生まれてくれた君に感謝


今日は日曜日。学校もバイトも休みだからいつものように家でごろごろとしていた。
少し違うのは、メールの量がいつもより多いということ。
今日の午前0時から始まり、現在、午前10時ごろには10件近く違う人物から送られてきた同じような内容のメールが受信ボックスに入っている。
皆最初に入れる言葉は決まって『誕生日おめでとう』。
そう、今日は、俺とアレルヤの16回目の誕生日なのだ。
ちなみに最初に送ってきたのはアレルヤで、午前0時丁度に送られてきた。女子みたいなことすんじゃねえよ。






こうやって友人たちは律儀にメールをくれるというのに、恋人であるライルからのメールはない。ニールからも来ているというのに。
イベントごとを大事にしているライルだから、今日も誘われるだろうと思ってバイトも休んだのに、結局そんなことはなくて。
自分で誘うのもなんだか癪だから何も言わないでいたら、結局このザマだ。正直少し寂しい。そして悲しい。
自分はライルにとってその程度の存在だったのかとか、もしかしたら他に好きな奴ができたのかとか、そんなことばっかり考えて、また不安になる。
そういえば最近妙に付き合いが悪かったし…。いつも一緒に帰ったりそのまま出かけたりするのに、ここ一週間くらいはずっと1人で帰っている。ライルがさっさと帰ってしまうからだ。
あながち間違ってないかもしれない想像にまた落ち込んでいると、今日何度目かわからない音楽が携帯から流れる。今度は誰からメールだ?
見ると、ちょうど今落ち込んでいる原因であるライルからのメールだった。
少しどきどきとしながらメールを開くとそこには、

『急で悪いが11時ごろに俺の家に来てくれないか?』

どいつから送られてきても必ずあった『誕生日おめでとう』の文字はどこにもなくって、あるのは無機質な連絡のみ。
これはマジで振られるかもなあ。俺、誕生日に振られるのかよ。空しすぎるだろ。
とりあえず『わかった』とだけ返して、部屋着から着替え始めた。






そろそろ家を出なければならない時間になったので、ジャケットを羽織って家を出る。
鍵を閉めたことを確認して、ライルの家の方向へ歩き出した。もうすぐ3月だというのに、まだ風が冷たい。心も一層冷えてしまいそうだ。
しばらく歩いていると、後ろからよく知った声が聞こえた。

「ハレルヤ!」

振り向くと、双子の兄で、同じく誕生日であるアレルヤが走ってきていた。

「よう、どうしたんだよ」
「ニールに呼ばれたんだ。ハレルヤもライルに呼ばれたの?」
「ん、ああ」

当たり前のように2人でディランディ家へ向かう。こいつはこれからデートなんだろうな、羨ましい。俺は、どうなるんだろう。
また悲しくなってきた。涙が出そうになるのを堪えて歩いていると、アレルヤがこっちを見ているのに気がついた。やべ、ばれたか?

「ハレルヤ」
「…なんだよ」

緊張して声が強張る俺に気付かず、アレルヤはこうのたまった。

「目、悪くなったの?」
「…は?」
「だって、眼鏡してるから。学校でもしてなかったよね?」

そう、俺は今眼鏡をしている。オーソドックスな黒縁のもの。視力が落ちたというわけではなく、度の入っていない伊達眼鏡だ。少しでも目を隠せるようにつけてきたのだ。
もし、泣いてしまったりしたときの為に。

「いや、これ伊達だから。別に視力落ちたとかじゃねえよ」
「そっか、よかった」

そう言ってアレルヤはにっこりと笑った。ああ、ばれてなくてよかった。
それにしても最近欲しくなって買った伊達眼鏡だけど、買っておいてよかった。こんなところで役に立つとは。






アレルヤと話しているうちにディランディ家に着いた。アレルヤと話していたおかげで少し解れていた緊張が、またにじみ出てくる。
そんなことも露知らず、アレルヤは勝手にインターホンを押し、マイク越しになにか会話をしている。
ブツッという音で、マイクが切れたことを理解する。少し後に、ガチャ、とドアが開いた。

