君の全てに恋してる!


陽の光もようやっと暖かくなってきて、気持ちよく昼寝ができるとぽかぽかと陽が差し込む窓際に寝転び、さあ寝るぞと瞼を閉じたその時。
ピンポーン、とまるで見計らったかのように玄関から音が聞こえた。
居留守を決め込んでいると、ピンポン、ピンポン、と連続して鳴らされたそれは止むことを知らない。
はあ、と一つため息をついて今さっき寝転んだ暖かいフローリングからのそのそと起き上がった。
頭の後ろをぼりぼりと掻きながら黒いスウェットのまま玄関に向かう自分はさぞだらしがないだろう。
未だ喧しく鳴り続けるチャイムに少し苛つきながらドアを開けると、そこには、

「よう、ハレル」

そこで声は止まった。いや厳密に言うと止まってはいないのだが。
ドアを開けて目の前に居る人物を確認した瞬間にドアを閉めたもんだから、ちょうど最後の「ヤ」の部分だけ聞こえなくなったのだ。
とりあえず鍵も閉めて、念を込めてチェーンロックもかけた。こじ開けられたらたまったもんじゃない。いやできないだろうけど。
目の前で扉を閉められ、しかも鍵まで閉められた当の本人は暢気に「ハレルヤー」と声をかけてきている。その声にまたいらっとした。
とりあえずこのままじゃ埒があかない。放置してもいいのだが、後で周りから色々言われるのは俺だ。それは避けたい。今の状況よりも面倒なことになる。

「なんでここにいるんだよ、ライル」

鍵は閉めたままドア越しに話しかけると、ライルは「ハレルヤ」と嬉しそうに言った。






別にライルが嫌いなわけではない。むしろ好きの部類に入るほうだ。ならば何故ここまで邪険に扱うのか。
俺だって友達にこんなことしたかねえよ。わざわざ来てくれた友達に。そう、友達に。

「ハレルヤー、開けてくれよお」
「てめえがこの間の発言を撤回するならな」
「それは無理かなあ」
「じゃあ開けねえ」
「ハレルヤあ」

この間の発言、というのは、こいつが、このやろうが、俺に。…ああもう、思い出すだけで腹が立つ。

「なんだよ、まだ怒ってんのか?俺はただお前に告白しただけだってのに」
「ああああてめぇぇぇ!言うんじゃねえ!」

怒鳴りながらガンガンとドアを殴る。周りに聞こえたらどうすんだこの野郎!
ライルの言うとおり俺はこの前こいつに告白された。

「ていうかなんで家知ってんだお前!」

仲がいいとはいってもまだ家は教えてなかったはずだ。今度教えようと思ってたときに告白されてそのままずるずると今まで引っ張ってきた。なのになんでこいつ知ってるんだよ。ストーカーか。

「お前の兄貴に聞いた」
「アレルヤの奴…」
「それよりさあ、…開けてくれよハレルヤ」

少しトーンを落としたことが気にはなったけど、とりあえず「嫌だっつってんだろ」と言ったら、ライルの口から信じられないような言葉が発された。

「周りに人が集まっててさあ…気まずいんだけど」
「っはあ!?」

ばんっ!と勢いよくドアを開けるとゴン、と鈍い音がして半端なところで止まった。開いたところから顔を覗かせると、手で顔を覆ってしゃがみこんでいるライルがいた。






「いってえ…」
「自業自得だろ。ていうか入れ速やかに」

そう言ってまだしゃがみこんでいるライルを玄関に引っ張り込んでドアを思い切り閉めた。
ああもう、駄目だろこれ。絶対変な奴だと思われた!まだ俺が女なら変な奴はライルだけで済んだけど、生憎俺は男だ。
ということは、俺も必然的に変な奴になるというわけだ…。…もう考えたくねえ。

「何落ち込んでるんだよ」
「てめえのせいだよ…」
「え?…ああ、さっきの?あれ嘘」

…は、?

