いつも私を見守ってくれる優しく、あたたかい笑顔。






彼はきっと、今日もどこかで笑っている。









───‥そう、だよね?












『スタンド アップ!』











「きゃっ‥‥」


「おいおい大丈夫か!?」


地面に座り込み「いたたた‥」と小さくこぼしながら自分の足首をさするエアリスにザックスは手を差し出した。


「ほら。掴まれよ」

「うん、ありがとう」




ザックスがエアリスを引っ張り起こし、膝の砂をポンポンと落としてやる。


「ごめんね?」


「ははっ。エアリスってよく転ぶよな〜」


「そんなことないよ。たまにしか…」


「子供と一緒で危なっかしくって目が離せないな」


ザックスがヤレヤレと肩を竦めながらニヤリと笑って見せるとエアリスは少しムッとしたように腰に手をあて反論する。


「ザックスだって、よくケガ、するでしょ?」

「俺は…仕事上仕方がないだろ?仕事以外ではしないもん。エアリスと違って」


「‥‥本当?」

「本当!」


「ふーん…」



「なに?不満?」

「ちょっとね」


「だいじょーぶだって!エアリス転んでも俺がちゃんと起こしてやるから。」



「それなら、転ぶ前に支えてほしいな。」


「それなら、転ばないように気をつけて歩いてほしいな。」


「もう!ザックス、いじわる。」

「あははははは。」




そんな他愛もない会話を楽しみながら二人はいつものデート場の公園へと向かっていた。



「ねぇ‥‥ザックス。」

「どうした?」





「ここのプレートって、いつか落ちちゃったり、しないかな?」


ザックスはエアリスに疑問を投げ掛けられ両手を頭の後ろで組みプレートを見上げた。


「んー‥まぁ落ちないだろ?自然にはさ、誰かが落としたりしない限り。」


答えながら見上げたプレートは、改めてみると、とてつもなく大きなものだと今更ながら気づかされる。

建物などが建っていたりしてスッキリと向こうからあっちまでを見渡せるわけではないが、建物を抜きに考えても端から端までを見渡せないほど大きなプレートがスラムや下の街全体を覆っている。


(考えたこともなかったけど、こんなものが落ちてきたりしたらとんでもない事だよな…)




「‥えい!」

「をわぁっ‥‥!?」



頭上のプレートを見ながら歩いていたザックスは不意に何かに躓き地面に倒れこんだ。



「イテテテ…なんだ?」

「クスクスクス、隙あり。」

振り返るとイタズラな天使が楽しそうに肩を揺らしていた。



この可愛らしい笑顔によって転ばされたのだと気がつき、ふっと息をつくように笑みを溢し、その場で胡座をいて照れ隠しに後ろ髪をガシガシといじった。


「ソルジャーさん、今、お仕事中?」


「いいや、デートの最中?」

「クスクス。よく転ぶの?」

「たまーにな。俺にも失敗する日もある」


「ふふっ、だいじょーぶ。ザックス、転んでも私が起こしてあげるから。」


「じゃあ早速良い?」

伸ばされた手に答えるように差し出されたエアリスの手をザックスは、ぎゅっと握ると自分の方へと引っ張った。


「ちょっとザックス!?」

「へへっ俺は一回。エアリスは二回な!」


「ずるい!」

「聞こえませーん。」


「今のはザックス、いきなり引っ張るから、バランスが崩れたんじゃない」


「俺のせい?」

「うん。」

「俺が転んだのは?」




「‥ザックスの不注意。」

「あははは!エアリスだってずりぃーじゃん。」



ザックスが自分の膝の砂を払い立ち上がる。


「ほい。手をどうぞ?」


「ありがとう。」


エアリスはザックスの手を借りて立ち上がると膝についた砂を払い、リボンの形を整える。


「‥自分で立てって言われるかと思った。」


「え?なんで?俺そんなに冷たく見える?」


「ううん。見えない…かな?」


「なんで疑問系なのかが気にはなるけど、転んだエアリスを起こしてやるって約束したろ?いつだって手を貸してやるさ。」


「転んだんじゃなくて、転ばさせられたんだけどね?」


「うーん、よし。分かった!」



「?、‥きゃっ!?ちょっとザックス!?な、何するの!?」



「エアリスが二度と転ばなくて済むように抱っこしてってやるよ!」



抗議するエアリスを余所に「名案だろ!?」とザックスはニコニコと笑いながらエアリスの肩と膝裏を抱えて公園まで走り出していった。








      ────‥





あれから数年が経ち、一人空を見上げる彼女がいた。



(ねぇ、ザックス?
私、プレートの無い世界に居るよ)




