偽りの幸せと本物の愛


ライル・ディランディ。それが俺の名前だ。
家族は、父、母、兄、妹で5人家族。ニューヨークに住む、どこにでもいるような一般家庭だ。否、だった。
父親が一発逆転を狙って興した自動車事業がまた時代か運か大当たりをし、ヘルズ・キッチンの質素な家からアッパー・イースト・サイドの豪邸へ移り住むことになった。それが、5年前。
手が届かなかった自動車、ラジオ、映画。それらが急に自分の手の届く範囲になり、娯楽が増えた。特にジャズ・ミュージックは流行に逆らわず好きになった。
ただそれが、大衆的には長く続くことはなかった。そう、大衆的には、だ。






1929年10月、ウォール街を発端とした世界恐慌。
会社が次々と倒産していった。街には失業者が溢れ、デモや物乞いが街のあちこちで見かけるようになった。
だが父の会社は、理由はよくわからないが大不況のあおりを受けずに繁栄し続けた。だから、特に金に困るようなことも無く、恐慌の様子を俺はどこか俯瞰してみていた。
同じく裕福な友達と共に大学が終わってからリトル・イタリーにあるお気に入りのスピークイージーで当時禁止されていた酒を飲んで語る。
帰ったら、忙しくても家族を大切にしている父と、優しい母と、厳しくも優しい兄と、可愛い可愛い妹と食事を摂り、リビングで他愛も無い話を続ける。そのうち妹が眠たそうに瞳をこする。そうしたら、お開き。
そんな、ささやかだけど充実した生活を、俺はすごく気に入っていた。






なら、今のこの状況はなんだ?
俺は冷たいレンガの壁に背を押し付ける。押し付けざるを得ない状況だからだ。
目の前には高級そうなスーツを違和感なく着こなした、どう見ても堅気には見えない男が3人。その中の1人が、俺の額に無機質な鉄の塊を押し付ける。ぐり、と強く押し付けられたそれに、俺はなすすべなく恐怖する。

「なあ、本当にこいつなのか?どうもそういう風には見えねえんだが」

俺に銃口を突きつけている奴が、後ろにいる仲間に振り返らず尋ねる。黒い髪から片方だけ覗く金色の瞳は、冷たい色をして俺を睨み続ける。その射殺すような瞳に、俺はまた体を竦ませた。

「こいつっていうより、こいつの連れだ。こいつはしていないけど、連れが逃げたんだからしょうがねえだろ」

答えたのは後ろにいる方の1人、真っ青な長めの髪をした、いかにも遊んでそうな男だ。それより、俺の連れ、ということはパトリックか。あいつが何をしたっていうんだ?

「な、なあ」

怖い。怖いけど、何もわからないまま殺されるのは勘弁だ。だから、意を決して俺は声をかけた。

「あ?」

やっぱり怖い。それだけで人を殺せるんじゃないかってぐらい鋭く尖った声色で返された。でも、声をかけてしまったのだ。引くわけにはいかない。

「俺の、連れが、な、なんかしたのか?」

声が震えて上手く言うことができない。いつ殺されるかわからない状況で、普通に話せるほうが不自然なのだが。
恐る恐る尋ねると、俺に銃口を向けているそいつは、驚いたように目を見開いた。

「お前何もわかってねえのか」
「は、はあ」

俺のその態度から本当に何も知らないことを悟ったのだろう、俺の額が押し付けられていたものから解放された。その安心からか、強張っていた体から一気に力が抜けた。

「それで、どうするんだ。この男」

今までだんまりを決め込んでいた男が口を開いた。他の2人より背が低く、まだ幼い顔つきから年下ということが窺えた。
さっきまで銃口を突きつけていた男、おそらくこの中で1番地位が上なのだろう。そいつが、俺がなぜこんな目にあっているのかを話してくれた。
今日、俺たちは趣向を変えてリトル・イタリーにあるカジノへ足を向けた。そこでそれぞれ好きに遊んでいたのだが、急に連れてこられた。
その理由は、一緒に来ていたパトリックがイカサマをしたかららしい。捕まえようとしたら逃げられたらしいので、一緒に来ていた俺を捕まえたらしい。
理由は、パトリックの居場所ないし自宅を聞き出すためだと。マフィアとして、このまま流すわけにはいかないらしい。なるほど、やっと理解した。

「それで、そいつの自宅はどこだ」
「…それは、教えられない」
「何?」

別に銃から解放されたから強気になっているわけではない。たとえ銃で脅されても、俺はこう答えていただろう。
だってそうだろ?教えたら、友達がどうなるかなんて目に見えている。そんなこと、許せるわけがない。

「てめえ、今の状況わかってんのか」

静かに問われる。そりゃあ、わかってるさ。足が震えて今にも腰を抜かしそうなほど怖い。でも、逃げるわけにはいかない。

「それでも、友達を売るわけには、いかない」

真っ直ぐに睨んで返すと、リーダーの男がにやりと笑った。肉食獣のような笑みに体が強張るけど、それでも睨むことはやめなかった。

「てめえ、名は」
「え?」
「名前だよ名前。てめえの無謀な勇気に免じて、てめえの名前で勘弁してやる」

まあ、そこから調べるなんて容易いからな。
その男は、金色の目を楽しそうに細めてそう言った。その嗜虐心に溢れた瞳に寒気が走った。

「さすがにそれも嫌だなんて通らねえぞ」
「…っ」
「言わねえなら、10秒ごとに撃つ。まあ、急所は外してやるから言わなくても運がよければ助かるかもなあ」

そう言って拳銃を俺に向けながら楽しそうに犬歯を見せて笑った。本気なのは考えなくてもわかった。さすがにこんなとこで死ぬのも勘弁だし、痛いのも嫌いだ。

「ら、ライル」
「あ?なんだ折れるの早えなあ。俺としてはもう少し粘ってもらえると嬉しかったんだけどなあ」

うっそりと笑うそいつに寒気がした。ひゅう、と呼吸が乱れる。

「で、ファミリーネームは」
「…ディランディ」

言った瞬間、空気が変わる。今まで恍惚と笑っていた瞳が驚きに彩られた。傍観していた後ろの2人も驚いた表情をしていた。なんだ?俺、なにか変なこと言ったか?

「ディランディ……。なるほどな」

今まで逸らされなかった金色の瞳が、俺から離れた。そのまま後ろを向き遠ざかっていく。

「帰るぞ、お前ら」

2人はそれに反論も何もせず、ただ黙って従った。黙らなかったのは、俺だ。

「ちょっと待てよ!なんなんだ!人の名前を聞いた途端!何があるって、」

そこまで叫ぶと、ようやっとそいつが振り向いた。鋭い金色の目が、また俺を貫く。

「お前は、本当に何も知らねえんだな」
「何・・・っ」

笑うでもなく怒るでもなく、ただ哀れむような言い方に苛立ちが募った。なんだ、なんなんだよ全く!

「お前の父親、この不況も関係ねえってくらい、事業に成功してるよな」
「は…?」

なんでここで父さんの話題が出てくるんだ?ぽかん、としている俺に、そいつは言葉を紡いだ。

「こんな不況で、正攻法だけで成功すると思ってるのか?」
「え、」
「後はお前の父親に聞いてみるんだな」

そう言い残すと、そいつらはまた歩いていった。俺は止めることもできずに、見送るしかなかった。






家から帰っても、あいつの言葉が頭を支配していた。
あの言い方。ということは、父さんは何か裏で動いている。そういうことになる。それを、あいつは知っている。
どうせ父さんのことだから、この状態で聞いても何も答えてくれないだろう。だから俺は、兄さんに話を振ってみることにした。

「兄さん」
「おう、ライル。どうした?」

兄さんはいつも通りの笑顔で返してくれた。それに少し安心する。

「兄さんさ、あの、なんか、俺さ」
「なんだよ?はっきりしないなー」

どもっている俺に兄さんは笑う。それもいつも通りで、俺は安心して尋ねた。

「噂でさ、父さんが裏でなんかやってるって聞いたんだけど、何か知ってる?」

その瞬間、俺は聞いたことを後悔した。

「え、それって、どこで?」

兄さんは相変わらず笑顔だが、その笑顔が、凍っている。

「え、兄さん?」

強張った顔で、まだ笑顔を作ろうとしているらしいが、上手くできていない。声も、少し震えていた。
ああ、あいつの言ったことは本当だったのか。今まで幸せだと、安らぐと、そう思っていた家も、なにか全て嘘だったように思えてきて、逃げるように自室に戻った。






