空は好きだ。


透明で青い、遥か空は俺にとって懐かしくて、どこか心に滲む。


あの頃と同じ想いを今でも引き摺って生きている俺はどうしてこんなに弱い。強くなりたいと願っているわけではないけれど、目指すものはただ、遥か2人。


























少しだけ錆び付いた大剣は、けれどいつ見ても苦しい。触れようと手を伸ばして何度も躊躇する俺は、はたからみればなんて滑稽だろう。








(ザックス)








あんたの為に生きたいと思うのは今でも変わらない。変わらないんだ、けれど。








「クラウド?どうしたの?」








腕に乗せたマリンが心配そうに俺を覗き込んだ。何でもない、と言った俺がマリンを直視出来ないのは、ピンク色のリボンを見ることが出来ないから。





彼女を、思い出してしまうから。








(クラウド、)








頭の中で反響する声はもはや日常になりつつあって、色褪せることなどない。いや、きっと色褪せたくないと俺が願っているからだと思うけれど。








俺は大剣へと視線を戻した。錆び付いていても悠然と立っているそれは、憧れた英雄によく似ていた。








エアリスを思い出す度に思うのは、俺じゃなくてザックスが生きるべきだったに違いないという罪の意識。


エアリスが旅の途中、何度も翡翠を歪めて空を仰いでいた横顔を、俺は何度も見てきた。


声を掛ければいつも決まって笑顔を作って、なぁに?と答えるエアリスは、どこか悲しい笑みをしていたのを思い出す。

















「あっ」





ざぁっ、風が吹いてマリンのリボンを攫う。ピンク色のそれは、視界から外れていった。








「リボンが…!」








マリンの髪が空気を含んでふわりと広がる。その間からは、悲しげに俯いたマリンの顔があった。





私、探してくる!と言って手から離れたマリンを見送りながら、俺も探しておく、と言うとマリンは少し振り向いてうん!と笑った。








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小高い場所だというのに、いつの間にか風は止んでいた。英雄の大剣に背を向けながら俺はふと空を仰ぐ。それはどこまでもどこまでも美しい蒼をしていた。








「クラウド」








ふと背後から声が聞こえて俺は耳を疑った。何故ならそれは色褪せることのない、あの声だったから。








「エアリス…?ザックス…?」








聞こえるかどうかすら危うい位の囁きは、喉を通してか細く溶ける。





大剣を背に立っている2人は、あの日と同じ、懐かしい色をしていた。





「どうして…」





言いたいことは山程あった。ありがとう、ごめんなさい、だけど喉が詰まって声にならない。辛うじて出てきた俺の言葉は、ただただ、現状に対する疑問だけだった。脳が白い。どうして、という到底不確かな疑問だけが白い感情の中でふわふわと浮遊した。











「クラウドが、心配だったから…ね?ザックス」





「ああ、おまえがどうしてるかと思ってさ」





目の前の2人は微笑みながら俺を見た。俺はその微笑みを何度も見たことがあって、懐かしさに胸が焦げる思いがした。すぐ傍に、大切だった2人がいる。泣きたくなる位に胸が痛い。それなのに嗚呼、どうして。











「俺は…」





俺は俯いて唇の端を噛んだ。力の入った眉間は瞼をピクピクと痙攣させる。あの日と同じ2人はどこか消え失せそうに霞んでいた、それだけがあの日と違う。そしてそれは間違いなく、他でもなく俺のせいなのだ。それだけが焼けるように痛くて血がどくんどくんと体中に巡る。





罪の意識はさながら螺旋のように俺を取り巻いていて、俺はいつだって迷子だった。いつだってそこから出ることは叶わなくて、出たいだなんて思ってはいなかった。立ち止まって迷って振り返って、それが俺の自由だと思っていた。だけど。











「俺は、生きていてもいいのか?」








嗚呼どうして、ずっと心に潜んでいた思いは言葉に表すことでなんて具現化するのだろう。螺旋のようにぐるぐると俺を捕らえていた負の感情に、許されたいと願っていたらしい俺はなんて傲慢な人間なのだろう。


自分の弱さが心臓でちくりと痛んだ。だけど。











「何言ってんだ!」








あの頃と変わらないザックスの声が鼓膜を大袈裟に揺らして俺は顔を上げた。





「当ったり前だろ!」





そう言ってにっと笑った英雄は、どうしてこんなに優しい青をしているのだろう。心がじわりと暖色色に滲む。こんな感覚はいつぶりになるのか。








「そうそう、クラウド!当ったり前だろ!」





くすくすと笑いながらエアリスも言う。その笑顔も懐かしい彼女の色をしていた。手が震える。全身の末端神経から感覚が削がれたように痺れた。





具現化した感情は、どうしたって俺を罪に追いやるだろう。なのにどうして、俺はこんなにも温かい感情に包まれているのだろう。温床は心地良くて、鈍る脳はどこまでも温い。














くすくすと笑っていたエアリスが俺の変化に気付いたのか、ふとにこり、翡翠を細めて言った。








「クラウド、私たち、いつだって一緒だよ」





だから、と続けたエアリスの声を遮るようにゴウ、と一陣の風が吹く。服の裾が耐え切れずにバタバタと音を鳴らした。


辛うじて聞こえた言葉は2人を更に霞ませた。それは俺の視界が霞んでいたからに違いなかった。





そう、俺は。


























「クラウド、見つけてくれたんだ!」





ふと背後から聞こえたマリンの声に、俺は反射的に首を回して振り向いた。


相変わらずの風はマリンの髪を大袈裟に揺らしていて、マリンは気怠そうに髪を抑えた。





え?、と言う俺に、マリンは大剣を指して言う。








「リボン、こんなところにあったんだね、気付かなかった」








はっとして即座に大剣に視線を戻すと、そこに2人の姿は無く、ただ当たり前のように錆びた大剣と、それに絡まってバタバタと揺れるピンクのリボンがあっただけだった。








(夢…?)








だけど夢と呼ぶにはあまりに近くて、幻と呼ぶにはあまりに儚い。けれどそれでも、俺の心は温かかった。夢でもいい。2人は確かにここにいて、あの時確かにここに生きていた。





パタパタと大剣へ歩み寄ったマリンは柄に引っかかったリボンを手に取って、嬉しそうにまた髪を束ねた。





「クラウド、これ、変じゃない?」





結び目を見せながらマリンは不安げに俺を覗き込む。





「ああ、大丈夫だ」





「ほんと!よかった!」





そう言ってにこりと笑ったマリンはとても嬉しそうにしていて、俺は自分でも釣られて微笑んだことが分かった。








ごうごうと吹き荒れる風の音は、螺旋の壊れる音によく似ていた。











残像


(クラウド、私たちいつだって一緒だよ、だから)


(だから一緒に、生きていこう?)



















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以前あお様のサイトでキリ番3113hitでミラーというかなり強引な理由でお願いしたザクエア←クラです!こんな強引なキリ番でこんなにも素敵な小説を頂けて興奮が半端なかったです!!(>▽<)死ねるって思いました!違うH.Nで頂いたので凄く悩んだんですが、あお様にお願いしたところ快く承諾をしていただきました!あお様本当にありがとうございました!!片想いですがスゴイ尊敬しているうえに愛してます!!



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