01.とある日の朝、ハレルヤさんと刹那くん


遠くで誰かが叫んでいる。
覚えのある声、でも思い出せない声の人物を確かめようと閉じられている瞼に力を込める、が、視界は暗いままで、一向に景色を映さない。
俺の体は冷たいところに転がされていて、手も足も拘束されているわけでもないのに思うように動かない。体が痛い。
声が聞こえる方と逆の方向から、かつ、かつ、と足音が聞こえてくる。こっちに、近づいてくる。
その足音は俺のすぐ近くで止まった。俺は体を必死に動かしてそっちに顔を向ける。
今度こそ、とありったけの力を瞼に込めると、うっすらと光が入り込んできた。久しぶりのように感じるその光に目を細める。
その光の中にひとつ、影がある。逆光で顔は見えないが、多分男だ。
もっとよく見ようと目を凝らしていると、いきなり視界がぐるりと回った。仰向けだった体が横を向く。
いつの間にか瞳は逆方向を見ていて、先ほどは見ることができなかった、遠くから叫び続ける人物を瞳が映す。あれは、

「っ、!」

もっとよく見ようと目を凝らした瞬間、横腹を思い切り踏まれ、息が詰まった。
痛い、いたい、くるしい。
恐らくさっきの男が踏んでいるのだろう。上から何か声が聞こえるが、体中が、特に横腹や肋骨が激しく痛み、何を言っているのか頭で処理することができない。
痛みに意識が霞がかってくる。ああ、だめだ、もう、
叫び声が聞こえる。ずっと、ずっと、聞こえる。
ずっと






「ハレルヤ!起きろ!」
「…んあ?」

目が覚める。瞼を開いたら、血の繋がっていない長兄のドアップ。
さいあくの目覚めじゃねえか。

「お前、さっきからずっと呼んでたのに気持ちよさそうに寝続けやがって」
「んー…おはよう」

まだ半分夢の中にいる俺に、ニールはため息をついて「はいおはよう」と返した。

「もう朝飯できてるからさ、早く着替えて降りて来い」
「んん…」

ニールはもうひとつため息をついて部屋を出て行った。
まだ寝たいけど、流石にこれ以上寝坊するわけにもいかない。そう思いのろのろと着替え始める。
何か夢を見ていた気がするけど、忘れてしまった。
ただ残っているのは、どろどろとした気持ち悪さ。






着替えを終え、ダイニングに行くともう俺以外は全員揃っていた。

「おーす」
「おせえぞハレルヤ」

そう叱責したのは次男であるライルだ。なんだよ自分だって講義がないときは昼まで寝てるくせに。
ライルを無視して自分の席に着く。そうして、用意された朝食を食べ始めた。

「おはよう。ハレルヤは何飲む?」

そう笑顔で尋ねてきたのは双子の兄のアレルヤ。この家で唯一の俺の血縁者だ。

「コーヒー」
「ブラックだよね。ちょっと待ってて」

待ってて、と言った割にはすぐに出てきた。わかってて用意していたんだろう。
適度に温かいコーヒーを啜り、トーストを一口齧る。バターのみが塗られたシンプルな味が口に広がる。
無言でトーストを食べ続けていると、制服の裾をくい、と引っ張られた。

「ん、どうした刹那」

俺は裾を引っ張った主、末っ子の刹那の方を向く。

「ハレルヤ、今日かいもの?」
「ん?ああ」
「おれもいく」

何故かこの弟はやたら買い物について行きたがる。特にお菓子をねだるわけでもなく。
この前ライルに「お前は刹那によく懐かれてるな」と言われて、ああ俺が行くからついて来るのかと理解した。
なんで懐かれてるかは全くわからないが、まあ、悪い気はしない。
だから俺は、いつもと同じように言葉を返した。

「おう。じゃあ家で待ってろ」
「わかった」

そう言って頭を撫でてやる。ふわふわとした髪が気持ちいい。

「子どもあつかいするな」
「へいへい」

まだ小学3年生だというのに、子ども扱いするのは当たり前だろうが。

「ハレルヤ、早く食えよ。時間やばいぞ」
「へ…うわっ!」

時計を見ると、もうあと5分で家を出なければならなかった。慌てて残りのトーストを詰め込む。
立ち上がって、あまり好きではないネクタイを締めつつ半分ほどになったコーヒーを飲む。ニールに行儀が悪いと怒られたが、時間がないんだから仕方がない。