次の日、極力いつも通り家族と会話をし、足早に大学へ向かった。
パトリックはいつも通りすぎて、少しいらっとして昨日あったことを話してやると、うって変わって何度も謝られた。
だが、大学が終わってからいつものように誘われたので、多分反省はしていないな、こいつは。
でも俺も、まだ家には帰りたくなかったのでいつものようにリトル・イタリーのすっかり常連になっているスピークイージーへ向かった。






いつものカウンター席で、いつものように蜂蜜入りのハニービールを頼んだ。甘いものは好きではないけど、これだけは別だ。
いつものようにパトリックと取り留めなく語り、時たまカウンターにいる綺麗なお姉さんの店員と話す。いつものように。
しばらく飲んでいると、俺の正面、カウンターの向こうにある扉が開いて、1人の男が顔を出した。その顔を見て、俺は絶句した。

「スメラギ、刹那がミルクに入れる分の蜂蜜がほしいって…あ、?」

そこには、まさに昨日銃を突きつけてきた男がいた。俺が、会いたかった男が。

「てめえ、」
「あら?何、貴方、ハレルヤと知り合いなの?」

ハレルヤ、と口の中で反芻する。ハレルヤ、そうか、ハレルヤっていうのか。

「いや、別に知り合いというわけでは…あ、あの、少し話したいことが、」
「ああああ!」

俺の言葉を遮ったのはパトリックだ。隣で煩いくらい叫ばれて、なんだと思い睨むと、パトリックが真っ青な顔をして逃げていった。
ああ、そうだこいつ、昨日イカサマしたんだった。それで俺があんな目にあったんじゃねえか。

「っ刹那!」

ハレルヤもそれに気付いたのだろう。出てきた時も言った名前を叫ぶと、扉の向こうから、また昨日会った背の低い少年が飛び出してきた。そのままカウンターを軽く越え、走って出て行った。

「あら、何かあったの?彼」
「あいつが昨日俺の店でイカサマしやがったんだよ」

すると、スメラギと呼ばれているお姉さんは苦笑した。ああ、そうだ。今はパトリックのことを気にしている場合じゃねえ。

「あの、あんた」

流石に名前を呼ぶわけにもいかず、あんた、と言うと、ハレルヤに思い切り睨まれた。怖いけど、そんなことを言ってたらいつまで経ってももやもやしたままだ。

「なんだ」
「聞きたいことがあるんだ」

できるだけ真剣な表情をして言うと、俺の言いたいことがわかったんだろう、カウンターから出てきて「ついてこい」とだけ言うと、入り口の方へ向かって行った。

「あ、すみません。これ代金。パトリックの分もあると思うんで」

そう言って2人分の代金をテーブルに置いて出て行こうとすると、スメラギさんに呼び止められた。

「な、なんですか?」
「私ね、あなたのこと気に入ってるの。だから、また来てね」

まさかそんなことを言ってもらえると思ってなかったから少し驚いたけど、笑顔で「はい」とだけ返した。






「で、話ってなんだ?」

リトル・イタリーの奥の奥の路地で、ハレルヤは足を止めた。振り返ったそいつのにやにやとした嫌な笑みが苛立ちを募らせた。

「わかってるだろ。俺の父さんのことだ」
「くく、教えてもらえなかったのか」

人を馬鹿にしたような言い方に、苛立ち以外に悔しさが滲んだ。結局こいつだけなんだ、頼りなのは。

「俺の、父さんが、兄さんが、何をしてるっていうんだ」

半ば泣きそうになりながら問うと、そいつは面倒そうにため息を吐いた。

「てめえの父親の会社は、うちのファミリーと関係を持ってるんだよ」

ファミリー。それが、ただの家族という意味ならどれだけよかっただろうか。半分想像していた答えに、それでもショックを隠せなかった。

「兄貴と会ったことはないが、跡継ぎだろうから関わってるんだろうな」

ハレルヤの言葉を呆然としながら聞いた。

「なんで、なんでそんなことを、」
「そんなの、会社の存続の為に決まってんだろうが。そうでもしないと、てめえの父親のところも他と同じように倒産してたんだから」
「そんな、それでもこんなこと!」
「しちゃいけないってか?綺麗事ばっか言ってんじゃねえよお坊ちゃん。てめえの裕福な生活は、どこから来た金で出来てるのかしっかり考えろ」

悔しかった。そんなことに手を染めている父さんも、兄さんも、おそらくそれを黙認している母さんも。俺と妹だけが、知らなかったって言うのか。

「ああ、そうだ。てめえの妹も、数年後深くうちと関わることになる。それも覚悟しとけよ」
「え、?どういう、ことだ」

なんでそこでエイミーが出てくる?しかも、深く関わる、だと?

