『発展途上のバカップル』
ザックスの携帯電話はよく鳴る。
その半分以上はお仕事の電話で、残りは、お友達とかみたい。
でも、お友達もほとんどが女の人。
ほら。
今も楽しそうに話すザックスと、受話器の向こうから聞こえてくる、女の人の声。
しかも、たぶんこの前の人と違う声だと思う。
「いやー本当、本当。」
楽しそうに笑って話すザックスと
ただ黙々とお花たちの手入れをするだけの私。
「いや、今までとはぜんっぜん違うね。今回の俺は本気なんだって!」
“今まで”か…。
結構前からのお友達なのかな?
…そうだよね
ザックス色んな女の人と仲良いんだもんね。
「じゃあさ!また今度!な?また今度でどうよ!?え〜あっはははは!そうそう。」
胸の辺りが
チクチク痛くて
モヤモヤして
無性に叫び出したいぐらいの何かが私の胸でつっかえてる。
「いや〜だってしょうがないじゃない。本気なんだ、俺。」
分かってる。これは──
「たぶん最初で最後の本気だ。」
──‥ヤキモチ。
だってそうでしょ?
今日のデートだってザックスが誘ってくれて、うれしくって、なのに
ザックスと一緒にいるのは私なのに
ザックスと笑っているのは違う人。
「あぁ。じゃあまたな。」
簡単に最後の挨拶をして携帯をポケットにしまうザックス。
そんなザックスが今さら気づいたように、さっきと変わらない調子で私に話しかける。
「あれ?エアリス手入れ終わったのか?」
「もう、とっくに終わってます。」
「俺そんなに長電話してたかなー?」
「…知らない。」
目を瞑って合わせようとしない私。
「エアリスもしかして、怒ってる?」
「ちょっとね。」
つーん。とそっぽを向いて愛想なく答える私。
「うーん。なんで?」
「…知りません」
あぁ。
本当、私は可愛くない…。
「もしかして、さっきの電話?」
「……。」
コクリ。
「そーかそーか!もしかしてさ、エアリス俺が違う人と話してるの見てさ、こう胸の辺りがモヤモヤってしたりした!?」
「…した。」
「おぉ!」
「なんで喜ぶの?」
「いやーだってよ。エアリスそのモヤモヤが何か分かるか!?」
「……。」
「いや、分かんないかもな〜。エアリスこういうのは鈍そうだし」
ムッ。失礼ね!
「それぐらい、分かりますー。」
「本当〜?」
「ヤキモチ。ただのヤキモチだもん。」
「よっしゃあ!だろだろ!?んで!?原因がさっきの電話!?」
さっきからなぜか嬉しそうなザックスに私の中のモヤモヤが形を作って溢れ出してきた。
「だって、今日のデートだってザックスが誘ってくれたのに、ザックス楽しそうに電話。してるんだもん!」
「だよな〜。それでヤキモチ妬いてくれたのかぁ、エアリス」
腕なんか組んで満足そうに頷くザックス。
私、怒ってるのに!
「ザックス。ちゃんと話し、聞いてる?」
「え!?あぁ!聞いてる聞いてる。」
「うそ。絶対聞いてなかったでしょ?」
「いや、聞いてたって!エアリスがヤキモチ妬いてくれた話だろ?」
「…そう、だけど。なんでザックスさっきからニヤニヤしてるの?」
「そりゃ、エアリスがヤキモチ妬いたからだろ〜。」
「私、怒ってるんだよ!?」
さっきは、あんなにザックスに笑ってほしいって思ったのに…
「あっははは!うん。ゴメンナ?」
なんか、違う!
「もう!笑ってばっかり。ザックスなんて、知らない!」
「エアリス〜。そんな怒んなって。」
「…私にだって考え、あるんだから」
「考え?なになに?」
「…浮気する。」
「ん?」
「浮気するんだから!」
「浮気…?」
「そう。」
「はっ。…ははっ!浮気か!そーかそーか浮気するかぁ」
「何がおかしいの?」
「いやだって浮気だろ?」
「そう。ザックスみたいに色んな男の人とデート、しちゃうんだから。」
「うんうん。浮気かぁ…」
「嫌じゃないの?」
「え?エアリスが浮気だろ?嫌だよ。」
「じゃあ何でザックス、そんなに嬉しそうなの?」
「いやだってさ、浮気ってことはだぜ?」
「うん。」
「エアリスの本命は俺ってことだろ?」
「?うん。そうだよ?」
…今さら何を言ってるんだろ?
「そーかそーか。」
「良いの?私が浮気しても!?」
「いや〜エアリスの浮気かぁ。」
「嫌じゃないの!?ザックスの知らない男の人だよ!?」
「でも相手はエアリスのただの浮気なんだよな〜」
「ヤキモチとかは!?」
「いや〜所詮は浮気程度なんだしなぁ。」
「〜〜〜〜もう!ザックスの馬鹿!知らない!」
「はっはっはっはっ!エアリスは可愛いな〜。」
発展途上の二人は、
いつでも本気。
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方向性を間違えました。
2011 05 18