「ハレルヤ」

また刹那に裾を引っ張られる。時間がないから後にしろと言いたいところだが、弟をぞんざいに扱うわけにはいかない。というか、そんなことはできない。
とりあえずマグカップをテーブルに置き、屈んで刹那と目線を合わせる。

「どうした?」
「おれも飲みたい」

そう言って指差したのはテーブル。の上にあるマグカップ。

「もしかして、コーヒーか?」

そう言うと、刹那は無言で頷いた。今までそんなこと言わなかったのになんで急に。

「飲みたい」
「だーめ。これはおとなの飲みものだからな」

そう言うと、刹那はむっとした顔をしてテーブルから俺のマグカップを奪っていった。

「あ、こら刹那!」

俺の制止も聞かずに刹那はマグカップの中身を一気に煽った。瞬間、刹那の動きが止まる。
ふるふると小さな体が震えだす。慌てて俺はマグカップを取り上げ背中を擦ってやった。
しばらく擦っていると、ぎゅうと体にしがみついてきた。やっぱりまだまだ子どもじゃねえか。

「…にがい」
「そりゃあコーヒーだからな」
「にんげんの飲みものじゃない」
「俺飲んでるけど」
「…ハレルヤはにんげんじゃなかったのか」
「おいおい」

つい苦笑してしまう。本気で言っているのがまた面白い。
ぽんぽん、と軽く頭を叩いてやる。今度は文句は言われなかった。






「何をしているんだ2人とも。遅刻するぞ」

後ろからかけられた声に少し驚いて振り向く。

「ティエリア」

そこにいたのは、五男のティエリア。少し睨んでいるからまた驚いた。俺なにかしたか?

「…いじめているのか?」
「はっ?」

ティエリアの視線の先には、俺にしがみついている刹那。ああ、なるほど。俺が刹那をいじめているってことか。

「そんなわけねえだろ」
「そうだな。言ってみただけだ。悪かった」

正直ここで6人で住み始めて一番変わったのはこいつだと思う。最初は言葉遣いも雰囲気も冷たくて刺々しかった。
それが、一緒に暮らすうちに、特にニールと接するうちに段々と柔らかくなっていった。言葉遣いも雰囲気も。
前よりも今の方が当たり前だろうけど俺は好きだ。まあ、俺は他の兄弟に比べると好かれていないらしいけど。

「それにしても、先ほども言ったが遅刻してもいいのか?2人とも」
「え?…あ、」

やばいやばい!こんなことしてる暇なかったっていうのに!

「刹那!とりあえずやばいからさっさと行くぞ!」
「にがい…」
「コンビニでジュース買ってやるから!」
「そんな時間はない」
「あああもう!」

急いでコップにミルクを注ぎ刹那に渡してやる。一気に飲み干した刹那は、どうやら大丈夫になったらしい、満足したようだった。

「おーいお前ら!早く来い!」

玄関からニールの声が聞こえてくる。そろそろ本気で行かないと危ないようだ。
少し小走りで玄関へ向かう。玄関にはもう俺たち以外の3人が揃って待っていた。

「遅いぞ」
「悪い悪い。ニールは今日バイトだっけ?」
「ああ。ライルは?」
「俺は今日は休み。アレルヤは部活か?」
「うん。今日はお菓子だから持って帰ってくるね。ティエリアは生徒会は?」
「今日は休みだ。だから刹那と帰る」
「ハレルヤかいもの」
「わーかってるって。ちゃんと1回帰ってくるから」

そんな会話をしながら全員で学校へ向かう。






そんな、とある日の朝。


end.


兄弟パロ始められました!やった!
まあ更新は少なめになるかもしれないのですが…
最初にシリアスがありますが基本ぐだぐだとした日常になると思います
今回は刹那がたくさん出てきました。かわいいせっちゃんを目指しました。
ハレルヤさんと刹那くんは何故か仲良し。というか刹那がハレルヤさんに懐いている様子








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