「てめえの妹が高校を出たら、うちの幹部の1人と結婚することになってる」
「っ、なんだよそれ!なんでエイミーがそんなことに…っ!」

じゃあエイミーは、自分で好きなように恋愛して結婚して。そんな普通なこともできねえのかよ!
怒りにまかせてハレルヤの胸倉を掴む。睨まれたが、それも瑣末なことだと思うほど俺の頭は怒りに支配されていた。

「今日だってデートのはずだが、なんだ、知らなかったのか?」

また、にやにやと楽しそうに笑った。それに怒りが募る。なんだそれ、確かに帰りが少し遅くなると聞いたが、そんなことになってたのかよ。
怒りよりも悲しさや虚しさが胸に押し寄せてきた。そのまま胸倉を放し、ずるずると壁にもたれながら座り込んだ。
ああ、もう、どうでもいい。なにもかも。俺はずっと、あそこで、ひとりなにもしらないまま、えがおで。
嘘だと、冗談だと言ってほしかった。そんなことは絶対にないとわかっていながらも、俺はそう望んでいた。でも、

「はは、は。なんだよ。それ。なんだ、馬鹿みたいだ。俺。嘘ばっかりだ。あんな、ところを、居心地いいなんて、」

俯いて、泣きそうになるのを必死に堪えた。もう駄目だ。俺は、あの家を、自分の家だなんて、思えない。

「お、おい」

ハレルヤが困ったように声をかけてきた。まさかここまでショックを受けるとは思ってなかったんだろう。でも、それに気をかけることも出来ない。

「ま、まあ、妹に関してはそこまで悲観することねえと思うぞ。相手は俺の兄貴だし。…ってこれじゃあ余計不安になるか」

あれ、ハレルヤが俺を慰めてくれてる。結構いい奴なんだろうか。

「えっとなあ、兄貴は俺と違って優しいしお人よしだからお前の妹だって大事にするだろうし、元々マフィアなんて合ってねえような奴だから。だから、」
「く、っ」

やばい、おもしろくて笑っちまった。慰められた、というよりこのさっきとのギャップが面白くて涙も虚しさも引っ込んでしまった。

「な、え、てめえ笑ってんのか!」
「ご、ごめんなさい。いやあ、慰められた」
「あ、明らかに面白がってるだろうが!」

見上げると、顔を真っ赤にしたハレルヤが今にも殴りかかりそうになっていた。なんだこいつ、結構可愛いとこあるじゃねえか。
そして、冷静になって、わかったこともある。そりゃあ、あんなことを1度でも思ってしまった以上、家には戻れないだろう。
でも、みんなの、父さんの、母さんの、兄さんの、エイミーの、家族に対する愛は本物だから、みんな、そうだろうから。だから父さんも、家族を守るために、しょうがなくマフィアと繋がったのだろう。
じゃあ俺も、家族を守ろうじゃないか。

「なあ、ハレルヤ」
「な、なんだよ」

さっきとはうって変わって真剣な眼差しでハレルヤを見つめると、その変わりように驚いたのか、ハレルヤが少したじろいだ。

「俺をお前のファミリーに入れてくれよ」
「はっ?」

何を言ってるんだこいつは、という風に見られた。実際そう思われているんだろう。

「何言ってるんだお前?」

思われるどころか実際に言われた。

「大学も辞める。家も出て行く。下働きからでいいから、やらせてくれないか」
「なんで、お前、いきなり」

何回見ただろう。ハレルヤの驚いた顔。でも今回は前とは違う。俺が、驚かせる役だ。自分自身の意思で。

「家族が俺を守ってくれてる。だからさ、俺も家族を守ろうと思ったんだ」

俺がそう言うと、ハレルヤは目を細めた。今までのような馬鹿にしたような笑みと共にではなく、どこか眩しいものを見るように。

「そうか。後悔は、しねえな?」
「ああ」

迷い無く答えると、ハレルヤがにや、と笑った。嫌味の無い、勝ち気な笑み。それに少しどきりとしたが、なんでだ?

