13.ないしょばなしと嫉妬嫉妬


その日の午後、俺たちはここ最近の習慣となった体育祭の練習をするべくグラウンドへ向かった。
騎馬戦と綱取りは怪我防止のために実践練習は禁止されているため、騎馬を組んで慣らしたり、軽く練習するのみだった。
綱取りについては、基本的にどのチームも作戦を練るのだが、うちのチームのキャプテンは「個々の判断に任せる」とだけ言った。適当なのかどうなのか。
まあこれらについては大体最初の方にすませてしまったので、今はリレーや応援合戦の練習を集中的にしていた。






今日はそれぞれ出場する競技の練習をしていた。俺とライルは同じ競技なので、必然的に一緒にいることになる。
今は、練習後の小休憩、といったところだ。あと10分ほどしたらまた練習が再開されるだろう。

「ハレルヤ、ほら」

声をかけられた方を見ると、ライルが水の入ったペットボトルを投げてきた。危なげなくそれを受け取ると「さんきゅ」とだけ言った。

「はー、やっぱり疲れるなあ。ずっと体育してるようなもんだからなあ」
「いいじゃねえか。俺はこういうの、嫌いじゃねえし」

ペットボトルの水を煽りながら答えると、ライルは意外そうに目を丸くした。

「へえー。ハレルヤってこういうの嫌がりそうなのに」
「こういうのって今だけだろ。それに勝負には負けたくねえ」

そう言うと、ライルは納得したというように頷いた。

「なるほど。この負けず嫌いめ」
「てめえもだろが」

少し睨むようにライルを見ると、その向こうからニールが歩いてくるのが見えた。ライルも、俺が向こう側を見ていることに気付いて振り返った。

「よ、お疲れさん」

周りから「きゃあ」とか「かっこいい」とか言う声が聞こえてくる。挨拶するだけで騒がれるとかこいつは芸能人か。しかもいいのは外見だけで内面は好きな奴にろくにアピールすらできないへたれだ。

「よう。人気者は大変だな」
「え?誰が人気者?」

わかってないとかどれだけ女泣かせなんだ。しかもホモだし。今きゃあきゃあと喚いている女共が知ったらさぞ落胆することだろう。どれだけニールを好いていても、ニールがそれに応えることはないのだから。

「別に。てめえも休憩か?」
「ああ。まあお前らみたいに団体競技じゃねえから結構自由なんだけどな」
「それでここに来たんだ。まあ兄さんの練習してるところからじゃあんまりアレルヤ見れないもんな」
「……え?」

あれ、ニールの奴、ライルには言ってなかったのか。おいおい大丈夫かよあいつ、真っ青になったり真っ赤になったり顔色変わりまくってんぞ。

「ちょ、ちょっとハレルヤさん、ちょっと」
「え、うおっ」

ニールにさん付けで呼ばれて気持ちわりいとかそんなことを考える余裕もなく少し離れたところに引っ張られた。なんだなんだ。






「なんでライルが知ってるんだよ!」

内緒話をするように顔を近づけ小声で叫んでくる。こいつ、俺がしゃべったと思ってるのかよ、このやろう。

「ライルが勝手に勘付いたんだよ。俺悪くねえっての」

こちらも小声で返す。少し怒気を交えて。

「え、マジで」
「すげえマジですが」

そう言うと、ニールは思い切りため息をついてその場にしゃがみこんだ。そんなに弟にばれたのがショックだったのか。
ニールの横にしゃがんで、頭を抱え込んでいるそいつの肩を軽く叩いてやる。

「まあ、なんだ、元気出せよ」
「出ねえよ…ライル勘よすぎるだろ…」

まあ、それに関しては同意しておく。俺も驚いたしな。

「俺が何?」

しゃがんだまま声が聞こえた方を向くと、ライルが不機嫌そうに覗き込んでいた。

「ライルが鋭すぎてニールが落ち込んでんだよ」
「ああ、アレルヤのこと?」

まだ機嫌は悪いようで、ぶすっとしたまま返事を返された。
ニールを見ると、すごく情けない顔でライルを見上げていて、同じ顔がここまで違う表情をしているのが少し面白かった。

