お弁当騒動


はぁ、はぁ、と息を切らす。汗が額から頬へと流れる。
自分のものではない自転車を漕いで、漕いで、俺はある場所へと向かっていた。
なんでこんなことになってんだ、と血の繋がっていない長兄を恨みながら。






「よっし出来た!今日は会心の出来だぞ!」

いつも通りの朝、弁当担当のニールがいつも以上ににこにこと笑いながらダイニングに来た。両手にはいつもは使われない弁当箱を持っている。

「ハレルヤ、ハレルヤ」
「んあ?」

そんないつも以上に気持ち悪い兄の様子を眺めていると、刹那が裾を引いてきた。

「なんだ?」
「かいしん、ってなんだ」
「あー」

小学生の刹那にはニールの言うことの意味がよくわからなかったのだろう、訝しげな表情をしていた。それにしてもなんで俺に聞くんだ?

「会心って言うのはなあ、まあ、すげーいいもんが出来たってことだよ」
「いいもん?」
「今日はお前が遠足だからって、張り切ったんだろうよ」
「そうか」

言葉は淡白だったものの声色や表情は明らかに綻んでいる。ああ、やっぱり小学生なんだな、こいつも。弁当だけで喜ぶなんて。
心持ちぴょこぴょことした足取りでニールの元へ向かう刹那を、口端が上がるのを抑えられないまま眺めていた。






「よーし、忘れ物ないな?」
「ああ」
「遠足のしおり持った?」
「ああ」

俺とアレルヤの言葉に刹那が頷く。無表情だが、これから行く遠足への期待でそわそわしているのが見て取れた。

「じゃあ、楽しんでこいよ」
「帰ったら話聞かせてね」
「ああ、いってきます」
「じゃあな、先行くわ。お前らも遅刻するなよー」
「おー」

ニールに連れられて学校へ向かう刹那を見送ってから、俺たちも少し急いで準備を始めた。






そうして、いつも通り学校に着いて、いつも通り自分の席に着いて、さて1限目の準備をしようと鞄を開けて、俺は絶句した。

「な、……っ、え、は!?」

言葉を発しようとしても驚愕が勝って声がでてこない。
ミハエルの「どうしたー?」という暢気な声にも返す余裕はなく、とりあえずポケットに入れていた携帯を取り出し、ニールの番号にコールした。
3コール目で繋がり、ニールの「どうしたハレルヤー?」という声にどうしようもなくイラッとした。

「どうしたもこうしたもねえよ!お前、俺の鞄に刹那の弁当も入れやがっただろ!」

そのイライラをぶちまけるように怒鳴ると、暫くの沈黙の後「え…ま、マジで?」という声が聞こえた。

「嘘なわけねえだろ…。これどうすんだよ…」

がっくりと項垂れて言っても結局沈黙しか返ってこなかった。
弁当がなくてもどうにかなるかもしれないけど、刹那はあんなに喜んでた、楽しみにしてたんだ。それをこんな形で台無しにしたくなんかない。

「ニール、遠足のバスって何時出発だ?」
『え?…えっと…9時半だったと思うけど』
「じゃあまだいけるな。俺届けるわ」
『え、だってお前授業が』
「じゃあ刹那は弁当なしか?」

また沈黙。ニールとしても、それは避けたいのだろう。わかってるさ、だから届けるんだ。
俺としては、授業よりもこっちの方が大切だからな。

「じゃあ、そういうことで」
『え、おい、待』

ニールが何か言いかけていたが切ってやった。こちとら時間がねえんだよ。

「おい、ミハエル」
「あ?何だ?」
「チャリ貸せ」
「え?」
「お前自転車登校だっただろ。貸せ」

言うが早いかミハエルの鞄を漁り、自転車の鍵と弁当を持って教室を出て行った。
「自転車泥棒ーっ!」という叫びが聞こえたが、聞こえないふりをした。






そうして、冒頭に戻る。
今俺は、刹那の通う小学校へ向かって全速力で自転車を漕いでいる。息は既に上がっているが、休憩している暇もない。
正直、制服姿で必死に自転車を漕いでいる俺はさぞ注目の的であることだろう。
もう早く行って早く学校へ帰ろう、と心持ちスピードを上げた。





やっと小学校が見えてきた、という時には、もうバスの出発時刻が迫っていた。
現に校門前にはバスが止まっていて、もう生徒が乗り込んでいるのが見えた。
やばい、と小さく呟き最後の力を振り絞って小学校へ向かう。

「あ、」

そのとき見えたのは、今にもバスに乗り込もうとしている刹那。

「せ、」

刹那は気付かずにバスに乗って、

「刹那!」

顔だけをひょこりと出してこっちを見た。






「どうしたんだ、ハレルヤ」

そう聞かれるが、息が切れていて答えるに答えられない。ただぜえぜえと喘ぐしか出来なかった。ああ苦しい。でも間に合ってよかった。
とりあえず弁当を差し出す。刹那は訳がわからない、という顔をした。そりゃあそうだ。自分の鞄の中にあるはずの弁当を俺が持っているんだから。

「に、ールが、間違え、て、俺、の鞄に、入れやがって」

途切れ途切れにしか話せなかったけど、刹那は理解したらしい。こくりと頷いて弁当を受け取った。

「ありがとう、ハレルヤ」

滅多に聞くことの出来ない末弟からの感謝の言葉に少しだけ驚いたけど、嬉しさが勝り、俺は笑顔で「おう」と返した。






「あーそれにしてもあっちい。刹那、ゴムとか持ってねえ?」

手で後ろ髪を纏めながら尋ねると、刹那はふるふると首を振った。まあそりゃあ持ってないか。
学校に戻ってからアレルヤかソーマにでも借りようと思っていると、目の前に花をたくさんあしらったゴムが出された。
下を向くと、ピンクの髪の少女が目いっぱい背伸びをしてゴムを差し出していた。えっと、この子は確か。

「フェルト、だっけか」

そう言うと、フェルトはこくりと頷いて、小さな声で「これ」と言った。使ってくれということだろう。
このいかにも小学生の女の子向けなゴムを使うのは正直恥ずかしいけど、好意を無駄にするわけにもいかない。

「ありがとう」

そう言って受け取る。こういうときアレルヤや兄貴たちだったら、もっと気の利いたことが言えるんだろうなと思う。言葉にするのは苦手なんだ、俺は。
だから、言葉の代わりに頭を撫でた。これで伝わるとは思ってないけど。

「じゃあな、刹那。俺戻るわ」
「ああ」
「えっと、ゴム、明日刹那と返しに来るな。いいか?」

フェルトに向き直り言うと、フェルトは何も言わずに頷いた。この子も大人しいな。必要以上に煩いよりはいいけど。
そうして、今度はゆっくりと学校へ帰った。
帰ってから、クラスの奴らにもアレルヤにもゴムを笑われたのは言うまでもない。怒りに来たはずの担任も笑っていたので、結果オーライだろ。





(おーおかえり。どうだった遠足は)
(ハレルヤがもてもてだった)
(は?)



end.







文章がおかしいと思いますが気にしないでください…すみません
家族パロではハレルヤと刹那の組み合わせが好きなことにやっと気がついた。かわいすぎる!
ただ刹那がしゃべらねえ!
最後に刹那と話してるのは…誰でしょうね…特に決まってません
ハレルヤかニールかライルですね
刹那の為に弁当持ってきたハレルヤ兄ちゃん、顔のよさも相まって刹那のクラスメイトにもてもてです。男子にも女子にももてもてです^^







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