君を待つ僕、僕を想う君


まるで昨日までみたいじゃないか。
ただし、立ち位置は全く逆だけどな。






2月28日、ハレルヤとアレルヤの誕生日の次の日。俺は昨日の楽しさの余韻に浸りながら1日を過ごしていた。
授業も全て終了し、さて久しぶりにハレルヤと一緒に帰るかと辺りを見渡して気付く。ハレルヤがいない。

「あれ?」

先に帰ってしまったのか?いやでも俺が準備で一緒に帰れなくなるまではずっと帰ってたんだし、それはないだろう。
そう思いながらも少し不安になって廊下を覗くと、いた。そそくさと廊下を歩く後姿が。

「ハレルヤ!」

叫ぶと、ハレルヤは驚いたように体を竦ませた。おずおずと振り返るその顔は、申し訳なさで彩られている。

「…先に帰るのか?」
「……ああ。用事があるから。悪いな」

そうか、と言う暇もなくハレルヤは歩いていってしまった。
そのまま小さくなっていくハレルヤの後姿をぼうっと眺めていたら、急に肩を叩かれた。びくりとして振り返ると、

「よう、何してんだ?」
「兄さん…」

双子の兄が笑顔で立っていた。

「別に、何でも」
「ふうん、そうか。じゃあ帰ろうぜ」
「え?」

兄に帰ろうと声を掛けられたのは何時ぶりだろうか。いつもは俺たちと同じようにアレルヤと2人で帰っているのに。

「兄さん、アレルヤは?」
「ん?用事があるからって先に帰ったけど」
「ふうん…」
「ハレルヤもだろ?」

あまりにも確信を持って尋ねられたものだから少し驚いたけど、首を縦に振って答えた。

「そうか。まあ、なんにせよ楽しみだよなあ」

楽しみ?楽しみって、

「何が?」
「え?」

予想外の返答だったのか、兄さんは驚いた顔をしてこっちを見た。
俺は何か変なことを言ったのだろうか。そんなに驚いた顔をされるとは思ってなかった。

「何って、誕生日に決まってるじゃねえか」

誰の?と言いかかった言葉は寸でのところで飲み込まれた。そうか、今日は2月28日。俺たちの誕生日は、3月3日。もうすぐだったっけ、そういえば。
納得したという顔をしたのだろう、兄さんも満足したような表情になった。

「やっと気付いたか」
「ああ。ハレルヤとアレルヤの誕生日ばっかり考えて自分のことを忘れてたよ」
「じゃあハレルヤが帰った理由もわからなかったのか、愛想つかされたとか思ってたのか?」

う、と言葉に詰まる。そんなこと、思ってたに決まってるだろ!何があったのかと思ったって!
兄さんはにやにやとしながら「まあ、楽しみにしとこうぜ」とだけ言って帰るため廊下を歩いていく。
急いで鞄を取りに自分の席に戻って、兄さんの後を追った。






次の日も、その次の日もハレルヤはひとりでさっさと帰っていった。どこか申し訳なさそうにしているけど。
俺は、同じく暇を持て余している兄さんと一緒に帰ったり適当に遊びに行ったりしていた。ハレルヤと帰れないのは悲しいけど、我慢だ、我慢。
まあ帰り以外は今までと変わらず、というか一緒に帰れないために今まで以上にべたべたしていたんだけどさ。1日目でハレルヤに「うぜえ」って言われたけど無視した。
明日は俺の誕生日!思う存分いちゃいちゃしてやる!






下心を持っていた俺が悪かったというのか。

「え?」
「ごめんね、ハレルヤ風邪引いちゃって今日休みなんだ」

すごく、ものすごく楽しみにして学校へ来たのに、ハレルヤは教室にはいなかった。
隣の教室にいるアレルヤに聞いたところ、さっきの言葉が返ってきたのだ。
がっくりと肩を落とす。せっかく楽しみにしてたのになあ…。まあ、風邪ならしょうがないけどさ。
でも風邪か…あいつ大丈夫かな。家に誰もいないんだろうし、強がりだから1人で大丈夫だとか言って突っぱねたんだろうなあ。
残念だという気持ちより心配になってきて、メールでもしようかと思ったけど病人に無理はさせられないし…。どうしようかとぐるぐると考えを廻らせる。
そんな俺の気持ちを全てわかっているのか、アレルヤは徐に鞄から1つの鍵を取り出した。

「鍵貸してあげるから、行く?ハレルヤ今実家にいるよ」

目の前でぶらぶらと揺れる鍵。それを迷うことなく取り、教室を出ようとドアへ向かう。

「無理はさせないでね」
「そ、そんなことしねえって」

にこにこと笑うアレルヤから逃げるように自分の教室へ向かった。
友達に適当に理由をつけ、鞄を取って走って学校を出た。
今もひとり寂しく寝ているであろう恋人の元へ向かうべく、走る。






鍵を差し込み回すと、ガチャ、という音が鳴ってドアが開いた。なんだか、他人の家の鍵を勝手に開けて入るという行為に妙に高揚を感じた。
とりあえずここに居ても何も始まらないからと中へ入って、しっかりと鍵を閉めた。…特に他意はない!他に誰も入らないんだから閉めるのは普通だ!
そして、寝ていたらまずいからと思いできるだけ静かにハレルヤの部屋を目指した。