「あんなの兄さん見てたらばればれだろ。皆が鈍すぎるんだよ」
「別に俺は鈍くねえぞ」
「どの面下げて」

馬鹿にするように笑われて少しむかついたけど、それより俺って鈍いんだろうか、という疑念の方が大きかった。今までそんなつもりなかったのに。
なんとなくライルを見上げると、ぐ、とライルがたじろいだ。なんだ?別にそんな睨んでねえけど、そんなに俺の顔は怖いのか。少し落ち込む。
今まで気にしていなかったのだが、さっきからずっとニールがぶつぶつ独り言を言っている。正直気持ち悪い。

「お、おい。ニール。どうした」
「う…俺なんてどうせ弟にさえ馬鹿にされるような駄目な兄貴なんだよお…」

めんどくせえ。すごくめんどくせえ。なんでこいつこんなにへたれでネガティブなんだよ。顔はいいんだからしっかりしろっての。
でもこのまま落ち込まれていられてもめんどくせえからとりあえず慰めることにした。

「あー、そんなことねえって。お前しっかりしてんだから、ちょっとは自信持てよ。そんなんじゃアレルヤも振り向かねえぞ」
「ハレルヤ…お前いい奴だな…」
「当たり前だろ」
「好きになりそう」
「死ねよ」
「ひでえ!」

やっといつもの調子に戻ったみたいで、辛辣な言葉をかけても笑って答えた。まあ、こんなもんか。






「楽しそうだね」

横からいきなり声がするもんだから少し驚いた。見ると、アレルヤがにこにこといつもの笑顔で立っていた。

「アレルヤ」

そう言うと、驚いたのかニールが思い切り立ち上がった。しゃがんだままだった俺も驚いて立ってしまった。

「僕だけ仲間はずれだから結構寂しかったんだよ」
「あ、わ、悪かった!別に仲間はずれにしてたわけじゃ、」

アレルヤが少し哀しそうに言うと、ニールが思い切り慌てて弁解し始めた。

「ふふ、わかってるよ。少し言ってみたかっただけ」
「え?あ、そ、そうなのか」

ニール、顔真っ赤だぞ。まあ恥ずかしいのはわかるけど。

「アレルヤはどうだ?練習」
「うーん、結構楽しいよ。相手の子に合わせるのは大変だけど」

アレルヤはどうやら女子と組んでいるらしい。身長差があると結構大変なんだろうな。
そしてニールが明らかに嫉妬している。その女子に。やっぱりお前わかりやすいわ。
しばらく談笑していると、リレーの選手の呼び出しがかかったので俺とライルはそこから離れた。
2人きりなんだから頑張れよ、とニールに心の中でエールを送っておいた。






集合場所まで歩いているとき、ライルが静かなことに気付いてそちらを見ると、まだ不機嫌そうに顔をしかめていた。

「なんだ、お前まだ機嫌悪いのかよ」

少し驚いて言うと、ライルに睨まれた。見下ろして睨まれる上に元が秀麗な顔つきだから余計に迫力があって少したじろいだ。

「不機嫌ですけど」
「なんだよ、お前放ってしゃべってたのが嫌だったのか?」
「ガキか俺は」

それ以外に思い浮かばねえよ。他になんかしたってわけでもねえし。

「ずっと拗ねてる時点でガキだろ」
「う、」

否定しないってことは認めてるんじゃねえか。そう思うと少し面白くて、手を伸ばして少し高いライルの頭を撫でてやった。

「な、なんですか」
「ん?いやなんか、こんなライル珍しいからさ。可愛いとこあんじゃねえか」

そう言って、ひひ、と笑いながらわしゃわしゃと頭を撫でた。ライルは最初は不本意そうだったけど、徐々に機嫌が直ったようで頬が緩んでいった。

「なに、ハレルヤってば、俺のこと心配してくれたんだ?」

いつものようににやにやと笑いながら俺の頭を撫でてきた。やるのはいいけどやられるのは恥ずかしいんだなこれ。

「やめろっつの」
「ハレルヤもやったんだからいいだろ」

そんなことをしているうちに何故か攻防戦のようになって、同じリレーの奴らに「早く来いお前ら!」と怒られた。
俺もライルもお互いが悪いと主張するもんだから、最終的にどっちも殴られた。






「あーいってえ…くそ、ライルの奴」
「コブにはなってないから大丈夫じゃないかな?」

練習も終わり、夕食も風呂も済ませた俺たちは、自室でいつものように寛いでいた。
アレルヤに殴られたところを見てもらうと、そう言われた。でもなんかまだいてえんだけどこれってどうなんだ?大丈夫なのか?

「練習に行ったはずなのにハレルヤもライルも何をしてたんだい?」
「あー、何か…なんだろうなあれ。俺もよくわかんねえ」
「なんだよそれ」

そう言ってアレルヤは笑った。
俺は実はこの時間が1番好きだったりする。風呂に入ってから寝るまで、テレビもつけずにアレルヤと他愛も無い話で盛り上がる。たまにニールとライルも来たりする。
中学のときはこの時間でも平気で出歩いてやんちゃしていたが、そう思うと結構大人しくなったなあとしみじみ思う。

「ねえ、ハレルヤ」
「なんだよ」

そう言ってアレルヤを見ると、何故かいつになく真剣な眼差しでこちらを見ていた。

「最近ライルと仲いいね」
「…そうか?アレルヤこそ最近ニールと一緒じゃねえか」

示し合わせているのがばれると面倒だから適当にはぐらかす。

「…うん、そうだね。ねえ、ハレルヤ」
「だからなんだって」
「えっとさ、」

言い難そうに俯いてもぞもぞするアレルヤを根気よく待ってやると、アレルヤはいきなり顔を上げた。驚いて少したじろいでしまう。

「あのさ、ニールってさ、僕のことどう思ってると思う…?」
「…は?」

なんでいきなり?と思ったけど、アレルヤの顔は真っ赤に染まっている。これは、もしかしたらもしかするんじゃねえの?

「えっとね、最近ずっと一緒だったからさ。あの、ニールってすごく優しいし、頼りになるし…」

優しいのはわかるが頼りになるは、ないな。というかあいつアレルヤの前ではちゃんとしてんだな。少し安心した。
アレルヤの前でもあんなへたれだったら蹴り倒してたところだ。

「それでね、あのさ、最近なんだかニールが気になって、今日も練習中とか目で追っちゃったりして…これって何だと思う?」

俺に確認を取ってるのかと思ったけど、アレルヤの態度から察する。こいつ、わかってねえぞ。ニールが気になるのが何を意味するのか。そんなの、決まってるじゃねえか。

「アレルヤ。それはな、恋だ」
「へっ?」
「お前はニールのことが好きなんだよ」

それを聞いた途端、元々赤かった顔が更に真っ赤に染まった。

「え、ぼ、ぼくが、ニール、を?」
「ニールが気になって気になって仕方ねえんだろ?それなら恋だな」

アレルヤは未だに混乱していて、「え?え?」と繰り返すばかりだった。

「は、ハレルヤ」

やっとの思いで発しただろうそれに、「なんだ?」と返事をしてやる。

「き、気持ち悪くないかな?僕」
「は?なんでだよ」
「だ、だって、男の人が好きって、おかしいだろう?」

ああ、なるほど。元々固定観念は薄い方だったけどニールの件でもう普通になっていた。そりゃあ、そう悩むわな。

「おかしくねえよ」
「ほ、本当?」
「ああ。ニールもそんなこと言うわけねえだろ」

そう言ってやるとアレルヤはほっとしたように笑った。
ニールさんよ。お前の片想いはどうやら実るようだぜ。
けど、もうしばらくアレルヤは俺のでいいよな?
だから、両思いになったことは、俺の心の内に仕舞っておくことにさせてもらうぜ。悪いな、ニール。







どれだけニールが頑張ったのかは書いていませんが相当頑張ってます彼。もう必死です。
アレルヤにOK貰ったら死ぬんじゃないか彼は。
ライルがハレルヤに見られてたじろいだのは、上目遣いがたまらなかったそうです。ハレルヤは勘違いしてましたが。
あとライルはすぐ機嫌悪くなりますがすぐ治ります。基本的にハレルヤにかまってもらいたいのです。とんだかまってちゃんだ。
次はもう前日準備くらいにしようと思います。









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