「だってさ、そうでもしないと部屋に入れてくれないだろ?」
「当たり前だろうが!ていうか帰れ。今すぐ帰れ。音も立てずに帰れ」
「いやです」

悪びれた様子もなく笑顔で言われるとほんっと腹立つんだな。よくわかった。

「じゃあ死ね」
「ハレルヤが一緒に死んでくれるならいいよ」
「嫌に決まってんだろ死ね」
「じゃあ俺も嫌だなあ」

ああもうほんっとうに腹立つ。イライラする。無性に殴りてえ。目の前にいるこいつを。
そんな衝動を俯いて目を瞑って辛うじて抑えていると、いきなり左手首を掴まれた。驚いて体が竦む。
その隙をつかれ思いっきり床に押し倒された。フローリングに強かに打った背中が痛む。

「な、っにすんだよてめえ!放せや!」

いつの間にか右手も拘束されていて、殴ろうとしてもできなかった。足を動かそうにも乗っかられていて適わない。
見上げると、至近距離にライルの顔があった。海のような深い色彩をした瞳に見つめられて少したじろぐ。

「だってこうでもしないと、ハレルヤは俺の気持ち真剣に受け止めてくれないだろ?」

元々受け止める気もないのだ、こんなことをされても困る。

「こんなことされても、俺は受け止める気はねえよ」
「それは困るな」
「俺は困らねえから安心しろ。そして死ね」

動けないけれど、いや動けないからこそ口でしか攻撃できねえ。もどかしいけど、とりあえずこの状況から脱しないと危ない。何がって、俺の色々なものが。
口で負ける気はしないから、上手くやればなんとかなるだろう。…なんて浅はかな考えはすぐに砕かれることになる。というか、もうちょっと考えろよ俺!

「い、っ…」

それに気付かされたのはまさに今、もう時すでに遅しというやつだ。
掴まれていた手に思い切り力が籠められる。いてえだろ、と文句を言おうとした瞬間、体が動かなくなった。動けなくなった。
ライルの瞳は先ほどとは一変して、どこまでも冷たく俺を見下ろしていた。今まで見たこともないライルの表情が、俺は怖かったのだ。

「ら、らいる…」
「なんで嫌なんだよ?俺はお前のこと、こんなに好きなのに」

ギリ、とまた腕に力が籠められる。マジでいてえんだからやめろよ。痕つくだろ。

「っ…俺は、嫌だって言ってんだろ。好きなら相手の気持ちは尊重しろよな」

そう言うと、ライルの冷たかった瞳は少し悲しみに彩られた。罪悪感は感じる。でも、ライルの気持ちを受け止めることは、俺にはできない。
すると、ライルがいきなり顔を近づけてきた。おいおい、そんなに近づいたら。
ライルの瞳は真剣そのもので、ああこれはマジでやばいと今まで冷静だった頭が高速で回転しだした。そのわりには何も解決案は出てこないが。

「さっ…」

もうくっついてしまう、という瞬間、俺の中で何かが弾けた。

「させるかああああああぼけええええええええええええ!!」
「ぐげふっ」

火事場の馬鹿力で引っ張り出した足で思い切りライルを蹴り上げた。
ライルをどかせられればよかったのだけど、がっつり鳩尾に入ってしまったためライルは気を失っていた。

「…あ、やっべ」

やりすぎた、と呟くも時既に遅し。
外に放り出そうかと思ったけど、それこそ変な噂を立てられかねないので諦め、ずるずると部屋に引っ張っていった。
起きたときにまた襲われそうになったら、今度は不能にしてやる、と物騒な決意を固めながら。






結果、ライルは今日のようなことはもう二度としない、と言った。流石に不能にはされたくなかったか。
まあアピールっぷりは今までどおりだけど、もうそれでもいいと思ってる。
…それに、まんざらでもないと思ってるからな。
ライルには言ってやらないけど。

まだ、な。


end.







ホモなライルさんとノンケなハレルヤさんのお話でした。
初めはタイトルが「とある春の日のバカップル」だったんですが、こいつら付き合ってない!というかハレルヤすごい嫌がってるじゃん!と思って変えました。








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -