無事にミッドガルを出て目的地をカームと決めた頃
俺は一つ気がついた。
「アンタ、カバンなんか持ってきたのか?」
「うん。あればなにかと便利かなと思ってね?」
そう言う割りには随分と小さめのポーチなんだが…
「まぁ構わないが早速何か落ちたぞ?」
そう言って俺がエアリスのカバンから落ちたキレイに折られた紙切れを拾いあげるとエアリスがカバンの中を慌てて確認していた。
カバンの中をぐちゃぐちゃに引っ掻き回しているが
だからコレだろ?
探しているその様子はまるでカバンの中にないはずがない。といった感じだな
そんなに大切なものなのか?この紙切れが
エアリスが探す手を止めバッと顔を上げ俺の顔を見た
「……っ!?」
その上げられたエアリスの表情に俺は驚いた。
これ以上ないというぐらいに顔を青くして今にも泣き出しそうな顔をしている。
「それ、私の…」
「あ、あぁ。アンタのカバンから落ちたからな。アンタのだろ」
エアリスが俺からその紙切れを受け取り、確認するため広げた手は僅かに震えていた。
なにがアンタをそこまでさせるんだ?
たかが紙切れ一枚に
「よかった…」
エアリスは少し落ち着いたのか、いつもの笑顔で紙切れを見ていたが
紙切れを持つ両手にほんの少し力を込めていた。
一体その紙切れに何が書かれているんだ?
「ありがとう!クラウド」
「なんなんだ?それ」
「これ?世界地図。」
「世界地図?」
そんなものに普通あんな表情するか?
「見たい?」
俺は少し考えてから答える代わりに覗きこんだが
エアリスのその世界地図は…
「?何なんだこれは」
──‥白紙だった。
いや正確には地名も書かれていなければ色分けなども全くされていなく、そのうえ歪な絵で描かれていて
ハッキリ言って見にくいし汚い。
「白紙の地図なんか役に立つのか」
「ふふっ、白紙じゃないよ?ほらここ」
そう言われた先。そこには確かに文字が書かれていたが
「ミッドガル?これしか書いてないんじゃ白紙と変わらないだろ」
「なんでも屋の割にクラウド、夢ないね?」
「今、なんでも屋は関係ないし、夢が必要な話か?」
「夢を忘れちゃいけないよ?クラウドくん」
「普通そんなもの大切に持ってるものか?」
「うーん。私、普通じゃないのかもよ?」
「あぁ。確かにアンタは変わってるな」
「クスクス。普通なんてつまらないでしょ?なんでも屋さん」
「……そうですね」
「確かに、歪ですごく変でちょっと汚いけど」
…自覚はあるんだな。
「私にはこの世界地図が大切な大切なものなの。」
「‥‥。」
「でも、ない?他人から見たらガラクタでも自分にとっては、すごくすっごく大切なもの。クラウドには、ない?」
「…興味ないね」
俺がお決まりのセリフを言ったのが面白かったのかエアリスの楽しそうな笑い声が聞こえた
「な、何が可笑しいんだ?」
「クスクス。だってクラウド」
「先に寝るぞ!」
「ふふっ。は〜い」
逃げるように言い捨てて俺はその声を背中で聞きながらテントへと入った。
アンタのこの笑い声、肩でも揺らしながら笑っているんだろ
そんなに可笑しいか?あのセリフ…。
まぁいいさ、興味な…
‥‥‥。
さっさと寝るか…。
翌日、少しテントの入り口を開け、辺りを見れば薄暗かった。
まだ、起きるには早い気もしたが二度寝をする気にもならなかった俺は一人テントから出て身体を伸ばした。
「んーーー…ん?」
あの紙切れ…。
エアリスのじゃないか…?
まったく…大切なんだったらちゃんと終っておくべきじゃないのか?
いや
大切だからか?
きっとどうせあの後も“ミッドガル”しか書かれていない白い世界地図を眺めて気づいたら寝てしまった。とかかもな
世話のかかる人だな
エアリスは案外ぬけていたりするからな…
俺がその紙切れを拾い上げようとしたとき
突然──強い風が吹いた───。
「あ、おい!」
俺の手に拾い上げられる予定だった紙切れは予定外の風に吹き飛ばされ空を舞っていった。
その時、俺の頭の中に昨日のエアリスの真っ青な顔が浮かんだ
気づいたときには
俺は走り出していた。
必死になって風に飛ばされてる紙切れを追いかける。
「くそっ…」
着地するかと思えばまた飛ばされ、届くかと思い腕を伸ばしジャンプをすればより高くへと舞い上がる
「何処まで飛ばされる気だ!?」
俺は風と紙切れに遊ばれているんじゃないかと思いつつも必死になって追いかけ続けた。
ガサッ!
