あの日あの時が

最後だと分かっていたのなら






彼は私を




強く抱き締めてくれただろうか?



大きな手で頭を撫でて安心させてくれただろうか?



優しく抱き締めてキスしてくれただろうか?



「好き」や「愛してる」などと甘い言葉を囁いてくれただろうか?












泣いてすがれば出て行かずに今も一緒に居てくれただろうか?









答えは









NOだ。








きっと彼は





最後の日だと言われても最後の日にしないよう、立ち向かう人。





だから、帰ってくる気満々に「これで最後」みたいな出発ではなく









普段通りに行ってしまう。








あの地で変わってしまった友の為に



あの日未来を奪われた友の為に



あの場所を失ってしまった村の人の為に







彼は旅立つ。








彼が知らなくて良かった。




がんばり屋の彼のことだから





あの日あの時が最後だと分かり、未来を知ってしまったら



きっと彼は







教会へと足を運ぶ数が減ってたと思う。






もっと強くなる為に、と。






もっと強くなって友も未来も、私との約束も、ぜーんぶを守る為






彼はきっと、自分が強くなる道を選んでいた。







そして、いつもと変わらない笑顔で






「いってきます」





そう言って彼は出掛けていく。





どんなに私が



願っても
泣いても
叫んでも







最後の最後まで懸命に生き、誰かの為に全力を尽くす。





例え




最後だと分かっていたとしても







「やってみなければ分からないじゃない?」





と、あの人懐っこい笑顔で残酷に告げる。






多分、何を言ったところで彼の意見を変えることは出来なくて






例え、あの日あの時が最後だと分かっていたとしても






彼は止まらない。






だからね?もし、






あの日あの時が彼との最後だと分かっていたのなら








あの日だけでも
















笑顔で「いってらっしゃい」と言ってあげたかった。








私を思い出してくれる時、寂しい顔ではなくて






笑顔が良かったな。







──私がそうだったように‥。






私だって、最後ぐらいは“可愛い気のある女の子”でいたかった。






こんなに彼のことを想っているのに、行くのをやめてくれはしないだろうと確信させるあの人を「ひどいなぁ」とも、思うんだけどね?








でも、彼の気持ち。覚悟。







今なら分かる。






だって







私もそうだから。












‥そう、だったから‥‥。





結局みんなを置いて一人私は











死んでしまった。






でも、








私も同じだったんだよ?







帰るつもりだったの




みんなの所へと






ごめんね?









でも、もし、あの日あの時が最後だと分かっていても








あの日あの時のアナタのように








私の意思は、固かった。








だから





少し会いに来るの、早くなっちゃったけど





悲しい顔や怒った顔はしないでね?




あの日あの時と同じ笑顔で私を呼んで。






あの日あの時してあげられなかった笑顔で会いに行くから!





ほら、





あのツンツン頭の後ろ姿が見えてきた。





「ザックス!!」





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -