大好きなあなたへ!


高校の入学式の日。俺はわくわくしすぎたせいで早く来すぎた。クラスは確認できたけど、正直道が全くわからない。
恐る恐る入った校舎は、まるで人など最初からいないかのように静かだった。おそらく、今は始業式の最中なのだろう。
彷徨って彷徨ってようやく見つけた教務室は鍵が閉まっていた。なんという不幸。
まずこの学校のつくりはおかしい。なんで2年の教室がある校舎に1つだけ3年の教室があるんだ。なんで3年が2クラスだけ小さな校舎に分けられているんだ。おかしいだろ。
教務室の前で打ちひしがれていた俺は、後ろから人が近づいていることに気付かなかった。

「おい、あんた、」
「うわああっ!?」

急に声を掛けられたことに驚いてつい叫んでしまった。振り返ると、多分声を掛けた人だろう、その人が驚いた表情をして固まっていた。あたりまえだ。急に叫ばれたら誰でも驚く。

「あの、驚かせて悪い。何してるのかと思って」

着心地の悪そうなかっちりした制服。多分同じ新入生なんだろう。緑がかった黒髪が顔の半分を覆っていて重苦しい雰囲気を与えている。

「え、ああ、いや、あの。…教室がわからなくて」

ああ、だせえなあ。折角声をかけてくれたのに。少し恥ずかしくて顔を逸らしていると、気まずそうな声が聞こえた。

「ああ…そうか。…まあ、俺もなんだけど」

ついそっちを見てしまい、ほとんど変わらない目線がぶつかる。3秒後、どちらからともなく笑いが起こった。
これが、俺とハレルヤの出会い。






あれから半年。俺たちはずっと一緒にいた。そう、友達として。もう一度言おう。友達として!
あの出会いからそう間も経たない内に俺はハレルヤに恋心を抱いていた。でも、ハレルヤは友達だし、まして俺たちは男同士だ。一般的に言えば、気持ち悪いだろう。
だから俺は、この気持ちをずっと封じ込めてきた。
そう、どれだけハレルヤがかわいくても、無意識の行動が俺には誘っているように見えても!俺はずっと我慢してきた。でももう限界です!
ハレルヤへの想いが我慢とか理性とかを軽く吹き飛ばしたとき、俺はハレルヤに告白することを決めた。






そうと決まれば善は急げだ!善かどうかと言われれば結構微妙だけど。
メールで「今日の放課後暇?」と送ってみる。ちなみに俺たちは同じクラスだ。しかも席は前後。メールの意味ねえ。
返信はすぐにきた。期待と不安でごちゃまぜになりながらメールを開くと、そこには「真面目に授業受けろ馬鹿」とだけ。
質問の答えがありませんよハレルヤさん!






メールに対する答えは授業が終わった後に了承をもらえた。ハレルヤは見た目や性格に反して真面目だ。そう言ったら殴られた。痛かった。
まあ、とりあえず場は整った。あとは告白の言葉だけだ。とまだ痛む頬を擦りながらにやりと笑う。それにしても痛い。湿布でも貰ってこようかな。
いや駄目だ。頬に湿布貼った状態で告白って、ださすぎるだろ。しかも相手がその頬の原因とか、余計にださい。
とりあえず、痛みを堪えて告白の台詞を考える。ここはスタンダードに好きだ。とか?付き合ってくれとかか?
多分言い回しとか長い気障な台詞とか考えたら殴られる。誰にって、大好きなハレルヤに。うぜえって言われて。
やっぱり好きだ。付き合ってくれ。かなあ。よし、それでいこう。






放課後の屋上。ここは、今の俺にとっては戦場だ。心なしかいつもより空気が張り詰めている。俺の周りだけ。
階段を上がってくる音が聞こえる。ああ、どきどきする。心臓がやけに煩い。
段々と足音が大きくなってくる。比例して心臓も早く鼓動を打つ。
ガチャ、とドアが開く音がした。手が見えた。ハレルヤの、少し浅黒い手。よし、言うぞ。

「あれ?」

そう言ったのは間違いなく俺だ。間抜けな顔をして前にいる人物を凝視する。

「えっと、あの」

それを言ったのは俺ではなく目の前の人物だ。だが、ハレルヤではない。

「アレルヤ?なんで?」

俺の心からの疑問が口から出る。アレルヤは困ったような笑顔で答えてくれた。
それを聞いた瞬間、俺はアレルヤに先に行くことを断って飛び出した。後ろから「教室!」と叫ぶ声が聞こえた。ありがとうアレルヤ。また彷徨うところだった。
もう見知った廊下を駆けながらその先にいる人物に思いを馳せる。

『ハレルヤから伝言を頼まれたんだ』


『待ってる。って』


これは、期待してもいいのか?ハレルヤ。
俺を振り回しやがって。責任、取ってもらうしかねえな。






教室に行くと、ハレルヤが自分の席に座って携帯をいじっていた。窓から眩しいくらいに入る夕焼けの光が目を眩ませる。

「…ハレルヤ?」

ハレルヤが振り返る。だが逆光で表情を窺うことはできない。

「よう、ニール。遅かったな」
「遅かった、って。そもそもなんで屋上に来なかったんだよ」
「ん?ああ、面倒だったから」
「は!?」

面倒って!いくらなんでも酷すぎるだろそれは!やばい、俺泣きそう。

「それに、言いたいことは大体わかってるし」
「へ?」

表情はまだ、逆光で隠れていてわからない、わからない、ハレルヤの心も、隠してしまっているかのごとく。

「今日せっかく言おうって決めたのに先越されるのも癪だし」
「ハレル、ヤ?それって、」

ハレルヤがこちらへ向いて歩き出す。朧げだった輪郭がゆっくりと視認できるようになる。
俺はただ突っ立ってその様子を見ているしかできなかった。

「俺は、俺は、ニール。お前のことが、」

心臓が今までにないくらい早鐘を打つ。まだハレルヤは近づく。こつ、こつ、と上靴が床を鳴らす。
輪郭がはっきりと目に映る。表情が、ハレルヤの真剣な表情に瞬きさえも忘れる。

「好き、だ」

小さく呟くように発されたそれが、俺の聴覚を支配した。
やばい、すごくやばい俺今すごく泣きそう。さっきとは違う意味で。

「…なんか言えてめえ」

すっかり近くまで来たハレルヤを見つめる。多分、すごく情けない顔をしている。だって今、泣きそうなのを堪えているから。必死に。

「ありがとう。ハレルヤ。すごく、すっげえ嬉しい!」

もうこの喜びとか嬉しさとかいろんなものがごちゃまぜになった感情をどうしていいかわからなくて、とりあえず思い切りハレルヤを抱きしめた。






「おい」
「んー?」
「顔がきめえ」
「嘘お」
「今までにないくらいとてつもなくきめえ」

こんなに酷いことを言われても頬の緩みは治まらない。だって夢みたいだ。ハレルヤと恋人同士になれるなんて。にやにやするのはしょうがないだろ?
それに俺は、ハレルヤが照れ隠しで言っているのをちゃんとわかってる。だって、ハレルヤってば照れてるのか少し顔が赤いんだから。ああもう、

「ハレルヤ、すげえ可愛い」
「死ねよ」

殴られました。やっぱり痛い。






「1日に2回も殴られたのは初めてだ。つーかマジで痛い」
「う、悪い。保健室で湿布貰ってくる」

踵を返して歩こうとしたハレルヤの腕を掴む。何すんだ、というように睨まれた。

「そんなんより、ハレルヤが心配して擦ってくれたほうが早く治る」
「馬鹿か」

今度は呆れられた。

「ほら、はやくー」
「う、」

うわあ、ハレルヤ顔真っ赤。そう言ったら「死ね!」と言われた。殴られると思ったらぎこちなく頬を擦ってくれた。
そのときの表情も本当に可愛くて、おずおずと擦ってくる手も暖かくて。ああ、俺、幸せだなあ。






後でちゃんと湿布を貰いに行きました。そこはハレルヤが譲らなかった。
心配してくれてるってことで、いいんだよな?


end.







あまりにも暗い小説を書いたので明るいのが書きたくなって書きました。
ニールが馬鹿っぽくなった。
ハレルヤはどうしてもこんな感じになってしまう…








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -