃ寒いよな」

「久しぶりに見たな〜雪。」

「はぁ。任務メンドクさそうだな」


「早く融けると良いな〜。」

「まぁ融けたら融けたで任務しにくいけどな。足下ぐちゃぐちゃだろうし、泥水が汚いし」


「何言ってんだよ?」


「何って雪が融けた後の話だろ?」


「ダッメだな〜カンセルは」


「…何がだよ?」


「雪が融けたら何になるか知ってるか?」


「何って水だろ?それか泥水だし、最悪な話だろ。」


「違うって。雪は融けたら“春”になるんだ。」






「春?」


「そうそう。だから最悪じゃなくて最高な話だろ。お前は夢がないな〜。だーからカンセルは1stになれないんじゃないのか?」



「関係ないだろ!?つーかなんだよソレ」

「あ?アンジールが言ってたんだ、夢を持てって。」

「違うって。俺が聞いたのは雪が融けたらって話。なんだよ春になるっておかしいだろ!?その答え」


「だから夢がないって言われんだよカンセルは」



ムッ。


「まぁザックスは田舎育ちだもんなぁ。俺さ都会だからそういう田舎的な感覚ねーの。」


「あ。馬鹿にすんなよなぁ!?」


「馬鹿になんてしてないぜ?事実を言ったまでだろ!?」


「それが──」


「ウルセェ!!静かにしてろって言っただろ!!」


「「……。」」




       ‥────


(ぷっ…)


(あぁ、そうだ。そんな事もあったなぁ。)




「雪が融けたら春になる、か。」



少し口の端を持ち上げ、先程とは変わった外の景色を見ると





「あっ……。」




雪が残る村に着ていた事に気がついた。




「偶然だなぁ…。」



このポカポカとした日差しのお陰で雪融けの始まる季節になっていて、よく見てみると、融けた雪の下からは花や緑が少しだが顔を覗かせていた。




(なるほど…。)





「どうした?カンセルさっきから嬉しそうに外なんか見て」



女の子でも居たか?と少しニヤツキながら話しかけてきた同僚にカンセルは楽しそうに答えた。



「いや、雪が融け始める季節だなぁって」


「ん?あぁそうだな。雪が融けたら地面はぐちゃぐちゃだし、服は汚れるし最悪だよな〜」


「違うね。」


「何が?」



「最高なんだよ。」





「…なんだそれ?」




「雪が融けたら、春になる。」







もうすぐ、アイツの季節がやってくる。











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たまにはカンセルに仕事をしてもらおうと思ったのに、彼してませんね。仕事。

2010 05 20


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