ハレルヤの部屋の前に着く。部屋からは物音がしていた。起きているのだろう。
いきなり開けたら驚くだろうからと、普段はしないノックをしてみた。

「…ん?アレルヤ、か?」

少し掠れている声で返事が返ってくる。声色からしても辛そうなのは明白だった。
また心配になってきて、ドアを思い切り開け放った。

「ハレルヤ!大丈夫か!?」
「なっ、ら、ライ…っ!?」

ドアを開けると、パジャマに身を包んだハレルヤが、ベッドの上に上半身を起こして座っていた。何かを布団に隠したような気がしたけど、何かはわからなかった。

「な、なんで、てめえがいるんだよ!」
「ちょ、そんな大声出したら、」

心配したとおり、急に大声を出したせいで目が回ったのか右手で頭を押さえて項垂れた。

「おいおい、大丈夫かよ」
「感染る、から、近寄んじゃねえ」

聞かずに近寄り、まだ項垂れているハレルヤの背中に手を添えた。離れさせようとハレルヤが俺の胸を押すけど、熱の所為かいつもよりずっと弱い。
そのまま抱きかかえて頭を撫でる。最初は抵抗していたけど、熱にうかされているからか、単に面倒になったからか、段々と弱まっていく。

「感染るって、言ってんだろ…」
「ハレルヤの風邪なら感染ってもいいよ」
「ばかか…」

あ、これ結構いい雰囲気?まあハレルヤが弱ってるからだろうけどさ。
そのまましばらく撫で続けていたんだけど、そこであることに気付いた。
俺が部屋に入ってから今までずっと、ハレルヤの左手は布団の中にある。そう、俺が部屋に入って、ハレルヤが慌てて何かを隠してからずっと。

「ハレルヤ、左手何かあったのか?」

言った瞬間、ハレルヤの体が強張ったのがわかった。何かあったのか。
怪我でも隠しているのかと思って体を離して腕を掴むと、本当に熱が出ているのかというくらい強い力で抵抗された。

「なんだよ、気になるって」
「な、なんでもない、から、はなせって」

さっきのは思い切り力を振り絞って抵抗したらしく、今度はあっさりと引っ張り出すことが出来た。そこには、

「……なんだこれ?」

ハレルヤの左手の全ての指に、何本もの毛糸がぐるぐると巻きついていた。

「え、えっと、これは」

見ると、まだ何かついているらしかったので更に引いてみると、ずるずると茶色いものが出てきた。これって、

「…マフラー?」

毛糸がぐるぐる巻きついていた指には、その毛糸で編まれたらしいマフラーがくっついていた。なあ、これって、もしかしてさ。

「俺への誕生日プレゼント?」
「っ…そうだよ!悪いかよ!」
「悪くない!っていうか、すげえ嬉しいよ」

にこりと笑って言うと、その言葉が嬉しかったのか、ハレルヤが恥ずかしそうに笑った。やばい、すげえ可愛い。

「あ、でもまだ完成してねえから、もうちょっと待て」

そう言うと、ハレルヤは拙い手つきで続きを編み始めた。

「指で編めるのか?道具とかいらないのか?」
「ん、なんかさ、これが一番簡単らしい。アレルヤに教えてもらった」

だからずっと先に帰ってたのか。やったこともない編み物をして、俺にマフラーを渡すために。
ああ、改めて思うとやばいな。まさか手作りとは思わなかった。顔がにやけるのを抑えられなくて、手で口を覆って誤魔化した。
ハレルヤがそれに気付いた様子はなく、必死に続きを編んでいた。
それがまた可愛くって。でも病人だからと自制をして。それをぐるぐると繰り返す。

「そういえば、風邪は大丈夫なのか?」
「ん?ああ、まあ、大丈夫だろ」

全くこっちを見ずに言う。本当に大丈夫なのか?と心配になったけど、どうせ言っても聞かないだろうから何も言わなかった。
完成したら問答無用に寝かせようと思いながら、ひたすら待った。






「よし、できた」

邪魔しちゃいけないと黙ってから数十分後、ハレルヤがそう言った。
見ると、指にぐるぐる巻きついていた毛糸はもうなく、代わりに茶系の太さも様々な毛糸でしっかりと編みこまれたマフラーが握られていた。
初めて作ったとは思えないほど綺麗に編まれていて、自賛ではないけど、俺にぴったりだと思った。
ずっと起きていて大丈夫なのかと思ったけど、ハレルヤの顔色を見る限りさほど酷くもないらしい。さっきよりも顔色がよくなっていた。

「おお、すごいな」

素直に感想を言うと、ハレルヤが嬉しそうに目を瞬かせた。ああもう、それ以上可愛い反応をしないでくれ!
ハレルヤはそのまま俺の首にマフラーを巻いてくれた。ふわふわとした感触がして、とても暖かい。

「えっと、その、た、誕生日、おめでとう。ライル」
「うん、ありがとう。ハレルヤ」

そのままハレルヤをぎゅうと抱きしめた。今度は、ハレルヤも全く抵抗せずに腕の中に収まっていた。

「愛してるよ」
「…っ!」
「愛してる」

抱きしめていて見えないけど、今のハレルヤの顔はさぞ赤くなっていることだろう。風邪ということを差し引いても。






「じゃあ寝るか!」

そう言って俺は、ハレルヤがいるベッドにもそもそと入り込んだ。

「お、おい」
「なんだよ、いいじゃねえか」
「そうじゃなくて、学校は」

今更かよ、と少し苦笑した。まあ、そういうところも可愛いんだけどな。

「サボった」
「いいのかよ」
「ハレルヤの為なら」
「…ばかやろう」






ベッドでまた抱きしめながら眠る。
いつもより少し高い温度が、とても心地よかった。






翌日、全快したハレルヤが、変わって熱を出して寝込んだ俺の見舞いに来たのは、また別の話。


end.







遅くなりました…!
そしてわけもわからなくなりました。
またハレルヤに風邪を引かせてしまった。ごめんハレルヤ。
指編みは前にテレビでやってました。指で編むってなんか可愛いなって思ってハレルヤさんにしてもらいました。
何にしても、ニール、ライル、誕生日おめでとう!








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