遠くの方で無造作に伸びていた背の高い木の枝に引っ掛かる。
結構高いな…
だが
「元・ソルジャーをなめるなよ」
俺はさっきよりも勢いをつけて走り思いっきり踏み込みこれ以上ない!というほど高く飛び上がり見事に地図をキャッチした。
「よしっ!」
が
着地の事は全く考えていなかったな…。
着地先は運悪くぬかるんだ場所で俺は面白いぐらいに派手に転んだ。
元・ソルジャーが聞いて呆れる。
俺も案外ぬけていたりするのかもな…。
「よっ」と言いその場で はね起きをして立ち上がり紙切れを確認したらやはり昨日の世界地図だった。
「よし。汚れてないな…」
まったくこんな紙切れ一枚を必死になって追いかけるだなんて
らしくないな。
でも、エアリスのあんな顔は見たくない。
ただやっぱり“らしく”はないかもな。
「…戻るか」
風に遊ばれたせいかテントのあるところからかなり離れてしまった。
エアリスが起きて紙切れがないことに気がつく前にカバンに戻さなくちゃいけないからな
「少し急ごう」
俺が駆け足でテントの場所へと戻ると皆、起きていた。
それもそうだ。
俺が紙切れを追いかけ始めたときにはまだ辺りは薄暗かったのに、今は完全に日が出て視界も明るい
起きてないとすればユフィぐらいだろう
「あ!クラウド!どこ行ってたの!?心配したのよ!?」
「すまないティファ。エアリスは?」
「そうよ!エアリスも大変なの」
まさか…
「大変って?」
「なんか大切なものを無くしちゃったらしくてね。昨日の夜まで見てらしいからテントの近くにはあると思うって。だからクラウドも一緒に探して!」
やっぱりな…。
どうやら俺は少し帰ってくるのが遅かったらしいな
まぁ仕方ない。早く渡してやるか。
「エアリス」
「あ。クラウド…。ねぇクラウド!昨日の世界地図見なかった!?」
「あぁ。それなら朝、風に飛ばされるのを見かけたんだ…」
「え!?そんな…飛ばされた…」
俺が「だから取ってきた」と続けようとしたが、エアリスは既に前置きで一瞬にして顔を真っ青にし膝から崩れ落ち脱け殻のようになった。
本当、一瞬だった。
「おい!話を最後まで聞け。」
「‥‥。」
虚ろな眼をしながらエアリスはなんとか俺の方を見上げてみせる
見たくなかったのにな…
まったく、俺はなんのために頑張ったんだか…
まだまだ、だな俺は
「風に飛ばされるのを見かけたから追いかけて拾ってきたぞ」
「‥‥え?」
「ほら、コレだろ」
エアリスが昨日と同じようにガサガサと広げ確認する。
「エアリスそれなの…?」
「うん。うん!これ!」
エアリスが嬉しそうに白い世界地図を抱きしめた。
眼には涙が浮かんでいるように見えた。
「ありがとう!!クラウド!」
──‥あぁ、そうか‥‥。
「…なんでも屋だからな」
エアリスの悲しそうな顔を見たくなかった。
それは確かに本当だ。
でもそれ以上に
アンタの喜ぶ顔が見たかったんだ。
だから、俺は──
──あんなに必死にだったんだ…。
なぁ?
俺たち皆で色々なところ旅したよな?
俺はあの地図は俺たちが行った場所の名前をどんどん書き込んでいく為に“真っ白”なんだとアンタの手作りなんだと思っていたんだ。
なのに
あの日から数年経った今でも
アンタが大切にしていた真っ白な世界地図には
“ミッドガル”
とだけしか書き込まれていていないまま───
───主を失った。
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実はこの話し続き物で、しかも後編の方だったりします。じゃあ前編は?と聞かれるとupしてません。話の都合上あえて先に後編をupという小賢しい話です(笑)
こちらが前編≫君と見る夢【エア誕記念フリーSS】
2011 01 10