「ああでも、大学は行け。家は、1人暮らしするなら近くに用意できるから」
「わかった」

大学に行けと言われたことに少し驚いたけど、とりあえず頷いておいた。

「よし。じゃあ行くぞ」
「ああ」

ハレルヤの後ろについて、俺は将来への一歩を踏み出した。






数年後、とある高校の前に俺はいた。
そこでは今、特別な祭典が行われている。1年に1回の、卒業式。
なぜ俺が高校の卒業式にいるのかというと、今日、ここで、俺の大事な大事な妹が卒業するからだ。
あれから、1度だけ家に帰って、全てを話した。親にも兄にも妹にも泣かれたし、止められた。だけど、決意は変わらなかった。
荷物を纏めて出て行って、それから家には近寄らなかった。家族にも1度も会わなかった。
今日会おうと決めたのは、エイミーとハレルヤの兄であるアレルヤのことがあったからだ。アレルヤは本当にいい奴で、エイミーのことも本気で、紳士に思ってくれているらしい。
これからエイミーと会うこともあるだろう。なら、今日会おうと思ったのだ。
ちなみに、横にはハレルヤがいる。俺が引っ張ってきたのだ。

「何で俺が…」
「まあ、いいじゃねえか」

ハレルヤがまた文句を言おうと思ったのだろう、口を開けるが、それは第3者の声によって遮られた。

「お兄ちゃん!」

聞き覚えのある、というか決して忘れなかった声が聞こえ、振り向くと、

「エイミー!…と、兄さん!?」

ずっと会いたかったエイミーと、ずっと会いたかったが今日会うつもりはなかった兄さんがいた。

「ライル!お前なんでここに!」
「いや、兄さんこそ…」
「俺は父さんも母さんも来れないって言うから保護者として来たんだが…」

俺も兄さんも呆然としていると、突然体に衝撃が奔った。下を見ると、そこには俺にしがみついたエイミーがいた。

「お兄ちゃん、なんで帰ってこなかったの?」
「ごめんな、エイミーがアレルヤと結婚しても安心して暮らせるように、俺、頑張ってたんだ」

エイミーのサラサラとした髪を撫でてやると、肩を震わせて、ときたましゃくりをあげているのが聞こえてきた。ああ、泣かせてごめんな、エイミー。

「ライル、お前今、」
「ん?ああ、俺、幹部になったんだ」
「…そうか」

兄さんは、少し哀しそうに笑った。出世した俺を喜んでいいのか、マフィアの世界でのし上がってる俺を悲しめばいいのかわからないのだろう。

「俺はさ、こっちから皆を守るから、兄さんたちは、表から家族を支えてくれ」
「…ああ、任せとけ」

まあ、兄さんと会ったのは想定外だけど、言いたかったことが言えたからいいとしよう。
それまでずっと黙っていたハレルヤが小さな声で「そろそろ行くぞ」と言った。なんだ、もう時間か。

「兄さん、エイミー。俺、そろそろ仕事に戻るよ」
「ん、もうなのか」
「ああ、元々空いてなかったところに押し込んだからな。少ししかいられないんだ」
「そうか。…お前、そろそろ1回家に戻ってこいよ」
「ん…まあ、また戻るよ」

嘘だと言うことは、兄さんはわかっているだろう。俺は、戻る気なんてない。
ただエイミーは信じたらしく「絶対戻ってきてね!」と念押しをして、仕方なしに離れた。

「じゃあな」

俺は最後にそれだけ言うと、学校を出た。






「よかったのか?」

学校を出ると、ハレルヤがそんなことを聞いてきた。

「何が?」
「今日別に予定なんてねえじゃねえか」
「まあ…あんまりいると俺のほうが離れたくなくなるからな」

そう言うと、ハレルヤは「そうか」と言い少し笑った。

「今日はハレルヤとのデートの日!だろ?」

俺がマフィアの世界に入って数年、1番変わったことは、ハレルヤという恋人が出来たことだ。まあ、ずっと俺が迫ったからなんだけどな。

「な、ば、馬鹿野郎!」
「あだっ」

まあ、殴られる毎日だけど、それでもハレルヤが可愛いというのは変わらない。
前とは形が随分違うけど、今も俺の世界は光っているのだ。


end.







長くなってしまったような…
あともう途中からどうしていいかわからなくなった。
時代背景などは、ある作品から少し頂いてますが、それだけなので作品を出すのも申し訳ないですんで…
大体うぃきさんで調べました。そんなことしてたら時間すごいかかりましたが、読んでて普通に面白かったです。
1920年代のアメリカとかいいですねー








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