「よう、お前ら。よく来たな」
「ニール」

顔を出したのは兄であるニールだった。笑顔で迎えるニールに、笑顔で返すアレルヤ。なんとも仲睦まじい様子に、少し安心すると共に、また羨ましく感じた。

「ハレルヤ」
「何だ?」

自分が呼ばれたことに少し驚きつつ返事を返すと、ニールは尚笑顔で言葉を続けた。

「ライルがまだ部屋にいるんだ。だから、迎えに行ってやってくれないか?俺はもう出かけるからさ」
「お、う。わかった」

ライル、という言葉に少し体が強張るけど、何事もなかったように玄関から家に上がってライルの部屋に向かう。
すると、玄関にいるニールからまた声が掛かった。

「ハレルヤ、夕方までには帰ってこいよ」
「ん?…おう」

「夕方までには帰ってくる」ならわかるけど、「帰ってこい」というのはどういうことだろう。まるで俺がこれから出かけるような言い草だ。
不思議に思ったけど、ニールはそのままアレルヤと出てしまったから、聞くことはできなかった。






さっきからずっとライルの部屋に入る勇気が持てず立ち尽くしている。怖い。部屋に入って、ライルがどんな顔をしているのか。それを見るのが、怖い。
それでもずっと立っているわけにもいかない。ありったけの勇気を振り絞ってドアノブを握ろうとして、

「あれ?ハレルヤさん?」

また出来なかった。思わぬところから声をかけられて、びくっと体が竦んだ。ぎちぎちとした動きで声のした方を向く。

「あ、エイミー…」

そこにいたのは、ニールとライルの妹であるエイミーだった。兄たちとそっくりのふわふわとした茶髪を長く伸ばして、女の子らしい服装に包まれている、どこからどう見ても美少女。この家の美形ぶりは驚かされるものがある。
にっこりと笑ってこっちへくるエイミーにぎこちないながらも笑顔を返す。

「ハレルヤさん今日眼鏡してる!かっこいい!」
「え、そ、そうか?」

あまりそういうことを言われていないから少し嬉しくなる。すると、いきなりエイミーが腕に抱きついてきてぎょっとした。でも邪険に扱うわけにもいかず、されるがままになる。

「あーあ、なんでお兄ちゃんと付き合ってるんだろう。ハレルヤさんすごく好みなのに」
「あー…でも俺、もしかしたら振られるかも」

ライルの部屋の前ということを考えて小声で言うと、エイミーが真ん丸の瞳を更に真ん丸くさせてこっちを見た。

「えっ!なんで!?」
「いや、最近なんかそっけないというか…蔑ろにされてる気がして」
「そうなの…ふうん」

何かわかったのか、エイミーはくすりと笑ってライルの部屋の方を見た。

「じゃあ、私ハレルヤさんと付き合っちゃおうかなあ」
「おい、ちょっ…」

あまりにも大きな声で言うもんだから焦って止めに入る。ここライルの部屋の前だぞ!?
とりあえず話すにしても違う場所にしようと思い歩き出そうと一歩踏み出す。
だけど、そこから二歩目を踏み出すことはなかった。






「だーめ。ハレルヤは俺のだから」
「ら、ライル」

会いたくて、でも会いたくなかった恋人が、後ろから俺を抱きしめている。視線をライルに向けると、ライルはエイミーを挑戦的な目つきで見ていた。
エイミーはいつもの笑顔を浮かべながら「わかってるよ」と言った。

「ハレルヤさんはお兄ちゃんのってこと、ちゃんとわかってるよ。ちょっと言ってみただけ」

そのままエイミーは友達と出かけると言って階段を降りていった。え、じゃあ、俺からかわれた?年下の女の子にからかわれるとか、恥ずかしすぎるだろ。
ライルはその間ずっと俺を抱きしめていて、玄関を閉める音が聞こえてからやっと解放された。
振り返ってライルを見ると、ライルはにっこりと笑っていて、自分の顔が引き攣るのが分かった。やばい。怒ってる。

