今年もやって来た…





「今年は去年みたいな不意打ち、なしね?」


「おぅ。今年の俺は正々堂々がモットーだからな!」





4月1日
 ──‥エイプリルフール。





「それじゃあ‥」


「よーい‥」



「「スタート!」」








『嘘に隠れた本音』





───‥


「なぁエアリス明日は何の日か覚えてる?」


「去年ザックスがいきなりウソ、ついた日。」



「そうそう。1年に一度ウソが許される日な」


「ザックス、1年に一度じゃないよね?」





「あはははは。そうだっけ?」


「そうだよ」



「まぁまぁ。今年はさ、勝負しようぜ!」


「うまくウソつけた方が勝ちとか?」



「んー‥それじゃ普通すぎて面白くないからさ、逆に一日中ウソつくんだよお互いに」


「それでなにを勝負、するの?」



「んで、先にその日に本当のことを言った方が負け。で勝った方の言うことをなんでも一つ聞くってどう!?」




「‥‥‥うん。良いよ!面白そう。」




「じゃあ決まりな!勝負は明日」


「分かった。」



‥────



こうして俺達の戦いが始まったわけなんだが




いざ“勝負”ってなると会話が減っちゃって面白くないよな




エアリスだって負けたくないからか極力会話をしないために花の手入れにいつも以上に集中してるしさ






なんか置いていかれたような気分だ。




「なぁエアリス」

「なにザックス」


「今日もやっぱりスラムは天気良いよな!」







「え‥‥‥あー‥うん。クスクス、そうだね」




「街もキレイで空気も綺麗だしな〜」


「本当だね?いつも皆で掃除、してるからかな?」


「だろうな!いつでもスラムは清潔だな!」



「おいおい。清潔とスラムは対義語だろ!」なんて頭の中でツッコミながら言ったせいか俺はついつい笑いながら口にしたら



エアリスも同じことを思ったのか「うんうん!」なんて笑いながら返してくれた。





ハハッ。なんか‥






楽しいかも。




「ザックスは“スクワット”苦手なんだよね?」


「おぅ!もう、ぜんっぜんダメ!」


「もちろん“はね起き”も出来ない?」




「そりゃあ一回も成功したことなんかないんだぜ?出来ない出来ない。」









「「‥‥。」」





「「あははははっ!」」




「な、なんかあんまり楽しくないなコレ」


なんて言いながら腹を抱えて大笑いの俺に



「うん!全然楽しくないね?」



だなんて肩を揺らしながら頭の上でピンクのリボンを上下させるエアリス。





「ねぇザックス?」


「え?なに?」


「ザックスは女の子、好き?嫌い?」


「うーん。答えにくいな〜‥」



“好き”って言えば“嫌い”ってことだろ?


じゃあ‥


“大好き”って言えば“大嫌い”ってことなんだよな?



“普通”って答えたらそれはウソか本当か分かんないだろ?




他の女の子よりエアリスが一番嫌い。って言えば一番好きってことなんだよな…?




でもルールが分かっていても「他の女の子よりエアリスが一番嫌い。」なんて言いたくないし、聞かれたくない。




「うーん。ちょっと待って!考える!」




「じゃあ質問変えるね?」


「お、おぅ」




内心ホッと胸を撫で下ろした訳だが‥







さっきの質問に答えておくべきだったと俺は早速、後悔させられた…。





「ザックスは私のこと好き?嫌い?」



「──‥っ──。」



マジかよ…





多分、俺の人生で過去最高の猛スピードで頭をフル回転させたと思う。


モチロン。普段なら即答できる自信のある質問だ。




でも今は

好き=嫌い。
嫌い=好き。


そんな図式が出来上がるルールのもとで会話をしているわけよ。



素直に「好きだ」言えば“嫌い”になる。



でもよ、だからと言って「嫌い」だなんて言いたくないだろ!?



しかも今は勝負の最中…






究極の2択なんですけどコレ…。





「えっと…そのー…」


どう答えりゃ良いかなんて全然分からない。言葉を濁しながら頭を捻ったものの“この質問は俺の手に負えない。”そんな情けない答えが俺の頭をフル回転させて絞り出して出た結果。

慣れないことなんて所詮そんなもんだ。と半ば諦めと降参の意味でチラッとエアリスの様子を見てみれば、なんて事はない。






じーーーーー‥。




案の定、期待の眼差しをした可愛い彼女が俺を覗きこんでた。



よし。考え直せ、俺!





ここは無難に「じゃあエアリスはどうなのよ?」なんてパターンで返すか?





でも、それって完全に逃げだよなぁ‥‥。






何か他にないのか!?こう気の利いた答えは!







「ザックス」


「は、はい!?」




「答えは?」







「え?あー‥答えな。答え…」





往生際悪くエアリスの期待の眼差しに答えるべく埃だらけであろう頭を動かしてみるものの…





何も浮かばねぇ!!








