休日のすごしかた


今日は日曜日。いい天気らしくぽかぽかとした陽気のなか、俺はいつもより長い睡眠を貪っていた。のだが。

「ぐえっ!?」

腹にどすりと何かが降ってきた。いや、正体はすでにわかっている。

「ハレルヤ」
「うう…刹那…重いどけ…」

何やら嬉しそうに俺の腹に跨っている末弟は、退く気配もなく足をばたばたと動かしている。ていうか、やめっ、それ、苦しいから、振動が、ちょっ。

「公園」
「は?」
「公園いく」
「おう…いってらっしゃい」

そう言うと、刹那は明らかに拗ねたような表情をして足をばたつかせるのを止めた。あー苦しかった。

「ハレルヤも」
「ええ…」

そういうことだろうとは思ってたけど。面倒だしまだ寝ていたい俺は心の底から嫌そうな声を出したのだが。

「起きろ」

うちの刹那さんはそういうことを気にしない。行きたいから行く。なんとマイペースな弟だろうか。

「ニールと行けよ。今日バイト休みだろ?」
「ニールがハレルヤも呼んでこいって」

あのバカ兄貴め。






「おー!やっと降りてきたかお前ら」

刹那に引っ張られてリビングに行くと、準備万端、といった様子のニールが立っていた。気合入りすぎてて気持ち悪ぃ。

「ハレルヤ、早く用意して行くぞ!」
「その前に朝飯…」

というかまだ眠いし。すごく寝たい。今すぐソファに横になりたい。

「ない」
「は?」

今何言ったこいつ。

「朝飯はない!さあ行くぞ公園へ!」
「はああああ!?」

何言ってんのこいつ!?
まだぽかんと口を開けている俺にニールは着替えを押し付けた。え、まじで?まじで朝飯抜き?
はあぁ、と重いため息を付く俺の服の裾を誰かが掴んだ。刹那だ。

「ハレルヤ、行くぞ」

…ああ、もうわかったよ!今すぐ行きゃあいいんだろ!






ああ、いい天気だ。
公園のベンチに腰掛けている俺はそうひとりごちた。
刹那はニールと遊んでいるから俺は手持ち無沙汰だ。なんで俺を連れてきたのかが謎すぎる。
ふわあ、とひとつ欠伸を溢してベンチにもたれかかる。
…それにしても、多いな。家族連れ。
ここは街の中でも結構大きい公園、というか遊具が豊富にある広場、と言ったほうがいいだろうか。だから、土日は結構人が多い。こどものきゃあきゃあと甲高い声が鬱陶しい。
いやひとりふたりだったら構わないんだが、こうも大勢となると鬱陶しくなる。

「おにいちゃん」

そしてこうやって声をかけてくる子もたまにいる。自分で言うのも何だが、怖くはないのだろうか。自分では強面だと思っているんだが。

「なんだ?」

努めて優しい声で応える。泣かれでもしたらたまらないからだ。

「なにしてるの?」
「弟が遊んでるんだ」
「おにいちゃんは遊ばないの?」
「俺の兄ちゃんが遊んでるから、俺は休憩中」
「じゃあ一緒に遊ぼう?」

そして大体はこう言われる。知らない子と遊ぶなんて出来るわけがない。いやできないこともないんだけど、こういうのは親がうるさいからだ。
そりゃあ自分の子どもが知らない男と遊んでいたら…なあ。このご時世だ。通報されでもしたらたまらない。
さてどう断ろうかと考え込んでいると、遠くから「ハレルヤー」と呼ぶ声が聞こえた。ニールだ。

「ごめんな、兄ちゃん呼ばれてるから、行くな」

そう言うと、その子はまあすごく残念そうな顔をしていたが納得してくれた。
その表情が少し刹那に似ていたから、俺はその子の頭を一撫でしてからもう一度「ごめんな」と言って2人の元へ向かった。






「ハレルヤもってもて〜」

2人の元へ行った途端ニールに言われた。

「うるせえだまれおっさん」
「おっ・・・!?俺はまだ20歳だ!」
「俺にしたら十分おっさんだよ」
「じゃああと4年もしたらお前もおっさんだな!」
「その頃にはお前はもっとおっさんになってるけどな」
「うっ」

そんなあほみたいな問答をしているから、刹那がいなくなっていることに気付くのが少し遅くなった。

「あ、あれ!?刹那ー!?」
「おーい!どこだ刹那ー!」

2人してバカな兄貴だと嘆きながら探す羽目になった。






結局刹那は偶然会った友達と遊んでいた。のを見つけたのは10分後。

「おま、え、言ってから、行けよ!」
「言ったけど気付かなかったのはふたりだ」
「しん、心配、したじゃねえか、ったく」
「じゃあしっかりと見ておけ」
「なんでお前が偉そうなんだよ」

そう言って刹那の頭をぐしゃぐしゃとかき回してやる。やめろとでもいうように手をばたばたとさせるが、そんなもので適うわけもない。
ニールも「ほどほどにしろよー」と言って笑っているだけだ。刹那の手助けをする気はないんだろう。

「ほらほらどうした?やめてほしいんじゃないのかー?」
「うー…っ!」
「え、おわっ!」

にやにやと笑いながらかき回していると、急に刹那が俺の腹辺りを強く押した。全く持って油断していた俺は、刹那と仲良く芝生に倒れこんだ。背中を強かに打ちつける。

「いっ…てえー。おい刹那、怪我ないか?」

尋ねると、俺の腹に抱きついて顔を埋めている刹那からくぐもった声で「んん」と聞こえてきた。大丈夫なんだろう。安心してため息を吐く。

「おいおい、大丈夫かお前ら?」
「大丈夫大丈夫。なあ刹那」

今度は声を出さずこくりと頷いた。顔はまだ埋めたままだ。

「なら行くぞ。みんな来たって、さっきアレルヤから電話があった」
「ん、わかった。おい、刹那どけ」

しばらく渋っていたが、ずるずると退くと先を歩き出した。何拗ねてるんだあいつ。
とりあえず身を起こして刹那に追いつく。「ほれ」と言って手を差し出すと、刹那は目を丸くさせて俺の手を見た。

「…なんだ?」
「まーたどっかふらふらされちゃ困るからな。ほら」
「…こどもじゃない」
「子どもだっつの」

そう言って無理やり手を繋ぎ歩く。ちらと刹那を見ると、さっきまでの拗ねた表情はどこへやら、頬を緩ませていた。
何が悪くて何が良かったのか俺にはわからないけど、まあ機嫌がいいならそれでいいやと思った。






「お、微笑ましいな」
「は?」

ニールがいきなりそんなことを言い出すもんだから、かなりとぼけた声が出てしまった。

「さっきのとき周りのお母様方に言われてたぞ、『あら微笑ましいわね』って」
「うわあ…」

そんなこと言われてたのか。なんだか恥ずかしくなってきた。

「刹那〜俺とも手繋いでくれよ」
「ん」
「ひひ、なんだか本当の兄弟みたいだな」
「笑い方がきめえよ」

まあ、悪い気はしないけど。
3人で手を繋いで歩く様子が、本当の兄弟に見えたらいいと思いながら、待っている3人の兄弟の元へと向かった。




(おー!弁当だ!)
(べんとうだー)


end.







お弁当の様子も書こうと思ったんですが…あれ、終わった…








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