「でさあ、さっきの、何?」
「え、痛っ!」

ぐい、と引っ張られたと思ったら壁に思い切り押し付けられた。あまりの痛さに涙が滲む。

「俺と別れるって?なんで?俺がお前を振る?なんでそんなこと、言うんだ」

ライルはまだ笑っているけど、瞳が揺れていて、泣きそうで。声も震えていて。壁につかれた手も震えていて。
こんなライルを見せられたら、もう疑えねえじゃねえか。

「わ、悪い。最近そっけない気がして、不安で。ごめん」

何故か涙が滲んできて、震える声で謝る。ライルも少し驚いていて、怒りが収まったのか、今度は少し悲しそうな顔をした。

「ごめんな、不安にさせて。…誕生日、おめでとう。ハレルヤ」
「…おう」






そのあと、ライルの部屋で、最近そっけなかった理由を教えられた。

「だってさ、内緒にしてたいだろ。だから兄さんと一緒に隠れて準備したりしてたんだ」
「そうだったのか…」

結局全部俺のためで。それなのに他に好きな奴が出来たんじゃないかとか、馬鹿すぎるだろ、俺。ライルをちゃんと信じていれば、なにも不安になることなんてなかったのに。

「ていうか何その眼鏡」
「ん?…ああ、まあ、ファッションというか」

本当は泣いたら隠せるようにしてきたけど、そんなこと言えるわけがない。

「変か?」
「え?違えよ。なんというか、その、すごいそそる。かわいい。というかエロい!」
「はあ!?」
「エロいんだよそれ!なんだよ!最初見たときマジでびびったんだからな!」

まさかエロいと言われるとは思っていなかった。最初見たときってお前怒ってたじゃねえか。びびってたとか、全然わからなかった。
今更どぎまぎとしているライルを見ていると、なんだかライルが可愛く見えてきて、つい笑ってしまった。

「なんだよ、ハレルヤ」
「いや、眼鏡1つでここまで変わられると面白くて」

くつくつと笑い続ける俺に何も言えないのか、顔を赤くしながらぶすっと不機嫌になった。
それがまた可愛くって、俺は、

「…えっ」
「あ?…は、っ!?」

顔を真っ赤にする俺と、また顔を真っ赤にして額を押さえるライルが向き合う。

「え、ハレルヤ、さっきの」
「あああしゃべるな!わす、忘れろ!」
「いや…無理…」

まだ額を押さえて赤くなっているライル。俺は、さっき、何を思ったのか、ライルの額に、キスを、し、してしまったらしい。
未だにあわあわしてしまっている俺は、少しは落ち着いてきたらしいライルに抱きしめられた。

「えっと、あの、…ありがとうございます」
「へ、は、はい…」

あ、やっぱり落ち着いてないらしい。俺もライルも変だ。






「えっと、じゃあ、出かけるか」
「え?」

やっと、やっと落ち着いた俺にライルはそう言った。出かけるって、どこに?

「ああ、言ってなかったっけ?今日は夕方までデート、それから俺の家で兄さんとアレルヤも一緒にパーティ。いいだろ?」
「そうだったのか。まあ、いいんじゃねえの?」
「そっけない言い方して、本当は嬉しいくせに」

心を見透かされたみたいでちょっと癪だけど、本当にそうなんだからなんとも言えない。

「おら、行くんだろ!さっさと行くぞ!」
「はーい、お姫様いだっ!」

ふざけたことをぬかすもんだから思いっきり叩いてやった。

「暴力姫だなあ…」
「てめえそれ以上言ったら」
「すみませんでした」






2人で家を出て、街の方へ向かう。

「とりあえず昼飯食おうぜ、何がいい?」
「んー、なんかがっつり食いたい」

そんなことを話しながら歩く。
来る時はあんなに寒かったのに、今はとてもあたたかい。


end.







本当はパーティまでやるつもりだったんですが、これの方がキリがいいかなと思ってやめました
というか何故かエイミーが出てきちゃって長くなったのが原因なんですが…
いつもライルが迫るので今回はハレルヤさんにがんばってもらいました。
アレルヤ、ハレルヤ!誕生日おめでとう!








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