「あー‥‥‥エアリスはどうなんだ?」




言った直後俺は頭を抱えながらその場に倒れ込みたい衝動に駆られたが、それはなんとか堪えた。





結局、一番気の利かない情けない答えを選んだ自分が恥ずかしい。





期待外れもいいとこだよな…。





「ふ〜ん‥そう逃げちゃいますか?」


はい。確かに…



男らしさの欠片もない答えを口にした俺には反論の余地なんかこれっぽっちもない。







まったく、子供たちの憧れ“ソルジャー”がきいて呆れるな。




そんな俺を見るエアリスの真っ直ぐな瞳にいたたまれなくなり、つい背中を向け、目の前に広がる花畑の方へと数歩ばかり足を進めた

今度は誤魔化しなしで、ただ純粋に聞きたくて振り返る。





「で、俺のこと…どうなんだ?」



「好きだよ?」





「え‥‥‥?」



あれ?この場合はどういう意味になるんだ…?




「私はザックスのこと、好き。」




「エ、エアリス‥‥?」



「ふふっ、ゴメンね?」




“ゴメンね?”…どういう意味だ!?





エアリスの答えの意図が見えない俺は少し…いや、かなり混乱し生唾をゴクリと呑んだ。







「な、なにが?」









「私、コレだけはウソ、言えない。」




──‥目の覚める思いだった。





堂々とルール無視に真っ直ぐ答えてくれたエアリスの答えに嬉しいやら恥ずかしいやら、まぁ大部分は情けないが占めているんだけども






どんな顔をしていいか分からなくって足下の花を見ながら苦笑しつつ後ろ髪をテキトウに弄った。




「この勝負、ザックスの勝ちだね?」


「…そうか?」



圧倒的に俺の敗けだと思うんですけど…




「そういうルールだったでしょ?何がいい?」



───もう一度…














聞きたいな。




「…さっきの言葉もう一度聞かせてよ」


「そんなので、いいの?」


「聞きたい」



「クスクス。変なリクエスト」



笑うエアリスに、腕組をした上半身で耳をつき出しながら身を乗り出す。








“早くもう一度聞かせて”の合図に





エアリスも片手を口元に添えて俺の耳に近づける。



“じゃあ、準備は良い?”



そんな無言の会話のあとに俺の耳にエアリスの声が優しく響いた。















「“この勝負、ザックスの勝ちだね?”」




‥‥‥ん?








「…へ?」


「だからね?“この勝負、ザックスの勝ちだね?”」


「いやいやいや!エアリス違う違う!俺が聞きたいのはそれじゃなくって、“ウソつけない”って方なんだけど…」




「そっち?でも、一回は一回だからおしまい。」


「えぇ!?そんな〜。」



ひでーよ!って続けようとしたらエアリスがスゲー笑ってんの



まさかさ…






「エアリス、ひょっとして分かってて…」



「ザックス、ザックス」


「な、なに?」



…エアリス笑いすぎだろ






「エイプリルフール!」


「な!?」


「だって、ザックス、私の質問から逃げたでしょ?」


「うっ…」


「だから、ご褒美、嘘!」





改めて言わせてもらいます!



「ひでーよ!!じゃあもしかして“ウソつけない”ってのも?」

「クスクス。どうかな〜?」

「お願い!アレは本当だ。って言って!ね?嘘でも良いからさ!」

「嘘でも良いの?」

「いや、ダメ!嘘じゃダメなんだけど、今のは言葉のあやって言うかさ…なぁ?」


「ね、さっきの台詞。もう一度聞きたい?」

「聞きたい!」

「良いよ。聞かせてあげようか?」

「マジ!?」




「うそ。」


「エアリス!」




「クスクス。来年ザックス、勝ったときにね?」









「あー‥来年は無理だな。」

「無理?なんで?」


「だって俺が負ける予定だから。“気持ちにウソつけない”って」



「ふふっ。じゃあ来年、楽しみにしてるね?」

「おぅ!次は逃げないから。見てろよ!」




エアリスは俺の欲しい言葉をくれるんだ。


「どうかな〜?」なんて言っておきながら、「また、来年」だなんて




俺にとっちゃ最高の告白だって気づいてる?



今から一年も先の約束。
確かな未来を信じて二人でニコニコと笑い合う。






なぁエアリス?




俺たちは、その一年の間にあと何個ぐらい二人での約束するんだろうな?





俺が全部、叶えてやりたいよ。




「なぁエアリス」

「なに?」



「嬉しかった。」

「?、何が?」




「エアリスの言葉と一年先の約束。」



「本当はね?いつも思ってるんだけどね…」


そう言うエアリスは、さっきまでと違って声を少し小さくし、俺の前を通りすぎて中断していた花たちの手入れをしだした。




「いつも?なにを?」

俺は横に腰を下ろしてエアリスの顔を見る。




少し言いづらそうなエアリスは花の手入れというよりは、手持ち無沙汰のように花の茎の部分だったりをくるくると左右に回す。




俺も答えを待つ間そんなエアリスの仕草を軽く頬を緩ませながら見つめてた。



その花がくるくると回るのを止めたとき──‥



「ザックスへの気持ちと、ザックスとの約束、楽しみなんだよ。って」


「‥‥‥。」


「恥ずかしくっていつも、言えないだけど、勇気だして言って良かった。」




───嘘じゃない。





目の前で頬を紅く染めながら照れ笑いをする彼女が




    愛しい。





“この気持ちにウソつけない。”





来年と言わず今言おうかな〜…




そんなことを思いながら目の前の愛しい彼女を抱きしめた。









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ハッハッハッハッハ!とりあえず笑っとけ私。

2010 04 04


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