──そう、私は今、見渡す限り、どこまでも広がる空の下を旅してる。



そして、空を見るたびに、あの優しくてあたたかい笑顔を思い出す。




二人が交わした約束。






──‥「分かった。会いに行く。」


──‥「待ってる。」






あの優しい人が約束を破るハズがない。



私が、あの人との約束を破った。




私から二人の約束を裏切った。





「待ってる。」そう言ったのに、私は教会を後にした。



だから、今も私はあの素敵な笑顔に会えないまま、一人で空を見上げてるの。






(…もしかしたら、今ごろになってあの人は、教会に着いているかもしれない。)



「あれ!?エアリス?」なーんてあの優しい声で私の名前を呼びながら教会の中を探したりしてるかも。



──────「エアリス」



(クスクス。ごめんね?だってザックス遅かったから置いてきちゃった!)





───「エアリス!」





(でも、急いで追いかけてくれたら追いつくかもよ?)






「エアリス!」

「あっ。なに?呼んだ?クラウド」


「さっきっからずっと呼んでる。」


「ごめんね?なに?」


「空を見るのも良いが、上ばっかり見てるといつか転ぶぞ」


「ふふっ、心配?」

「まぁな。」



「あれ?珍しく素直だね?」

「別に…ただアンタは目が離せないからな」


「目が離せない?」


「意外と子供みたいに危なっかしいところがあるからな。」


「だいじょーぶですよー。」

「怒るなよな。」


少し不満そうにそっぽを向きながら言うエアリスにクラウドは肩を竦めながら呆れたように言う。


「怒ってませんー。それに‥」




「転んだら、起こしてもらうから平気。」


エアリスは一度空を見上げ微笑みながらクラウドに言った。


「人使いが荒いな。」


「ふふっ。さ!行こっ?クラウド。」



「遅れちゃった。」とエアリスはクラウドに手招きをしながら先を歩く仲間達の方へと小走りに向かう。


「おい。前向いて走らないと…」



「きゃっ!?」


「はぁ…。言ったそばから、まったく。」



「いたたた…」



エアリスは後ろを向きながら小走りしていたせいか見た目いつも以上に派手に転び少し間があって起き上がろうとしたとき、目の前に一つの手が差し出された。





「“ほら、掴まれ”」






聞いたことのある懐かしい台詞に顔を上げればそこには







背中に眩しく光る太陽と大きな剣を背負った黒く映し出されたツンツン頭の影が一つ…。







瞬間、脳裏に蘇る






忘れもしない。
あの優しくあたたかい笑顔の彼。










「どうした?平気か?」

クラウドは反応の無いエアリスにもう一度、手を伸ばした。



「…大丈夫。自分で立てるから」


「そうか。」


「うん。ありがとう…」



「随分と遅れた。早く行くぞ」


「うん。…そうだね」





スタスタと足早に歩くクラウドの背中をエアリスは哀しく、愛しそうに見つめる。











───本当はね?





私、なんとなく気づいてた。



ザックスのこと。



クラウドが落ちてきた日にそれは確信に変わりつつあって、怖かった。





思いたくなった。





もう、見れないなんて。




あの、
優しい声が聞けないなんて。



あの、
あたたかい笑顔を見れないなんて。







思いたくなかった。





“私が約束を破った”だから、ザックスと会えなくなった。



そう思っているほうが、まだ幾らか楽だった。





でも、やっぱりダメだね?




ふふっ、さっきの影を見た時、「もう認めるしかないなぁ」って自然と思っちゃった。





ごめんね?ザックス。












───ごめんね…。



「おい。本当に置いてくぞ!?」

「もう、クラウドってば、いじわるね?女の子を置いていっちゃうなんてー。」


「なら早くしてくれ」



「クスクス、はーい。」












────‥誤魔化してみたって、どうやっても現実は変えられない。









気づいてた。





知ってる。









でも、やっぱりあい変わらず「さよなら」は言わないままにします。








私はもう、ザックスが知ってる、ただ起こしてもらうのを待ってるだけの女の子じゃ、ないんだから!



どこに居たって、必ず自分の足で追い付いて見せるね?







あの、
優しくあたたかい笑顔に。







信じてる。







きっとまた、会えるって。






空の下でした約束に、
空の上で待ち合わせ。







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久しぶりのupはリハビリ的な感じで生暖かい眼で見てやってください(;_;)

2011 03 28



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