墨を零したような、闇に溶けるような、黒。





ーそれが、わたし。














ゴウゴウとプロペラの回る音と共に風が巻き上がる。


私はその突風の中を表情1つ変えずに、神羅ヘリから滑走路へ降り立つ。


カツリとヒールの音がコンクリートに心地良く響いた。








「お疲れ様、ザックス」








私は頬に掛かる髪を押さえながら後ろを振り向き、次に神羅ヘリから降りようとして
いる任務の相棒に労いの言葉を掛けた。


今回の相棒ーーつまりソルジャークラス1stのザックスは、ヘリから飛び降りるタイ
ミングを計っているようだった。








「…よっ、と!」








ストン、神羅ヘリから軽々と降り立ったザックスは「シスネこそお疲れ!ありがと
な」と言って腰に手を当て、ニカッと笑った。








「それにしても、あん時はほんっと助かったぜ〜ちょっと冷や汗かいた、俺」





「全く…ザックスは無茶しすぎよ」





「ま、でも任務は完了!終わりよければ全てよし!」





「…あのね」








私は目の前で晴れやかに笑う顔に怪訝な目を向けたが、本人は全く気にしていない模
様。


そんな彼の表情に、何だか可笑しくなって不意に頬が緩む。








「ふふ、まあ、ザックスらしいわ。終わりよければ全てよし、ね」





「だろ?」








かちり、視線が合った瞬間、私たちは同時にぷっと吹き出した。


些細なことで互いに笑い合う、こんな自然な関係が私は心地良くて、いつだって仄か
な幸せを感じてしまう。











「じゃ、俺、行くな。シスネ。今日はほんとお疲れ!」

















ーー感じてしまう、けれど。








ぐい、と引き戻される現実感。





目の前のザックスがやけに笑顔で、私はいつだって気が付いてしまう。











あの子の所に、行くのだ、と。











少しの変化でも気が付いてしまう自分が、もどかしくて堪らない。








「そう。私も呼ばれているし、もう行くわね。今日は本当にお疲れ様」








けれど微笑むことはただただ容易くて、私はにこりと笑顔を作る。何事もないかのよ
うに。


小さい頃からタークスの訓練を受けてきたのだもの、この左胸の痛みだって無視する
ことなど簡単。








私の笑顔に彼もにこりと笑って応える。








「そっか、シスネこそお疲れ!今日はゆっくり休めよ!」





「ええ、そうさせてもらうわ。じゃあね、ザックス」











カツリ、踏み出せば透明なヒールの音が何処までも何処までも響いた。黒のスーツは
固く、肌にピタリと貼りついていて丁度いい。





ーいつもの、私だ。














そう思っていると、突然「やっぱ待った!」と言う声と共にガクン、と視界が鈍く揺
れた。


驚いて振り向けば、思いもよらない手ががっしりと自身の右腕を掴んでいる。








「……え、ちょっと…何?」








動揺のあまり揺らいだ言葉は頼りなく宙に浮いて、瞳すら満足に動かせない自分がい
た。


目の前の真剣な蒼に、魅入られてしまった。





そして彼から不安げに紡ぎ出された言葉に、私の身体はピタリと時を止めた。




















「…シスネ、どうした?何かあったか?」








「…!?」














すう、と一気に血の気が引く。指先の冷たさに肌が毛羽立った。


どくんどくんと冷たさと熱さを混ぜ、左胸が鈍く脈打つ。








「……っ、なっ、何もないわよ。もう行くわね」








私はやっとの思いでそこまで言うと、ばしりと力任せに掴まれた腕を振り解いた。



彼の瞳から逃れるように視線を落とし、方向を変える。どくどくと何かが脈打つ痛さ
も、熱さも、切なさも苦しさも哀しさも、全て振り捨てながら小走りに走り去る。






カンカンと響く床板の金属音が、やけにうるさかった。



































ーねえ、どうか。





どうか気が付かないで、そのまま、どうかそのままの貴方と私で。





黒は闇と限りなく同義。


黒から溶け出してきたような私は、汚れた仕事がきっとお似合い。





ねえ貴方は、私が今までしてきたことを知ったら、どう思う?





小さな小さな女の子が、表情一つ変えずに行った任務をどう思う?








私は違いすぎる。


彼女とはあまりに違いすぎる。








分かっていたのに、分かっているのに。


脳裏にちらつく教会の彼女が綺麗すぎて、苦しい。











「……っ!」








両手を広げると、ボウとくすんだ手の平が彼女のものとあまりに違って、私はたまら
ず握り潰した。



































(私は、天使にはなれない。)
























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やっぱりあおさんの描かれる小説は私のドツボですよ〜(;ω;)シス→ザクエア最高です!!シスネの感情表現とかもう本当に素晴らしすぎて眩しいです!(←?)目敏いくせにザックスはきっといつまでもシスネの気持ちには気づけないままなんだろうな〜…エアリスのことばっかりで…!(鼻血)そしてシスネの最後の苦悩という葛藤というか全てのバランスが絶妙で本当あおさんは憧れの人ですよ>///<
どうか今年もストーカーさせていただきたいです(^o^)


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